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枯葉の髪飾りCLⅩ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 依って、叔母と義叔父夫婦だけの住まいに拙生がちょくちょく出入りするのも、その生活の侘びしさを紛らわす一助になろうかと拙生は勝手な解釈等して、厄介をかけることを強引に正当とするのでありました。まあ、拙生は叔母とは何故か昔から気があって、遠慮のない間柄と云う風でありましたから、その存在は拙生が東京生活をする上で元々、大いに頼りにするところではありましたか。
 買い物から部屋に帰って来ても要は先程購入した家具類が配達されて来なければ、段ボール箱の中の物を整理することも叶わないわけで、新しい部屋の片づけ作業は畢竟頓挫するのでありました。拙生は段ボール箱を部屋の隅に移動して布団を敷くスペースを確保したら、取り敢えず机の引き出しに入れる物を元在った通りに入れ直して、それでその日の整理作業を終了とするのでありました。
 暫くして叔母が鍋釜包丁、それに当座必要な一人分の食器類、それにパン焼きのトースターまで持ってきてくれるのでありました。それ等は叔母の家で今は使っていない物と云うことでありました。
「他になんか気のついたら、また持って来るけんね」
 叔母はそう云うのでありましたが、男の一人所帯にそれ程細々とした生活用品も必要なかろうし、結局拙生は使わず仕舞いに終わるからと、それ以上の供与を遠慮するのでありました。
「いやあ、そがん細々と要らんよ。オイはどうせ無精かとけんが、炊事なんかもまめにするはずのなかもんね」
「ああそうね。まあ、あんまり一杯持ってきても、狭い部屋けん邪魔になるかも知れんね。そんなら、要る物があったら、そん時に云うてくれたら持ってくるけんね」
「うん、有難う。そん時は頼むけん」
 それでも鍋釜茶碗が炊事台や棚に納まると急に生活感が出て、それなりにこの部屋が呼吸を始めたような気がしてきて、なんとなく拙生はほっとするのでありました。
 片づけ作業がそれ以上の進展を望めないのでありますから、その日の拙生の仕事はもうないのであります。拙生はそこだけはすぐにでも使えるようになった机から椅子を引き出して座り、写真立てを手に取るのでありました。銀杏の木に片手を添えて吉岡佳世が手持無沙汰になった拙生を見て笑っています。写真を見ていると、昨日佐世保駅のホームで、動き始めた列車を追うように歩きながら、此方を悲しそうな目で見ていた彼女の顔が蘇ってくるのでありました。その顔は微笑んでいる写真の彼女の顔とはまるで違って、かき抱きたくなるくらいに痛々しかったのでありました。拙生が居なくなった佐世保で吉岡佳世は今なにをしているのだろうかと考えると、狂おしいくらいに彼女に逢いたい気持ちが募るのでありましたが、それは夏になるまで叶わない思いでありました。
 拙生が引き出しから便箋を取り出してそこへ文字を綴り始めるのは、吉岡佳世に手紙を書こうと思い立ったからであります。じかに彼女の表情を見ることも出来ないし、その柔らかな唇にも細い肩にも触れることは出来ないし、彼女の声も聞くことが出来ない手紙と云うもどかしい交感手段に、拙生は一先ず熱中するのでありました。
(続)
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