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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩⅡ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 暫くして吉岡佳世が胸に添えていた手を下ろすのでありました。
「もう、大丈夫、すっかり落ち着いた」
 彼女はそう云って拙生にニコニコと笑って見せます。
「家まで送って行こうか?」
 拙生が彼女の目を覗きこむようにしながら聞くと、彼女は眉根を寄せて頬を膨らませて見せるのでありました。
「なあん、もう帰ると?」
「うん、体の具合が今一番大事かとけんが、帰ってゆっくり休んだ方がよかとやなかか?」
 拙生のその言葉に吉岡佳世は握っていた拙生の手を離して、拙生の手の甲を叩いてから嫌々をするように肩を揺するのでありました。
「せっかくの、久しぶりのデートとに、もう帰ると?」
「そがん云うたって、ずうっと外に出とって、疲れて、また体の具合の悪うなったら困るやっか」
「大丈夫て、そがん心配せんでも。さっきのはちょっと吃驚して、嬉しくなり過ぎて、調子の狂っただけ。本当に今日は、何時もよりも、断然体調のよかとやけん、あたし」
「そうかあ?」
 拙生は疑わしげに云うのでありました。
「そうそう。大丈夫、本当に。ああそうだ、まだ昼ご飯食べてないやろう、井渕君?」
「うん、まあだ食うとらん」
「そんならこれから何処かで、二人でお昼ば食べようよ」
 吉岡佳世はそんな提案をするのでありました。「ねえ、何処で食べる?」
「うん、そがん云われても、オイが知っとる食い物屋て云うたら、学校の近くのラーメン屋と饂飩屋ぐらいしかなかもんねえ。この辺やったら、玉屋の食堂とか、少し先まで行ってトンネル横町のちゃんぽん屋とか、駅の地下道のラーメン屋のお富さん、とかね」
 何れにしても味も量も値段も拙生には大いに満足のいく食堂ではありましたが、吉岡佳世とのデートに似合う店ではないなあと拙生は考えるのでありました。
「じゃあ、白十字パーラー、に行こうか?」
 白十字パーラーは四ヶ町アーケードにある一階がケーキ屋で二階が洋食屋と云う店で、そこで売っている「南蛮ぽると」と云う菓子で有名な店でありました。拙生も以前家族と行ったことがある店であります。その菓子名が店名の代わりに使われたりもします。
「ああ、南蛮ぽると、なら知っとるぞ、オイも」
「あたしもあんまり、食べ物屋さんは知らんけど、あそこは前に、家族で時々行ったことあるよ」
「よし、そこがよか。無難か。もっと綺麗なレストランとかがよかかも知れんけど、なんせオイの人生で、そがん洒落た店とかは、今まで全然縁のなかったけんがね。しかし、本当に体の具合は、大丈夫とか?」
 拙生は吉岡佳世の体調への気がかりが今一つ掃えないでいるのでありました。
(続)
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