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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅩⅢ [枯葉の髪飾り 3 創作]

 拙生はその吉岡佳世の言葉に、手術後そんなに日が経っていないのだから無理して態々駅まで出て来ることはないと返すべきか、それとも手術に向けて彼女を元気づける意味を忍ばせて、屹度見送りに来いよと云った方がよいのか少し迷うのでありました。
「体の調子の良かったなら、まあ、来いよ」
 結局拙生の口から出たのは優しさの方も力強さの方も中途半端でしかない言葉でありました。
「絶対行く。あたし絶対駅で、井渕君ば最後に激励して、見送る」
 吉岡佳世はやけに強調するのでありました。
「いやあ、そがん切羽詰まった緊張感とか、実はほとんどなかとけんが、激励されてもなんか困るような気のするばい。なんとなく半分観光気分でおるとやけんがねえ、激励されるはずの当の本人が」
「そがんこと云わんで、頑張ってよ。ひょっとして再来年、今度はあたしが入試で東京に行くとしたら、大学生の井渕君が東京に居てくれるて云うのが、なにより頼りになる気がするとけんがさ」
「ああそうか。そんなら、ちょっと頑張ろうかね」
 吉岡佳世からそんな言葉を聞けたことが拙生は嬉しかったのでありました。目前に迫った大変な手術への恐怖やその後の経過とか、卒業のことなど、彼女は今重過ぎる程の不安を抱えているのであります。それだけで手一杯で、とてもその先を考える余裕などないだろうと思うのでありますが、しかしそんな彼女からその先の、前に視線を向けた言葉を聞けたのが拙生には何よりの激励なのでありました。
「さて、ぼちぼち帰ろうか」
 拙生は彼女の体を労わってそう云うのでありました。
「お正月はどうすると?」
 吉岡佳世が聞きます。
「別になあんもせんけど」
「あたしの入院前に、逢えると?」
「一月一日は、家族水入らずで正月ば祝うやろうし、お客さんとかあるやろうけん遠慮するとして、二日にちょっとお邪魔してよかやろうか?」
「別に一日でもよかよ、来るなら。勉強があるかも知れんけど」
「一日は勉強なんかするもんか。しかし二日も忙しかやろうね、入院の前の日けんが」
「ううん」
 吉岡佳世は頭を横に振るのでありました。「一日も二日も全然忙しくはないと。お父さんのお客さんがあるかも知れんけど、あたしには関係ないもん。それに入院の用意て云うても、別に洗面用具と箸とパジャマくらいしか、用意するものはなかし。それにお母さんは、一日に井渕君がお年始に来てくれるて決めとらすよ、勝手に」
「ああそうや」
 拙生は彼女のお母さんの顔を思い浮かべて思わず口元を緩めるのでありました。
(続)
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