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ここを過ぎてお笑いの市Ⅰ [時々の随想など 雑文]

 以前はよく布団に入って、傍らのカセットテープレコーダーから落語を流しながら眠りに就くのでありました。夜中に夜具にもぐりこんだら丁度一席終わる頃に眠りに落ちると云う寸法であります。寝しなの、現の時間からお笑いの市(まち)への些細な旅行であります。きっと夢見も良かろうと思われるのでありましたが、そこは思惑通りに運ばないもので、殊更笑いに満ちた吉夢を見ることもなかったように思うのでありますが。
 その頃好んで聴いた噺と云えば、先ずは三代目古今亭志ん朝師匠の『愛宕山』『品川心中』『居残り佐平次』『火焔太鼓』『二番煎じ』、志ん朝師匠のアニさんの十代目金原亭馬生師匠の『花見の仇討』、十代目柳家小三治師匠の『天災』『付き馬』『野ざらし』、五代目春風亭柳朝師匠の『宿屋の仇討』、上方落語では三代目桂小文枝(五代目文枝)師匠の『稽古屋』『天王寺詣り』、三代目桂春団冶師匠の『野崎詣り』『代書屋』、二代目桂枝雀師匠の『鷺とり』『八五郎坊主』『宿替え』『住吉籠』、三代目笑福亭仁鶴師匠の『池田の猪買い』『初天神』『延陽伯』、前の桂小染師匠の『うどん屋』等でありました。時折三代目三遊亭圓歌師匠の『中沢家の人々』、五代目春風亭柳昇師匠の新作もの、柳家かゑる(五代目鈴々舎馬風)師匠の『落語協会会長への道』、ちいとお古いところで六代目三遊亭圓生師匠の『死神』『寝床』、志ん朝師匠のお父さん五代目古今亭志ん生師匠の『替り目』、三代目三遊亭金馬師匠の『小言念仏』等も聞くのでありました。
 噺家と噺の組み合わせは聞く人によって夫々好みがあるでありましょうし、上記はその師匠の十八番と云うわけでもないかも知れません。『火炎太鼓』は志ん生師匠の方を好む方もおられましょうし、『池田の猪買い』は枝雀師匠の方を面白いと思われる仁もいらっしゃるに違いありません。上記はあくまで拙生の好みと云うことであります。
 拙生の落語の聴き方てえものは、日によって色々な噺家の色々な噺を聞き替えると云うものではなくて、荷風散人の食事の癖と同じで、一つ噺を一週間でも二週間でも、場合によっては一月でもそれ以上でも、繰り返し枕辺に流すと云うものでありました。まあここで永井荷風の名前を態々出すのも唐突ではありますが、そう云えば散人も若かりし頃の一時期、六代目朝寝坊むらく師匠に弟子入りして、三遊亭夢之助と名乗って落語家を志したこともあったのでありましたか。
 それはさて置き、これは拙生が目的を持ってその噺を覚えんかなと目論んでいるとか、拙生の偏屈とか、そう云うことではなくて詰まり何時も噺の途中で不覚にも寝入ってしまうがためで、なんとなく尻切れトンボが嫌さに毎夜々々同じ噺を聞き続けるのでありました。拙生としては噺の下げに聴衆からの拍手が沸き起こった端、ストンと眠りに落ちるのを理想としておりましたが、そう上手くはことが運ぶことなんぞ、ざらにはないのでありました。
 長い間、夜な々々一つ噺と格闘(!)して、噺半ばで寝入ることなく最後まで噺を聞き了えて達成感があったならば、ようやくにその噺はお仕舞いとなって、次の日の夜から別の噺に取りかかるのであります。尤も、時に噺が終わってもまだ寝つけずにいる場合も稀にあって、そう云う時はなんとなく無人の荒野に只一人取り残されたような寂寥感に苛まれるのでありました。
(続)
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