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枯葉の髪飾りCⅩLⅦ [枯葉の髪飾り 5 創作]

「あたしの親類は、豪徳寺て云う処に居らすとよ、前に云ったかも知れんけど」
 吉岡佳世はホットミルクを一口飲んで続けます。
「うん、豪徳寺はそがん遠くじゃなかばい、オイの住むアパートから。小田急線で駅四つくらい先にあるかね。尤もアパートからは本当は、京王線の駅の方が近いとやけど」
「駅四つ先なら、結構遠くにならんと?」
「佐世保線とか松浦線の積りで云うたらそうばってん、あっちは駅と駅の間の短かかけん、こっちで云うなら、バス停四つ先くらいの感覚かね」
「ふうん。バス停四つなら、そんなに遠くないか」
「そうやろう」
「井渕君が今云った、路線とか駅の名前、後で地図で調べてみよう」
「来年お前が東京に出て来たら、彼方此方、色々連れて行ってやるけんね」
「うん、二人で、色んな処行こうね」
「時々、横浜とか鎌倉とか、遠出もしようで」
 拙生が云うと吉岡佳世は目を見開いて拙生を見ながら、さも嬉しそうに同意の頷きを何度も返すのでありました。
「ああもう、来年が待ち遠しくなってきた、あたし」
「そうね。オイも待ち遠しか。ばってんがぞ、そのためには受験勉強ば、必死になってこの一年せんばダメとばい。そうせんとお前、来年東京に住めんとやからね。まあ、オイがこがんこと云うのも、なんばってん」
 確かに吉岡佳世のおまじないを最大の頼みに大学受験して、まったくの幸運から三校受験した大学の内の一つになんとか引っかかった拙生でありましたから、そんな偉そうな訓戒を垂れるのは如何にも身の程知らずであると反省して拙生は頭を掻くのでありました。
「そうね、あたし、絶対頑張るからね、この一年」
「ばってん、体の調子と相談して、あんまい根ば詰めたりしたらダメけんね」
 拙生としては彼女のことでありますから受験勉強の方は着実にこなすでありましょうが、そのために彼女が体に無理をさせはしないかと危惧してそう一言するのでありました。
 あんまり彼女が疲れても宜しくなかろうと云う判断から、拙生はぼちぼち帰ろうかと云いながら支払い伝票を取るのでありましたが、吉岡佳世は口を引き結んだ顔をして、もう帰るのかと云う不満の意を表するのでありました。
「ああそうだ、帰る前に、この前のペットショップに、ちょっと寄らん?」
 吉岡佳世が提案します。
「疲れとらんや?」
「うん、大丈夫。何ともないよ、あたし。あの仔犬に会ってから、帰ろうよ」
 と云うわけで拙生と吉岡佳世は喫茶店を出ると、すぐ横の三ヶ町アーケードへと足を向けるのでありました。ペットショップまでは然したる距離でもなくて、彼女の体に障ることも、まずなかろうと拙生は思うのでありました。それに拙生自身にしても、まだもう少し彼女と一緒に居たかったものでありますから。
(続)
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