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枯葉の髪飾りCⅩLⅤ [枯葉の髪飾り 5 創作]

「あと五日で、井渕君、東京に行ってしまうとよね」
 公園の何時ものベンチに並んで腰かけてから吉岡佳世が云うのでありました。
「うん。ま、夏までチラっと、東京に行って来る」
 拙生は二人がそんなに長い期間離れているわけではないと云ったニュアンスを強調するために、そんな風な云い方をするのでありました。しかし吉岡佳世はいかにも心細そうに拙生を少し上目遣いに見るのでありました。
「なんか、時間のことは、考えないようにしようて思うとけど、ついあたし、あと何日で、井渕君が東京に行ってしまうて、数えてしまうと」
「そりゃ、オイも同じやけど、まあ、仕方なか」
「そうね、仕方ないて、判っているとやけど・・・」
 吉岡佳世はそう云って拙生から目を逸らせて少し遠くを見るのでありました。「ご免ね、こんな、泣き言みたいなことばっかり云うて。こんなくよくよしてたら、嫌われるね井渕君に、屹度」
「いや、嫌いはせんばい、お前がなんば云うても」
「本当?」
「うん、本当」
「よかった。でも、もうこれから先、くどくどと泣き言は、云わんようにするね。そんな話で、井渕君とあと五日間、過ごしとうなかしね」
 吉岡佳世はそう云って笑顔を作るのでありました。拙生は彼女が愛おしくなって掌で彼女の頬に触れるのでありました。
「あ、そうだ」
 吉岡佳世が急に声の調子を変えるのでありました。「お兄ちゃんさ、明日帰って来るとて」
「ああ、そうや明日か」
 拙生は彼女の頬から掌を離します。「そんなら、明日ちょっと挨拶の出来るばいね」
「そうね、もう昼には家に居らすて思うけど」
 吉岡佳世は拙生の離した掌を素早く掴んで、それを自分の頬にもう一度導いてから云うのでありました。
「用心のために、明日はお前と外で逢わんで、オイがお前の家に行こうて考えとったから、丁度都合の良かったばい」
 拙生は彼女の頬や顎の先端を指で触りながら云うのでありました。
「明日はあたし、熱は出さんて思うよ。今日もしこの後、チューしたとしても」
「・・・まあ、その、ええと、一応、用心のためくさ」
「でも、その次の日は、外で逢おうね」
 吉岡佳世が彼女の口元に添えた拙生の指に軽く唇を押しつけるのでありました。なんか映画の中で観たような恋人同士のいちゃつきあいを、今自分が吉岡佳世と演じているのだと思って拙生は陶然となるのであります。この後に唇と唇の交感に進展するのは、至極自然な成り行きと云うものでありました。
(続)
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