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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩⅧ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 成程、吉岡佳世が自分で云うように、彼女の食べっぷりと云うものは如何にも祐長でありました。先ずスプーンに掬う量が少なくて、熱いものだからそれを冷ますために丁寧に息を吹きかけ、注意深くそれを口の中に含み、恐る々々咀嚼するのであります。それから口の中の物をすっかり嚥下してから、徐に次の一掬いにかかるのであります。食いっぷりのせっかちでは人後に落ちない拙生としては、途中から手伝って残りを我が口にかきこんでしまいたい衝動に駆られるくらいでありました。
 漸くに彼女がスプーンを置いた時には、拙生は水のお代わりを二回傍を通ったウエイトレスに所望し、それをすっかり飲み干しているのでありました。
「ああ、お腹一杯」
 吉岡佳世はそう云ってコップの水を一口含みます。「あたしの食べるとが、あんまり遅くて、呆れたやろう?」
「いや、そうでもなかったばい」
 拙生はそう云うのでありました。遅いなと思って時に苛々はしたけれど、呆れはしないのでありましたから別に嘘ではないのであります。「お前の、口ばもぐもぐ動かす様子も、なんとなく可愛いかった」
 拙生がそんなことを云うと吉岡佳世は肩を竦めて恥ずかしそうに笑うのでありました。
「さて、そんならぼつぼつ、玉屋に行こうか」
 彼女の腹具合が落ちついた頃を見計らって拙生は云うのでありました。「なんか買い物するとやろう、玉屋で?」
「うん、そう。ちょっとね」
「なんば買うとや?」
「行けば判るって」
 吉岡佳世は思わせぶりをして見せるのでありました。
 拙生と彼女は再び四ヶ町の通りに出ると、ゆっくり歩いて玉屋まで戻るのでありました。玉屋に入るとエスカレーターを幾つか乗り継いで、吉岡佳世の先導で二人は文房具売り場へ向かいます。文房具売り場と同じ階の、エスカレーターを降りた辺りは玩具売り場になっていて、そこを横切る途中、拙生はブーブークッションやガムを引きだすとネズミ捕りのようにその指をパチンと挟む仕掛けが隠してある代物等、悪戯玩具が並ぶコーナーで一寸立ち止まるのでありました。
「井渕君、なんか玩具買うと?」
「いや、そうじゃなかばってん、ここには何年かぶりに来たけん、ちょっと見よるだけ」
 拙生がそう云って其処にある悪戯玩具の幾つかを眺めていると、吉岡佳世も拙生を真似て玩具のあれこれを触るのでありました。なんの気なしに彼女がブーブークッションを手にした時、結構周りに響くような大きな音がいきなり漏れ出たのでありました。彼女は動きをなくして拙生をきょとんとした目で見るのでありました。それから一拍置いて口を大きく開いて、仕舞ったと云うように目を瞬かせて、クッションを手から放り出すのでありました。彼女が拙生の陰に急いで隠れるのは余程恥ずかしかったためでありましょう。
(続)
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