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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅦ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 島田に促されて拙生と隅田と安田は、上の物が片づけられた机を元通りに並べ直すのでありました。あらかた教室が元の状態に復したのを坂下先生が点検をして、さていよいよこれでこの教室ともお別れであります。
「どうも一年間、お世話になりました」
 隅田がそう云って坂下先生に頭を下げると、それに倣って残った一同もやや遅れて夫々に感謝の言葉を吐きながら一礼するのでありました。
「いや、此方こそ色々お世話になりました」
 坂下先生はこの言葉の後に教室に残った全員の名前を「さん」づけで、ゆっくりとした口調で呼んでから続けるのでありました。「皆さんのおかげで、楽しい一年でした」
 坂下先生は威儀を正して頭を下げます。先生の丁重さに恐れ入って一同は慌てて頭をより低くするのでありました。
「あのう、坂下先生に、急にそがん丁寧に云われるぎんた、調子の狂うですよ」
 安田が坂下先生の初めて接する慇懃さに堪りかねたように云うのでありました。
「いや、今日からは教師と生徒じゃなくて、社会的には対等の関係になるとですけんが」
 坂下先生はそんなことを云うのでありました。
「ばってん、何時になっても教師と生徒て云う関係はそのまま残るとやし、長幼の順て云うか、師弟間の節度て云うともあるとけんが、先生にそがん謙られたら、オイ達は冷や汗ば流さんばことになるやなかですか」
 隅田がなんとなくもじもじと訴えるのでありました。
「そうそう、さすが隅田、よう云うてくれた。その通りばい。今までのごとしてくれんば、オイはどがん顔して先生ば見ればよかとか、困るもんね」
 安田はそう云いながら控えめな音の拍手を隅田に呈するのでありました。
「そんなら安田!」
 坂下先生は急に語調を変えて云うのでありました。「お前がそがん云うとなら、今まで通りに喋ることにしてもよかけど」
「そうそう、その調子ばい。今までのごと偉そうに、オイの名前も呼び捨てにしてくれて、厳しく、こいから先も宜しく指導してくれた方が坂下先生らしか」
「お前のその言葉に甘えて、今までのごとさせてもらう序でに宿題ば出すばってん、来年の同窓会までにアメリカの歴代大統領の名前ば、ワシントンからずうっとニクソンまで、全部覚えてこい」
「うわあ、なんやそいは!」
 安田はそう叫んで仰け反るのでありました。「そがんことはもう、勘弁ばい!」
「こいからも厳しく指導してくれて、お前が云うたとやなかか」
 坂下先生はニヤニヤと笑いながら安田へのからかい納めをするのでありました。
「他はなんでも指導して貰うてよかけど、世界史関係の指導は、もう金輪際、遠慮させてもらいたかもんね、オイとしては」
 安田は猛烈な速さで振幅大きく両手を横に振っているのでありました。
(続)
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