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枯葉の髪飾りCⅩⅩⅡ [枯葉の髪飾り 5 創作]

 荷物持ちとして拙生は吉岡佳世の家までくっついて行くのでありました。
「久しぶりで、懐かしか」
 腰を落ち着けてから吉岡佳世がそう云いながら居間を見まわすのでありました。
「まあ、結局二ヶ月以上、入院しとったけんがね」
 彼女のお母さんがそう云った後すぐに立って台所の方に向かうのは、茶を入れるために湯を沸かそうとしてのことでありましょう。
「お兄さんは京都から帰っとらっさんとか、まだ?」
 拙生が吉岡佳世に聞きます。
「うん、三月の末に帰るとて。大学の、入試の手伝いのアルバイトがあるとか云う話」
「へえ、学生がする入試の手伝いの仕事てなんやろう?」
「入試会場までの道案内とか、云いよらしたけど」
「ああ、そうか。オイが受けた大学でも、駅とか道の途中に案内版ば持った学生の立っとって、大声で道案内ばしよったねえ、そがん云えば。合格電報承りますとか叫んどるヤツもおったし、青とか赤とかのヘルメットば被って、学生運動しよるヤツとかもおったぞ」
「井渕君、大学生になったら学生運動、すると?」
 拙生が大学受験する頃はいささか下火にはなっていたのではありますが、まだ学生運動がそれなりの態を保っていた時期で、大学の至る所に黒と赤の二色でスローガンやらを大書してある立て看板があって、流石に入試の時は排除されていたようでありますが、校内で集会やらデモ行進等が頻繁に行われていたのでありました。
「いや、多分せんやろう」
「ノンポリ?」
「ま、そうね。政治に暗かけんね、オイの頭は。明るかとはお雛様の照明灯くさ」
「なん、それ?」
「ぼんぼり」
 我ながら下らないと拙生は頭を掻くのでありましたが、それでも吉岡佳世は口に手を当てて笑ってくれるのでありました。
「そう云えば、今年はお雛様ば出さんやったね、佳世が入院しとったけん」
 そう云いながら彼女のお母さんが盆に茶の湯気が上がる椀を乗せて、台所から出てくるのでありました。「なんでお雛様の話ばしよったと、二人で?」
「お雛様の話なんか、しよらんよ、別に」
 吉岡佳世が云います。
「お雛様て云うのが聞こえたし、雪洞がどうとかても云いよったやろうが?」
 彼女のお母さんは炬燵の上に三つの茶碗を盆から移して座り、先ずその一つを拙生の前に滑らせるのでありました。
「井渕君の行く大学の話で、たまたま、お雛様とか雪洞て云う単語が出てきただけ」
 吉岡佳世が少し困ったような顔で説明します。
「井渕君の行く大学に、お雛様が飾ってあると?」
(続)
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