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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅩⅤ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「これからも佳世のことは宜しく頼むね、井渕君」
 彼女のお父さんはそう云って拙生に頭を下げるのでありました。拙生は困惑してしまってお父さんよりももっと深く頭を垂れるのでありました。
「そがん改まると井渕君が返って困るやろう。その位にせんと」
 彼女のお兄さんが助け舟を出してくれます。
「ほら、挨拶はその位にして、井渕君、料理ば摘まんね」
 彼女のお母さんがそう勧めてくれます。
「はい、頂きます」
 拙生は箸を取りあげて自分の前の取り皿にのっている蒲鉾を口に入れるのでありました。
 お節料理を頬張りながら聞いたところによると、彼女のお父さんは船舶のスクリュウの専門家で、SSKの設計部門の次長であると云うことでありました。東京の大学を出てSSKに就職して、ずっとその部門で仕事をしてきたと云うことであります。しかし将来は岡山に帰って家業を手伝って老後を過ごすのが望みであるとのこと。岡山の実家は色んな物を取り扱う結構大きな商家であると云う話でありました。定年後か、彼女のお兄さんが大学を出て就職を果たし、吉岡佳世の身の振り方も決まったら岡山に帰ると云う積りだそうであります。
「佳世は、もしなんなら岡山に連れて行こうかとも思うけど」
 彼女のお父さんはそんなことを云うのでありました。
「あたし東京に行くとよ。大学生になって」
 吉岡佳世がお父さんにそう云うのでありました。
「ああそうか、そうだったな。まあしかし、岡山に引っこむのもまだ先の話で、来年再来年の話と云うことではないし」
「ま、早くとも後三年以上後になるか、オイが卒業して就職するのば睨んどるとなら」
 彼女のお兄さんが云います。
「定年後と云うことなら、もっと先の話になるなあ。佳世が大学を出て就職とかも決まった後になるか。ま、いずれにしても母さんと二人で老後は岡山暮らしかな」
 彼女のお父さんはそう云って彼女のお母さんの顔を見るのでありました。
「あたしは何時でもよかとよ、岡山行きは。佐世保ば離れるとはちょっと心細かけど、岡山は好きやから。それに岡山の桃は特別美味しかけんね」
 彼女のお母さんが云うのでありました。
「母さんの岡山行きの目的は、桃ばたらふく食うことばいね」
 彼女のお兄さんがそう云ってお母さんをからかうのでありました。
 お節料理を食べ終わった後拙生は吉岡佳世の部屋に行ってそこで彼女と二人で少し話をして、夕方彼女の家を後にするのでありました。寒いからと断ったのでありますが吉岡佳世はバス停まで拙生を送って行くと云って、二人で彼女の家の玄関を出たのでありました。
「入院したら暫く、外に出れんようになるから、今のうちに外の空気、吸っておくと」
 吉岡佳世は拙生の手を握り、そう云って拙生の横を歩くのでありました。
(続)
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