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枯葉の髪飾りCLⅡ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 まあ、彼女の部屋からそんなに遠くない居間に居る彼女のお母さんを思うと、外で吉岡佳世と逢う時に比べれば気兼ねがありはするのでありますが、しかし部屋で彼女と二人で過ごす時間も、それしか選択肢がないとなったら、拙生にはそれなりに楽しい一時になったのでありました。外のように何処かに誰かの目があるかもしれないと意識して、居住まいを正しておかなければならないような類の窮屈さからは解放されているし、部屋の外の気配をだけ気遣っておれば、二人がどんなに顔を寄せあってデレデレと話をしていても勝手なのでありますし。それに彼女のお母さんは部屋の外で中の様子に聞き耳を立てていたり、不意に部屋のドアを開けたりするようなタイプの人ではないのであります。事実これまで一切、彼女の部屋で二人きりで過ごす我々に干渉することはなかったのでありましたから、そう云う心配も万々が一程度で済む話であります。
 彼女の部屋のベッドに二人並んで座って手を取りあって、色々な話に興じているのは気持ちの良い時間でありました。もし彼女の心臓や肺になんの不都合もなかったならば、拙生は屹度彼女と手を繋いでいたり、時々座ったまま恐る々々彼女の体を引き寄せて唇を重ねたりすること以上の行為に及んだかもしれません。しかし彼女の体のことを慮ると、拙生には手荒に彼女に負担を迫ることがどうしても出来なかったのでありました。ここが自制の見せどころなのだと拙生は信じていたのであります。まあそれに、そんなことをしなくとも吉岡佳世と二人きりで身を寄せあって過ごす時間に、拙生は充分満足していたのでありましたから。
 翌日も彼女の体調は今一つ優れないのでありました。ですから彼女の家を訪ねた拙生は居間で彼女のお母さんと、たまたまその日は家に居たお兄さんとそれに彼女と四人で寛いだ時間を過ごし、それから彼女の部屋に彼女と二人で引き取るのでありました。
「なかなか熱の下がらんね」
 拙生は部屋でベッドの上に並んで座ると、彼女の額に掌を当てて云うのでありました。
「うん、でもほんの微熱で、別に辛いわけじゃないから」
 吉岡佳世はそう云ってから額に当てた拙生の手を取ってそれをそこから離して、自分の太腿の上で指を絡めるように握り直すのでありました。拙生の手の甲に彼女の体温が浸みてくるのでありました。その体温は特段高くは感じられないのでありました。
「まあ、こうして起きて居られるとやから、それはそうかも知れんばってん」
「多分、外でデートしても大丈夫て思うよ、あたし」
「それはダメ。新学期の始まったら、嫌でも毎日学校に行かんばならんとけんが、それまでに体調ば万全にしとかんと。今年は受験勉強もあるとやからね」
「後三日したら、井渕君、東京に行ってしまうとよね」
 吉岡佳世はそれ以上の、自分の体調に関わる話を避けるように話題を変えるのでありました。
「うん、もうすぐ」
 拙生がそう云った後に二人は暫く黙るのでありました。吉岡佳世は自分の太腿の上の拙生の手を見ながら、両手でそれを無言の儘弄ふのでありました。
(続)
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