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枯葉の髪飾りCLⅢ [枯葉の髪飾り 6 創作]

「あたしさ、屹度、井渕君が傍に居なくても、大丈夫て思うよ」
 吉岡佳世は拙生の手に視線を落としたままで云うのでありました。「それは涙の出るくらい寂しかし、心細いとやけど、でもここであたしが頑張らんと、来年東京で大学生になれんし、そしたら井渕君と計画している、東京での楽しい学生生活も、実現せんようになるしね。そう考えたら、ちょっと気持ちの奮い立ってきたの」
「お、そうや。そいは、良か傾向ばい」
「その内、あたしの体調も良くなるやろうし、夏休みになれば、井渕君も帰って来るし、そうしたら、二人で海にも行きたいしさ」
「うん、そうそう。その通りばい」
「くよくよしとっても、始まらんもんね。そうやろう?」
「そうそう。前向きに考えたら、全部が好転するくさ。後ろばっかい見とっても、なんも解決せん。先の全然見えんわけじゃなかとやけんが、その見える先に向かって、前進あるのみばい」
 拙生は吉岡佳世が気持ちの上向きを表明してくれたことが嬉しくて、我が身を省みず軽はずみに声まで弾ませて偉そうなことを口走るのでありました。
「だからさ」
 吉岡佳世は拙生の目を強い視線で見るのでありました。「井渕君、安心して、東京に行ってね。それに、あっちであたしのことは、あんまり気にかけんで、一杯色んなことしてね。あたしは、大丈夫やからね」
 拙生に心配をかけまいとしてでありましょうが、彼女はそんな健気なことを云うのでありました。その彼女の気持ちが嬉しくて、拙生は彼女を引き寄せてその唇に唇で答礼を返すのでありました。
「夏に帰ってきたら、あっちでの色々なこと聞かせてね、楽しみにしてるから」
 吉岡佳世が拙生の手を両手で握って云います。
「判った。お土産話ば一杯持って、夏に帰って来るけんね」
「でもさ、時々でよかけど、思い出してよね、あたしのことも」
 吉岡佳世が殆ど顔を接するくらいの距離で拙生を見ながら云うのでありました。
「時々どころか、何時もお前の事ば第一に考えとるくさ。当たり前やっか」
「それから、夏に帰って来た時、顔つきとか服装とか、髪型とか、あんまり今と変わらんでおってね。そうじゃなかったら、あたし再会した時、まごつくかも知れんからさ」
「どがん気取ったてしても、変わり映えなんかするもんか、この顔が」
 拙生はそう云って自分の顔を指差して見せるのでありました。
「でも、東京に行ったら、雰囲気とか急に、見違えるようになるかも知れんし」
「いや、急に見違えるごとなるとは、大体は女の方ばい。男はあんまり変わらんやろう。お前の方こそ、ガラっと変わっとるとやなかやろうか」
「でもあたしは、まだ高校生けん、今となあんも変わらんはずよ、多分」
 吉岡佳世はそう云った後、拙生から目を逸らすのでありました。
(続)
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