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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩⅠ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 暫くして二人の顔は離れるのでありましたが、しかし互いの体温を感じることの出来る程の距離であります。拙生は彼女の目を間近に見るのでありました。彼女の瞳がなにやら拙生を咎めているように見えて、拙生は内心おろおろとするのでありました。
 吉岡佳世が急に顔を背けます。拙生は彼女が拙生の及んだ行為に怒ったのかと思って、彼女の肩から手を離すのでありました。
「恥ずかしい」
 吉岡佳世が拙生に横顔を見せて云うのでありました。
「あの、ご免な、変なことしてしもうて」
 拙生は何故か謝るのでありました。すると吉岡佳世は拙生の顔に視線を戻してから口を尖らせて見せるのでありました。
「なんで、謝ると?」
「いや、驚かせてしもうたかて思うてくさ」
「そりゃ、少し吃驚したけどさ、でも、嫌な吃驚じゃないもん」
「怒っとらんか?」
「ううん。それどころか、とっても、嬉しいと」
 拙生は吉岡佳世のその言葉に胸の中で大きな安堵のため息をつくのでありました。で、そうなると彼女の唇の感触をもう一度欲しくなって、拙生はまた彼女の肩に手を乗せます。
彼女はそれに目を閉じて応えるのでありました。
「嬉しいけど・・・」
 彼女が暫くして、唇の端から云うのでありました。「なんか、ドキドキして、ちょっと胸の苦しゅうなってきた」
 拙生が彼女の言葉を妨害しまいとその唇から離れた後に、彼女はそう続けるのでありました。拙生は彼女の肩に手を添えたままで体を後ろに少し反らします。二人のことなど知らんぷりして公園の中に吹いていた春の風が、ここぞとばかりに意地悪く、二人の間に出来た僅かな隙間に入りこんできたような気がするのでありました。
 吉岡佳世は自分の胸に片手の拳を宛てて、少し早い息遣いをしているのでありました。その様子が彼女の気持ちの高まりを表す「ドキドキ」と云う言葉の域を超えて、身体的にも苦しそうな風に見えたので、拙生は心配になって声をかけるのでありました。
「ありゃ、大丈夫か?」
「うん、ちょっとドキドキし過ぎたと。でも、大丈夫」
 彼女のその様子にまだ彼女の体の調子が十全ではないことを、拙生は改めて知らされるのでありました。矢張り拙生は彼女に悪いことをしたと云うことになるのでありますか。
「ご免な、オイが調子に乗って、余計な負担ばかけてしもうたようで」
「井渕君、そがん、謝ったらダメ」
 吉岡佳世はそう云うのでありました。「あたしは本当に、本当に、嬉しいとやから。井渕君にここで謝られたら、そのあたしの本心が、認められないことになるし」
 彼女は片手を胸に添えたまま、もう片方の手で拙生の手を強く握るのでありました。
(続)
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