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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅣ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 病院から家に戻った吉岡佳世はその後も比較的落ち着いて過ごしているようでありました。もう病人と云う感じではないのでありましたが、しかし微熱が出たり、息苦しくなってベッドを半日離れられないことも時たまあるようでありました。
 平日学校が終わってから拙生が必ず吉岡佳世の家を訪ねるのは、以前彼女が学校を休みがちであった時と同様でありました。受験が終わった拙生は暇を持て余しているのでありましたから、日曜日も彼女の家に行って居間であったり彼女の部屋であったりはしましたが、長い時間彼女と話をするのでありました。
 吉岡佳世はお母さんにつき添ってもらって病院に行く時意外、まだ家から一人で外に出ることが出来ないのでありました。それはもし外出先で体の異変に襲われたらと云う恐怖からで、その内彼女に自信と勇気が戻れば、それも追々克服されるであろうと拙生には思われるのでありました。
 そんな具合でありますから当然学校に通えるはずもなくて、そうなれば彼女が卒業出来ないのはもう決定的でありました。彼女によれば担任の坂下先生とは留年後の段取り等の話はもう纏まっていて、彼女自身もその線で気持ちも切り換えて、この一年で当初の希望通り大学受験を目指すのだからと、くよくよすることもなく留年を前向きに受け止めているようなのは、彼女の意外な豪胆さを見るようで拙生は秘かに畏れ入るのでありました。
「四月から、ちゃんと学校に行けるように、今しっかり体ば治さんばと」
 吉岡佳世はそんなことを云って、春からの学校への復帰に大いに意欲があるところを拙生に見せてくれるのでありました。
 三月も旬日を過ぎた頃、卒業前に一度四人を招待したいと云う吉岡佳世のお母さんの意向もあって、拙生は吉岡佳世の家の訪問に隅田と安田と島田を誘うのでありました。彼等が拙生の誘いに二つ返事で応じたのは、夫々の四月以降の身のふり方がもう決まった気楽さからでもありましたが、吉岡佳世の退院後の様子を大いに気にかけてくれていたためでもありました。
 四人の内一番最後に進学先が決まった隅田は、第一志望だった福岡に在る入試難解大学に見事合格したのでありました。安田も第一志望の大学に進路を決め、島田も或る短大への合格をかち取ったのでありました。安田の進学する大学も島田が行く短大も福岡にあって、この三人は四月から揃って福岡の住人となる予定でありました。ことの序でに云えば体育祭の時に拙生が殴打して、それ以来同じクラスに居ながらまったく交渉の絶えた大和田は、隅田と同じ大学を受験してこちらは不合格となり、一年間佐世保で浪人生活を送ることになったようでありました。
 我々四人揃っての訪問を吉岡佳世も彼女のお母さんも大いに喜んでくれて、お母さんの豪華な手料理の昼食で大歓待してくれるのは昨年のクリスマスパーティーと同様でありました。恐縮なことに、帰りにがけに四人は大学進学のお祝いと云うことで、熨斗袋に入った図書券の恵贈まで受けたのでありました。吉岡佳世の留年を敢えて慰めず、来年、後に続けよと前向きの激励のみ吉岡佳世に送る隅田と安田と島田の心馳せに、吉岡佳世も彼女のお母さんも、それに拙生も心の内で大いに感謝するのでありました。
(続)
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