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枯葉の髪飾りCCⅩⅣ [枯葉の髪飾り 8 創作]

「相変わらず気の利かんもんけん、こいは東京土産じゃなかとですけど」
 吉岡佳世の家の玄関で、中から出て来た彼女のお母さんにそう云って、拙生は三ヶ町のケーキ屋で急遽買った手土産のショートケーキを手渡すのでありました。
「よう来てくれたね、井渕君」
 彼女のお母さんは拙生に上がれと云う手招きをするのでありました。
 居間と襖で隔てられた部屋へ通された拙生は、先ず仏壇の前に正座するのでありました。今度の件で購入されたのであろう仏壇の如何にも真新しい様に、まだ吉岡佳世がこの世を去ってから程ないことを拙生は思い知らされるのでありました。
 形通り線香を立てて鈴を鳴らして合掌してから、拙生は彼女のお母さんの方へ向き直るのでありました。しかしこの場合どのような挨拶の言葉を発したら良いものか全く判らなかったものだから、拙生はただ不細工に一礼するのみでありました。
「何時、佐世保に帰ってきたと?」
 彼女のお母さんが聞くのでありました。
「はい、八月の終わりです」
「八月になったらすぐ夏休みに入ったとやろうに、随分こっちに帰るとの遅かったね。向こうで、なんかアルバイトでもしよったと?」
「いや、そがんわけじゃなたったとですけど、なんとなく暫くダラダラしよったとです」
「まあ今は、あっちが井渕君の生活の場けんが、ちょっと長う離れるてなると、色々用事ば片づけんばけん、結構忙しかったとやろうけど」
「いやあ、そがんこともなかったとばってん・・・」
 拙生がそう云い終ると彼女のお母さんは何かを思い出したかのように、畳に手をついて立ち上がろうとするのでありました。
「ああ、そうそう、お茶ば入れるけん、居間の方に行こうか。あっちの方が涼しかし」
 彼女のお母さんはそう云って立つと、拙生が立ち上がるのを待ってから、一緒に居間の方へ移るのでありました。仏壇の上方の壁には葬儀の時に祭壇に飾られていた吉岡佳世の写真がかけてあるのでありました。拙生はほんの暫くその写真を見上げるのでありました。
「暑かけん、お茶よりファンタグレープの方がよかやろう?」
 台所から彼女のお母さんが少し大きな声で居間に座っている拙生に聞くのでありました。
「いや、どっちでもよかですよ、オイ、いや僕は」
 待っているとすぐに彼女のお母さんは冷えたファンタグレープとコップと、それに拙生が手土産に持ってきたケーキを一つ盆に載せて居間に入って来るのでありました。
「お兄さんは、まあだ帰って来とらっさんとですか?」
 拙生はコップにファンタグレープを注いでくれている彼女のお母さんに聞くのでありました。
「ああ、あの人は佳世の四十九日の時に三日ばっかい帰って来たけど、すぐに京都に戻って仕舞うたと。なんか知らんばってん、あの人もなんだかんだて忙しか人けんねえ」
 彼女のお母さんは紫の液体に満たされたコップを拙生の前に静かに置くのでありました。
(続)
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