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枯葉の髪飾りCLⅩⅩⅨ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 拙生の周囲にも多くの立派な工場の建物が立ち並び、それが朽ちると、今度は幾層も上に重ねた建物を、コンクリートを使って、彼等は建て直すのでありました。より上に、飽かずに建物を、彼等は重ねるのでありました。そうすることが、無上の悦楽であるように。
 空から降って来た黒い鉄の塊が炸裂して、コンクリートの工場を破壊することも、ありました。建物は火を噴き赤い炎に、包まれるのでありました。火が拙生を焦がしたことも、ありました。周囲一面焼け野原と、なったこともありました。
 暫くすると人間達は、今度はそこに木を、並べるのでありました。周りを綺麗に整地して公園を、造るのでありました。色々な災難を、奇跡的に回避してきた拙生の兄弟のような銀杏の木は、まだこの世に生きていてその公園の木々の一つに、なるのでありました。人間達は最後に、拙生の上に木のベンチを、置くのでありました。
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 箏の弦が弾かれたような音がして蝉の声が、消え去るのでありました。「お邪魔だった?」と吉岡佳世が影である拙生に、云うのでありました。その声に起き上がると、銀杏の木の影だった拙生は人の姿に、変わっているのでありました。「病気は?」と拙生が吉岡佳世に、問うのでありました。「もう大丈夫」と彼女は、笑っているのでありました。その言葉にこの上もなく嬉しくなった拙生は、人の姿をしている自分の黒い影を、見下ろすのでありました。影であった拙生に影が、出来ているのでありました。拙生はなにやら妙に誇らしい気が、するのでありました。
 暫くすると「一緒に、海に行こうよ」と云って吉岡佳世は拙生の腕を、掴むのでありました。「受験勉強のあるけん」と拙生は、躊躇するのでありました。「受験は大丈夫。あたしが受けあうから」と彼女は、頷くのでありました。吉岡佳世は拙生の目の前に片手を差し上げて、ハンカチに包まれた大振りなプラスチックのタッパーを、示すのでありました。それは弁当であるとすぐに拙生には、判るのでありました。「あたしが、全部作ったと」と彼女は、云うのでありました。それから彼女は拙生に、麦茶の入った赤い紐と赤い蓋の水筒を、手渡すのでありました。受け取った拙生はそれを肩にかけてから彼女の手を、取るのでありました。彼女は恥ずかしそうに拙生に、笑いかけるのでありました。
 二人は船に、乗っているのでありました。船が揺れると、吉岡佳世の被っている麦藁帽子のつばが拙生の首に、当たるのでありました。彼女の白いTシャツの下に、水筒の蓋と同じ赤い色をした水着が、透けて見えるのでありました。「あたし泳げん」と彼女は、云うのでありました。「水着ば着とるとに?」拙生が首を傾げます。「水着は着てても、それでも泳げんの」そう云って彼女は悲しそうな顔を、するのでありました。拙生は彼女が痛々しくなって彼女を、抱き竦めるのでありました。「誰かに、見られてるかも知れんよ」彼女が小声で、云うのでありました。拙生は慌てて彼女の体から、離れるのでありました。「でも、いいやん、見られてても」と彼女は拙生をその大きな瞳で見つめながら、云うのでありました。拙生はその瞳の中の光が、臆病に体を離した拙生を、咎めるための光なのかどうか一生懸命に、読もうとしているのでありました。
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(続)
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