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枯葉の髪飾りCLⅩⅩⅧ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 そうして、吉岡佳世からの手紙が、全く来なくなるのでありました。前の手紙から十日を過ぎても、拙生のアパートの郵便受けには、彼女からの、隅にシャボン玉をする子供のイラストが描かれた何時もの白い封筒の姿は、ないのでありました。それは拙生に彼女の病状の悪化を予想させるのでありました。しかし明日には来るかも知れないと思って心待ちに待つのでありましたが、二週間を過ぎても手紙は全く届かないのでありました。
 拙生は不安に駆られて彼女の家にもう一度電話をしようと思っていた矢先、心労のためからか、体調を崩してしまったのでありました。それは風邪を拗らせたようでありました。夜に熱っぽくはあったのですが大事なかろうとその儘寝たのでありましたが、朝起きたら全身の気だるさに、拙生は布団から起き上がることが出来ないのでありました。まるで以前の吉岡佳世の手紙に書いてあった、彼女が今度入院した端緒の症状のようだと、ちらと思ったのでありましたが、その儘気を失うように寝入ってしまったのは、恐らく四十度近い熱が出ていたためでありましょう。虚ろな視界の中で、拙生は浅い睡眠と、朦朧とした儘の覚醒を繰り返すのでありました。・・・
 ・・・・・・
 浅い眠りの中で、蝉の鳴き声が、聞こえているのでありました。蝉の声は銀杏の木の、黒い影である拙生の全身に針のように、降り注いでいるのでありました。
 拙生が銀杏の木の影となって、この世に在るようになってからもうどの位の年月が、経過したでありましょうか。この木がここに、陽炎のようなごく脆弱な生を得たその時から、拙生もぼんやりとしたその影としてこの世に、誕生したのでありました。その頃はここは広大な原野で、人の姿等見ることは、なかったのでありました。太陽と雨と風と霧と、草と木々と、地を這う蛇や百足や蚯蚓や、土竜や鼠や猪や狸のような生き物以外には、なにもここには、存在しなかったのでありました。
 残照が消え失せると、拙生は地中深くに隠れて、地の底に棲む虫達に若葉のように、食われるのでありました。しかし日が昇れば、拙生は兄弟のような銀杏の木に寄り添うために再び地表に、浮き上がるのでありました。地表に浮かび上がると、拙生のあちらこちら虫達に食い荒らされた体が、不思議なことに再び元のような、食い穴の一つもないものに、再生しているのでありました。そういった繰り返しが、何日も、何年も、何十年も、何百年も、続くのでありました。銀杏は年ごとに大きくなって、それにつれて拙生も姿を長大に、変化させるのでありました。
 その間、拙生を、何処から現れたのか人の足が、踏むようになるのでありました。人は次第に増えていき、何人もの足が拙生の上を歩き、走り、狩りをし、そうして拙生の上で座ったり寝そべったり、するようになるのでありました。その内に彼等は拙生の周囲を、掘り返し始めるのでありました。遂には拙生の体にも容赦なく、鍬が打ちこまれ、そこに彼等は種を、蒔くのでありました。しかしどんなに変形されても、拙生が姿を消すことは、なかったのでありました。
 次第に、種を蒔くのに倦んだ彼等は、こんどは拙生の上に杭を、打ちこむのでありました。そうして彼等はそこに、工場を建て始めるのでありました。
(続)
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