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枯葉の髪飾りCLⅩⅢ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 儀叔父に聞かれる儘、入学式の印象やら明日から拙生が毎日通うことになる大学のこと、それに佐世保の親類の誰彼の話等していると、ようやくに電話を終えた叔母が居間に戻って来るのでありました。
「ほら秀ちゃん、もう一つ電話ばするとやったろう?」
 叔母はそう云って座卓に手をついて座るのでありました。
「うん、そんならもう一本かけさせてもらおうかね」
 拙生は叔母が座るのと入れ違うように立ち上がって玄関の方へ向かいます。居間を出る時に襖を閉めるのは別にこれからする電話での会話を、叔母や義叔父に聞かれるのを嫌ったためと云うわけではなかったのでありますが、まあしかしそう云う気持ちも、別に聞かれて疾しい内容などないのでありますが確かに少々ありはしましたか。
 突然電話などしてどうしたのかと、吉岡佳世や彼女のお母さんに妙に思われるかも知れないと云う躊躇いで、ダイヤルを回す拙生の指にはなんとなく力が入らないのでありましたが、番号を回し終えて耳に当てた受話器から呼び出し音が聞こえている間に、躊躇いよりもこれから吉岡佳世の声が聞けるのだと云う嬉しさの方が勝って、拙生はなんとなく心臓の辺りがざわつくのでありました。
「ああ、どうも夜分済みません、井渕ですが」
 電話に出た彼女のお母さんにそう告げる拙生の声は、愈々吉岡佳世と話が出来る感奮に、判らない程度ではありましょうが少し上擦っていたに違いありません。
「ああ、井渕君、元気しとった?」
 彼女のお母さんの声には、拙生からの突然の電話に少々驚いたような響きがあるのでありました。「ちっと待っとってね、今佳世と代わるけんね」
 受話器が置かれる音がして「ほら、佳世、井渕君から電話」と云う彼女のお母さんの声が少し遠くで聞こえるのでありました。それからほんの暫くして置かれた受話器が取り上げられる音の後に、待望の吉岡佳世の声が拙生の耳に飛びこむのでありました。
「井渕君?」
 そう云った後彼女の声は少し途切れるのでありました。「あの、ええと、・・・どうしとったと?」
「うん、まあ別に普通に、しとったばってん」
「もう、吃驚した。電話のかかってくるて、思いもせんかったから」
「ちらっと、声ば聞きとうなったけん、それで」
「公衆電話?」
「いいや、叔母さんの家からかけさせて貰うとると」
「ああ、そう。・・・」
 思いもしなかった拙生からの電話だったのでありましょう、吉岡佳世は混乱してその後に何を話していいのか判らないと云った風でありました。ほんの少しの沈黙に、彼女が少々うろたえているその気配が受話器から伝わってくるのであります。拙生としても久しぶりの彼女の声に大袈裟に云えば感動して、何を話せばいいのか判らないのでありました。
(続)
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