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枯葉の髪飾りCLⅦ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 その吉岡佳世の言葉を拙生はどう云うものか、変に不吉に聞いたのでありました。ここで別れたが最後、拙生と彼女はもう二度と見えることが出来なくなるかも知れないと云う、彼女の必死の声が言外に潜んでいると云うような風に。勿論、拙生の突拍子もない勘の冴え(!)、或いは深読みのし過ぎであると思われたから、拙生はその不吉な思いつきを急いで頭の中から掃い落とそうとするのでありました。
「久しぶりけん、あたしもちょっと、乗ってみようかな」
 拙生の指定寝台のある車両まで来て、恐らく屈託ない好奇心から、吉岡佳世はそんなことを云うのでありました。彼女の表情には少しワクワクしているような色が浮かんでいるのでありました。
 寝台は未だ設えられてはおらず、向かいあわせの六人が座るボックスの儘になっている席には誰も居ないのでありました。吉岡佳世は窓際に腰を下ろすともの珍しそうに辺りを見回すのでありました。拙生は旅行カバンを背伸びして荷物台に載せてから彼女の横に座るのでありました。
「小学生の時に乗ったことのあるけど、なんかその時より、寝台の少し、広くなってるような気のする」
 吉岡佳世が云います。
「その頃は多分乗務員が、手でガチャンて寝台ば引き出す方式のヤツやったかも知れんけど、今はボタンば押せば電動で、二段目の寝台のビーンて降りてくるとばい」
「へえ、そう」
 吉岡佳世は何時までもボックス席の中の様子を眺めているのでありました。拙生が彼女の手を握ると彼女は漸く拙生に目を向けて拙生の手を握り返すのでありました。少しの間言葉がなくなるのでありました。
「もうそんなに時間がないから、なんか大事な話ばせんといかん、て思うとけど、なにを話したらいいのか、あたしちっとも判らん」
 吉岡佳世がそう云って拙生に身を凭せかけるのでありました。拙生もたくさんの交わすべき言葉がありそうで、その内の一つだに口から先には出てはこないのでありました。
「そうね、オイも今頭の変に混乱しとって、なんば話してよかとか、よう判らん」
「行ってらっしゃいて、元気に云うのがいいと思うけど、なんか元気には、云えそうもないし。井渕君が行ってしまうとば嘆いても、仕方ないし。夏に、井渕君が帰ってきてからの話とか、あたしの来年の話とかするには、そんな時間は、もうないし・・・」
 吉岡佳世の拙生の首に回した手に力が籠るのでありました。その力に、拙生から離れまいとしている彼女の焦燥をその儘映した、或る種の荒々しさ、若しくは痛々しさが感じられるのでありました。
 二人は夫々の口から言葉を吐き出せないもどかしさをとり繕うように、何度か唇を重ね、きつく抱きあうのでありました。車内に人が入って来る気配に互いの体を離すのでありましたが、彼女の指が拙生の唇にほんの少し触れるのが未練納めの仕草でありました。そうしてもう数分もせずにドアが閉まると云うアナウンスが頭上に流れるのでありました。
(続)
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