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枯葉の髪飾りCLⅠ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 吉岡佳世と公園で待ちあわせしなかったのは、結果として賢明な判断であったと云うことになったのでありました。彼女の体調は翌日崩れたのでありました。と云っても微熱と体のだるさがあると云った程度ではありましたが。
「大丈夫やから、公園に行こうよ」
 吉岡佳世は拙生にそう云うのでありましたが、彼女の方ももうすぐ復帰する高校の新年度が始まるわけでありますから、ここで彼女に無理をさせるのは慎むべきことであると考えて、拙生は外での彼女とのデートを断念するのでありました。
「うん、そいがよか。流石井渕君、ちゃんと考えてくれとるね」
 拙生が彼女を宥めるのを横で聞きながら彼女のお母さんがそう云うのは、屹度吉岡佳世がこのくらいの体の不調は問題ないから拙生と外でデートすると、拙生が現れる前にお母さんの危惧を聞き入れずに云い張っていたからでありましょう。
「もう後何日かで、高校の授業の始まるとやけんが、出来るだけ今の内に、体調ば調えとかんばばい。学校の始まってから、またちょくちょく休むようになったりするぎんた、オイとしても安心して東京に居れんやっか。」
 拙生は吉岡佳世の膨らませた頬に向かって云うのでありました。
「でも、大丈夫て、思うけどね」
 吉岡佳世はそう云ってその日の外でのデートに未練を表明しながらも、拙生と彼女のお母さんの説得を渋々と云った顔で受け入れるのでありました。拙生は彼女の拗ねたような表情も案外可愛いものだと秘かに思いながら、しかし手術以来彼女の体が前より壮健になったようにちっとも見えないのは、いったいどう云うことだろうと考えるのでありました。
 拙生としては心臓の不具合が手術によって取り除かれたら、彼女は見違えるように健康を取り戻すと単純に考えていたのでありましたが、どうやらそうでもないのであります。微熱であるにしろ発熱の頻度は寧ろ前よりも増しているのではないでしょうか。
 前の年の夏に彼女は拙生と海へ行くことが出来たのであります。彼女はそれは泳ぎはしなかったのではありましたが、砂浜を拙生と手を繋いで散歩したり岩場で磯遊びも出来たのでありました。今の彼女を見ていると、あの時の夏の日差しに彼女の体が耐えられるとは到底思えないのであります。今の彼女の方が八ヶ月前の彼女よりも寧ろ弱々しくなっているとすれば、彼女にとってあの大変な手術はいったいなんだったのでありましょうか。
 いやまあ、将来の体の恢復は保証されているものの、あの手術そのものの負担からの恢復が遅れていると云うのかも知れません。大変な手術であったわけでありますから。そう考えなくては拙生の不安の渦はその勢いを増すばかりであります。
「なんで、急に黙ると?」
 吉岡佳世が拙生に聞くのでありました。「あ、外でデートしないて決まった後で、急に外でデートしたくなったとやろう。今からでも変更は大丈夫よ。外でデートしたいとなら、つきあうよ、あたし」
「なんば云いよっとか。外はダメて云うたらダメ。変更なし」
 拙生が云うと吉岡佳世は口を引き結んでその円らな瞳で拙生の顔を睨むのでありました。
(続)
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