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枯葉の髪飾りCⅩLⅨ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 翌日吉岡佳世を家に訪ねると、彼女は前の日の拙生との外での逢瀬にも、執心の仔犬が他の誰かに買われてしまったと云うショックにもめげず、体調を崩すことはなかったのでありました。拙生は彼女の様子が昨日と変わりないことに先ず安堵するのでありました。
 仔犬の件はひょっとしたら単に誰かに先を越されたと云う無念さも然ることながら、拙生がもうすぐ彼女の傍を離れて東京に行ってしまうことの悲痛な暗喩として、若しくは拙生と彼女の仲がこの先辿る結果の前兆として、彼女が変な風に考え過ぎたりはしないだろうかと、まあ、拙生の大袈裟過ぎる取り越し苦労からではありますが、秘かに心配していたところではあったのでありました。しかし見た目の上では彼女の拙生に対する態度はなにも変化がなさそうでもあり、その表情にも翳りが認められないのでありました。
 彼女の家で、拙生は先ず居間で彼女のお兄さんに挨拶をするのでありました。
「大学に受かったて云うことは聞いとったけど、よう頑張ったばいね。井渕君おめでとう。東京には今週末に行くとてねえ?」
「はい。もうそがん佐世保に居る時間は長うなかとです」
「もう、用意とかは大体済んだとや?」
「こっちから送る荷物は、明日出すことになっとるとです。まあ、叔母一家のやっとらすアパートに転がりこむとやけんが、大した用意て云うともなかとですよ、実際。オイがこの体ば東京まで運んだら、それだけで完了て云う感じですかね」
「叔母さんのアパートに入るとなら、見知らん土地でも、少しは心強かかも知れんね」
「その代わり、監視の目が、何時も傍にあるて云うことですばってん」
「ああ、羽目の外せんことも、あるかも知れんね、それは」
「羽目なんか外したら、ダメよ井渕君」
 吉岡佳世のお母さんが横から話に加わるのでありました。「一人暮らしで自由になったからて云うて、なんでもして良かわけじゃなかけんね」
「そいは、実はオイに云いよるとやろうか、このオバさんは?」
 彼女のお兄さんが云うのでありました。
「一人暮らしの気儘さから、勉強もせんでアルバイトばっかりして、ほれスキーだ飲み会だ麻雀だて遊びまわって、挙句の果ては、オートバイの免許ば取るとか云い出すごとなったら、それこそダメよ。そがんとは学生のする本業やなかけんね」
「ああ、矢張りオイのことやったばい」
 彼女のお兄さんがそう云って頭を掻きます。
「井渕君、アルバイトとかすると?」
 吉岡佳世が聞きます。
「うん、仕送りだけぎんた心もとなかけん、チョコチョコする積りではおるけど」
「アルバイトなら、水商売のアルバイトが実入りのよかぞ」
 彼女のお兄さんがそんな知恵をつけてくれるのでありました。
「水商売のアルバイトなんか、したらダメよ、井渕君!」
 彼女のお母さんはそう云って彼女のお兄さんを怖い顔をして睨むのでありました。
(続)
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