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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅩⅣ [枯葉の髪飾り 3 創作]

 正月は結局、拙生は一日も二日も吉岡佳世の家に行ったのでありました。両日共に彼女と逢えるのなら、その機会を逃すはずもありません。
 一日は午前中親類の家を二軒回ってお年玉をせしめて、昼から吉岡佳世の家に向かったのでありました。昼頃行ったのは彼女のお母さんによる時間指定で、お節料理を振舞ってくれることになっていたのでありました。
 彼女の家では家族全員が揃っているのでありました。拙生は居間に通されると先ず彼女のお父さんに年賀の挨拶をして、順次お母さんお兄さんと頭を下げて、最後に吉岡佳世に、これは改まるのは照れ臭いものだからおめでとうの言葉もなく、ひょいと手を挙げて見せるのでありました。吉岡佳世も笑って同じように手を挙げて見せます。
「よう来てくれたね。まあまあ」
 そう云いながら吉岡佳世のお父さんがお屠蘇の杯を拙生に勧めます。「正月だから、ま、高校生でもお屠蘇一杯くらいはいいか」
 拙生は朱塗りの盃に屠蘇を受け、それを口元に運ぶのでありました。
「お父さんあんまい勧めたらだめよ。井渕君は勉強があるとやから」
 彼女のお母さんがお節料理の詰まった重箱の蓋を開けながら云うのでありました。
「いやあ、今日は勉強する積もりはまったくなかですけん、オイ、いや僕は」
「そいでも未成年者に飲酒を勧めるとは、感心出来んばい」
 彼女のお兄さんがそう云いながら自分の前にあるビール瓶を取りあげて、コップを拙生の顔の前に差し上げるのでありました。
「お兄ちゃん、ビールはだめよ、井渕君の酔っぱらうけん」
 吉岡佳世が彼女のお兄さんが差し上げたコップを横から奪います。「井渕君とあたしは、ファンタグレープけんね」
 彼女はそう云うと自ら立って、キッチンから冷えたファンタグレープを持って来るのでありました。拙生の前には彼女のお母さんがよそってくれた様々な色あいのお節料理が載った取り皿と、吉岡佳世の注いでくれた紫色のファンタグレープのコップ、それに先程お父さんが注いでくれたお屠蘇の朱塗りの盃が横に並ふのでありました。
「井渕君とはこうしてゆっくり話すとは、初めてと云うことになるねえ」
 彼女のお父さんが云うのでありました。
「そうですね、前に玄関先でちょっと挨拶させてもろうただけですけん」
「色々話は佳世とかお母さんから聞いてはいたけど、佳世が大変お世話になってるようで、改めてお礼を云わせてもらうね」
「いやあ、そがん云われると恐縮するです」
 拙生は頭を掻くのでありました。
「ここの所ずっと佳世が元気で居たのは井渕君のお陰だろうし、手術に対してもちゃんと覚悟が決まったのは、これも多分井渕君の存在があったからだと思うし」
「いやあ、そがんこともなかでしょうけど」
 拙生はなんとなく身を縮めるのでありました。
(続)
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