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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅩⅠ [枯葉の髪飾り 3 創作]

 吉岡佳世に公園で撮った写真を渡したのは大晦日でありました。彼女はその日午前中に病院へ行くと云うことだったので、診察が終わった頃を見計らって拙生は病院へと向かったのでありました。実は前日も彼女の家に行って拙生は彼女と逢ってはいたのでありますが、もう毎日でも彼女の顔を見ないと気が済まないようになっていたのでありました。
 病院一階の受付辺りの長椅子に座って彼女は拙生を待っていました。大晦日だと云うのに、いや大晦日だからこそなのか、病院は多くの人でごったがえしているのでありました。比較的暖かな日和だったので、拙生と彼女は病院を出て裏の公園に向います。風邪の予防のためか吉岡佳世は首に赤いマフラーを巻いているのでありました。
「ほら、この前の写真」
 何時ものベンチに並んで座ってすぐに、拙生はポケットから数枚の写真を取り出して彼女に見せるのでありました。
「へえ、もう出来上がったと」
 吉岡佳世が嬉しそうな顔をしてそれを受け取るのでありました。
「写真屋に超特急で、て頼んだとくさ。今年の内に渡したかったけんがね」
 吉岡佳世は一枚一枚熱心にその写真を見るのでありました。
「井渕君、どの写真も変な顔して映ってるね」
「まあ、写真は苦手けんがね。つい顔に緊張の走るとくさ」
 成程拙生の顔はどれも、妙に口の端を引き結んで必要以上に真面目な顔をして映っているものか、ふざけた笑い顔を故意に作っているものばかりでありました。「もうちょっと、ちゃんとした顔して、恰好良う映っとる方が、本当はよかったかね」
「ううん、この方が、井渕君らしかて云えば井渕君らしかし」
 吉岡佳世は写真に写った拙生を見つめながら笑うのでありました。拙生はもっと普通に、と云うか自然な様子で、彼女に渡す写真に納まらなかった自分を申しわけなく思うのでありました。
「その写真は全部やるけんね。オイの分は後で焼き回しするけん」
「うん、有難う」
 吉岡佳世は写真を一枚々々飽かず見続けながら云うのでありました。
 乾いた風が横の銀杏の木に吹きつけるのでありましたが、もうすっかり葉を落としてしまった銀杏の木はその風になんの答礼の音も上げることはありませんでした。地面に散ったまま残る茶色く変色した落ち葉は、時々風に翻弄されながらもうすぐ土に還るのを待っているのでありました。
「もう、入院の準備は済んだとか?」
 拙生は自分の手に息を吹きかけながら云うのでありました。
「ううん、まだ全然」
「確か一月三日に入院やったぞね?」
「そう。あと四日後。今日を入れんなら後三日後」
 吉岡佳世はようやく写真から目を離して、遠くに視線を投げながら云うのでありました。
(続)
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