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枯葉の髪飾りCLⅩⅧ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 大学が始まると、健康診断やらガイダンスやらの行事と伴に講義の方も開始されるのでありました。外国語とか体育実技とか必修専門科目は別として、自分で選ぶ選択科目を指定単位数分取るために先ずは色々な講義を聴きに行く必要があって、今にして思えばその入学後の一か月間が、初めてのことで気合も入っていたし、慣れないために要領も悪かったせいでもありますが、四年間の大学生活の中で最も頻繁に講義に出席した期間のような気がするのであります。欲張って他学部の講義を履修しようとしたら、普段通っている教養課程のキャンパスではなくて、電車を乗り換えて四十分はかかる本校のキャンパスまで通わなければならない場合もあるのであります。高校よりは大学の方が諸般のんびりしているであろうと云う先入観を持っていたのでありましたが、その先入観よりは遥かに忙しい大学生活が始まったのでありました。しかし高校とはまるで違って自分の裁量で講義を選んで、後日自分の決めた受講スケジュールを大学に提出すればよろしいと云うのは、如何にも新鮮で自由で大人びた制度であるようにも思うのでありました。
 講義で一緒になる何人かとも言葉を交わすようになって、彼等と講義の合間に喫茶店へ行ったり学食で昼食を共に摂ったりするようになると、大学通いにも多少の楽しみのようなものも生まれて、拙生は新しいこの大学生活と云うものに次第に馴染んでいくのでありました。矢張り新しい場所に来たら、新しい知人を早く作るのがそこに慣れる第一の方策であるのかも知れません。吉岡佳世の方はもうクラスの中で冗談が云えるような友達が出来たかしら等と考えながら、拙生の方は新しい友人達と学食や喫茶店や、時に夜の飲み屋へ誘われて行って、ふざけあいながら軽口を交わしているのでありました。
 新しく出来た友人達でよく行動を共にするのは四人程で、長野出身の二浪して大学に入った一人を除いて、後の三人はどうしたものか皆東京近郊で生まれ育ったと云う奴原なのでありました。その長野のヤツはそう変な方言等は口走らないのでありますが、拙生は一応気をつけて方言を控えて言葉を使おうとするものの抑揚が丸っきりの佐世保弁で、時に「なに云ってっか判んねえよ」等と云う苦情を彼等に献上されるのでありあました。しかしそれ程器用な方ではない拙生でありますから、そんな苦情はとんと気にせず佐世保弁混じりで「じっくり聞いとればその内慣れて、ちゃんと判るようになるくさ」等と莞爾として云い放つのでありました。しかし成程連中は都会育ちなのでありましょう、飲み屋や喫茶店で物を注文したり、キャンパスで不意に知人に遭遇したりする時の振る舞い、それになんでもない電車の中での立ち方のようなものにも、皆共通に挙動にさらっとしたもの慣れた身のこなしと、同時にある種の抜け目のなさと云うのか油断のなさと云うのか、そんな様子を両方完備しているように拙生には見えて、それはとても拙生ごとき田舎者が俄かに真似の出来る代物ではないのでありました。
 こう云ったことどもを、拙生は吉岡佳世にせっせと手紙で知らせるのでありました。なるべく文面を明るく、惚けた表現等も駆使して面白おかしく書くのに努めるのは、彼女の気持ちをなんとか浮き立たせたいとの魂胆からであります。彼女からも手紙が三、四日置きに届くのでありましたが、しかし彼女の手紙には学校とかクラスでの彼女の様子に関することは、あまり捗々しくは記述されていないのでありました。
(続)
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