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枯葉の髪飾りCLⅩⅩ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 五月になって本格的に大学の講義が始まったこともあるし、新しく出来た友人達と更に親交が深まったこともあって、拙生はそれなりに充実した東京での時間を過ごすようになるのでありました。高校のような窮屈な規則も親の庇護或いは監視の目もない生活の快適さは、総てを自分でやらなければならない食事や洗濯や掃除と云った家事の煩わしさを差し引いても、未だ大いに余りがあるように思えるのでありました。
 講義にしても朝八時半からの一時限目からの講義は週の内四日程で、後の二日は十時より後に大学へ行けば良いのだし、講義と次の講義までに二時間程空きがある日もあって、高校の授業に比べればなんとも悠長なスケジュールなのであります。それに宿題等と云う無粋なお土産も、出ることは先ずないのでありますし。無精から朝食は抜きにして昼食は学食でそこそこ満足いく食事を安く摂ることが出来るし、夕食も、やってみて判ったのでありますがそんなに料理を苦にしない性質のようで、学校帰りに駅前の商店街で適当に食材を購入して帰って自炊をすれば、安くて量的には充分納得出来る程を摂取出来るのであります。友達に誘われれば、一定の金額の範囲ではありますが好き勝手な夕食を彼等と一緒にして、その後は何時まで遊んでいても誰に文句を云われることもないのであります。
 夜中に腹が減れば買い置きのインスタントラーメンを啜れば済むし、何時までも起きていてテレビを見たりラジオを聞いたり、朝まで本を読んでいようとも誰かに小言を貰うわけでもなく、眠たくなれば布団を引いてごろんと横になるだけであります。こんな気儘な一人暮らしは高校時代には考えだに出来なかったことでありましたから、拙生は大いに新しい生活に満足するのでありました。これで吉岡佳世が身近に居てくれたなら、拙生はなにも云うことがないのでありました。
 それも、一年の辛抱であります。一年待てば吉岡佳世は東京にやって来る予定であります。彼女は豪徳寺に住むことになるのでありましょうか。拙生のこのアパートの近所に彼女が新しい居を構えてくれれば、拙生としては大いに嬉しいのでありますが、しかし女の子の一人暮らしはなにかと心配でもありますか。それに彼女は体が弱いのでありますから、豪徳寺の親類の家に寄宿する方が無難かもしれません。彼女の住まいが豪徳寺と云うことになっても、それでも拙生のアパートからは目と鼻の先と云うものであります。
 拙生が豪徳寺の彼女の親類の家を訪うと云うのも、まあそんなに頻繁ではなく時々はあるかも知れませんが、なんとなく気が引けるところもありますから、主には彼女にこの拙生のアパートに来てもらうことと致しましょう。ここを拠点にあちら此方と出かけたり、或いはこのアパートの中で二人で気兼ねない時間を過ごすことになるのであります。偶には食材を一緒に買い出しに行って、一緒に料理を作って夕食を共にするのであります。屹度彼女は悠長なスピードで食事をするに違いありません。拙生はハイスピードであります。しかし彼女がどんなに悠長でも誰に気遣いする必要もないのであります。拙生は彼女の食べっぷりをニコニコと笑いながら見ているのであります。
 一年後に展開するはずのそんな光景を拙生は好き勝手に想像しながら、ラジオから流れる音楽を一人で聴いているのでありました。拙生の性懲りもないこのお先走りの妄想が、思えば今までの、それにこれからの、拙生の落胆の総ての基なのでありますが。
(続)
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