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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅩ [枯葉の髪飾り 5 創作]

「ふうん、そう」
 吉岡佳世は拙生の説明にそんなものかと云う顔で何度か頷くのでありました。「そしたら、井渕君が佐世保に居るとは、後二週間足らずで云うことになるね」
「そうね。考えようによっては短かかも知れんし、特に何もすることのなかオイみたいな者にとっては、長かようにも思えるし」
「短いよ、二週間足らずなんて」
 吉岡佳世が云うのでありました。「後二週間もしないで、井渕君が遠い処に行ってしまうて思うたら、なんかひどく寂しか」
 吉岡佳世は心細そうな顔をするのでありました。彼女のその顔が拙生をうろたえさせるのであります。拙生はなんと云って返していいのか判らずに、咄嗟に彼女の手を握ったものの、多分彼女と同じような表情で彼女を見返していただけでありましょう。
「でもさ、そんなことば今、云うべきじゃないとよね」
 吉岡佳世は続けます。「井渕君のせっかくの門出とに、それに水を差すようなこと、あたしが云うたらダメよね。井渕君、御免ね」
「いや、オイも夏休みまで暫く逢えんて思うぎんた、堪らんごとなるけど」
「本当?」
「本当くさ。お前ば一人佐世保に残して東京に行くのは、心配で堪らんとぞ。ばってん、こいばかっりは仕様のなか」
「そうね、仕方ないことよね」
「夏休みまでの辛抱やっか。それに一年経ったら、東京で何時でん逢えるようになるやっか。そいば楽しみにしとるぞオイは」
「うん、そうなるように、あたしが頑張ればよかとよね」
「そうそう。まあ、手紙とか電話とかでしょっちゅう連絡ばとりあっとったら、一年なんか、あっと云う間に経ってしまうくさ」
「うん、そうね。そうよね」
 吉岡佳世は少し笑って見せるのでありましたが、すぐにまた顔を曇らせます。「そうやけど、そうて判ってるとやけど、それでも寂しかもん」
 彼女はそう云っていきなり拙生に抱きつくのでありました。拙生は仰天して体が硬直するのでありました。拙生はおずおずと彼女の肩に手を回します。暫くそうして拙生と彼女は抱きあっていたのでありましたが、平日の午前中で公園の中には殆ど人影がなかったことが幸いであったと、そんなどうでも良いような体面のことを拙生は高鳴る動悸の間隙でぼんやりと考えるのでありました。
 抱きあっていて次第に嵩じてきた、後二週間で暫く彼女とは逢えなくなると云う切羽詰まった思いと、辺りに人影がないことが拙生に或る種の勇気を与えたのでありました。拙生は吉岡佳世の体をほんの少し遠ざけて彼女の瞳を間近に見つめます。吉岡佳世が目を閉じたのが拙生にその行為に及ぶことを踏ん切らせた切っ掛けでありました。拙生は彼女をゆっくり引き寄せて、静かに唇を重ねたのでありました。
(続)
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