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枯葉の髪飾りCⅩLⅡ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 その後暫く彼女と他愛もない話をして、拙生は椅子から立ち上がるのでありました。繋いでいた彼女の細い腕がそのために布団の外に出てくるのでありました。
「そんなら、今日はこれで帰ろうかね」
「もう帰ると、井渕君?」
 吉岡佳世の手がまだ帰るなと云うように一瞬拙生の手を強く握り締めます。
「うん、そろそろ夕方になるけん」
「明日も、来てくれるとやろう?」
「うん、来る」
 拙生をじっと見つめながら吉岡佳世が拙生の手を引くのでありました。拙生は抗わないで引かれるままもう一度椅子に腰を落とします。
「じゃあさ、さようならのチューして。もう、それで胸苦しくはならんからさ」
 吉岡佳世はそう甘ったれた声で云って目を閉じて口を尖らせるのでありました。それがいかにもおどけた仕草であるのは、彼女自身がそんなことを拙生に要求する自分に大いに照れているために違いありません。しかし拙生以外には、そんなおどけたもの云いや甘え方など彼女は決してしないはずであります。彼女の拙生だけにしか見せないもう一つの表情なのでありましょうから、そこまで深く打ち解けてくれていると思えば拙生としても返って嬉しくなってくるわけであります。
「お母さんの急に、部屋に入って来らすかも知れんやっか」
 拙生がそう云うと吉岡佳世は目を開くのでありました。
「大丈夫さ。さあ、ほら、早く」
 彼女はそう拙生を激励して(!)また目を閉じるのでありました。観念した拙生は彼女の唇に自分の唇を乗せてすぐさま離れるのでありました。離れてから彼女を見下ろしたら、そんな度胸も愛想もない拙生の行為が物足らないとでも云うようにその柔らかな唇は窄められたままでありました。彼女の唇を間近に見ながら、拙生としてもなにやら勿体ないことをしたような心持ちになるのでありました。
 拙生が椅子から立ち上がると吉岡佳世もベッドの上で上体を起こします。
「じゃあ、玄関まで送っていく」
 彼女はそう云ってベッドから足を出して床に下ろすと、繋いだ拙生の手を頼りに立ち上がるのでありました。
 拙生は彼女の部屋を出ると居間でテレビを見ている彼女のお母さんに声をかけるのでありました。
「ほんじゃあ、これで失礼しますけん」
「あら、もう帰ると?」
 彼女のお母さんが拙生の方をふり向いてそう云って立ち上がってから、拙生の後ろに吉岡佳世が立っているのを見て続けます。「佳世、あんた起きて大丈夫と?」
「大丈夫さ。大体、そんなに寝てる程、体の辛いわけやないとやから。もう熱もすっかり、下がったような気がするもん」
(続)
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