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バリ島とコーヒーⅢ [散歩、旅行など 雑文]

 扶桑へ帰ってからはそのバリ島で飲んだコーヒーのことはすっかり忘却しておりました。しかし或る日、或る知人の家を訪うた時、砂糖のたっぷり入ったコーヒーを出されて、断り辛い状況であったので、内心閉口しながらもそれは噯気にも出さず飲み干したのでありました。その時不意に、バリ島のレストランで飲んだコーヒーのことを思い出したのであります。同時にバリ島旅行時の様々な断片がスライド写真の様に頭皮の内側に蘇り、あれはなかなかに面白い旅行であったなどと振り返ったりするのでありました。
 あの甘くてグラスの底に沈殿物のあるコーヒーを、後で知ったのはそれを「コピ」と現地では呼ぶと云うことであります。懐かしいバリ島観光の思い出に浸る内に、どうしたものかもう一度あの「コピ」なる液体をこの喉に流してみたいような気になるのでありました。この宗旨替えは、屹度味の印象が薄れたために他なりません。喉に絡みついて暫し離れないあの甘さと、グラスの底のいかにも飲み干すのを躊躇わせる如く堆積する黒々とした沈殿物の衝撃が、時間の靄に覆われて淡くなり、美味い不味いの判断も最早茫漠と風化しております。それにもう一度それを口にすれば案外美味いのかも知れぬなどと性懲りもなく思うのは、これはひょっとしたら人類がこの地球上で繁栄した普遍的理由の内の、不屈のチャレンジ精神と好奇心と云うもので、今拙生の内でそれがムラムラと立ち上がった故ではないでしょうか。ま、単に忘れっぽいだけと云う話もありますが。
 と云うわけで拙生はその「コピ」を振舞ってくれる喫茶店か料理屋が東京の何処かにないものかと、なんとなくいつも気に留めてはいたのでありました。しかしそう熱心に探したわけでもないので、それに当時はまだバリ島の風物や文化が今ほど一般に認知されてはいなかったものだから、そんな店が容易に見つかるはずもないのでありました。
 一度普通に扶桑で売られているインドネシア産のマンデリンとかトラジャとかのコーヒー豆をミルで挽いて、それをまた金槌で細かく粉末状になるまで砕いてグラスに入れて、その上に熱湯を注いで飲んだことがありました。これはその飲み難さの点では結構イケるのでありました。さてそれならばと今度はコーヒーの粉末に砂糖を混ぜこんで湯を注ぎ入れ、攪拌した後粉が沈むのを待って口の中に入れてみると、益々イケるのであります。確かにヘコたれてしまいたくなる程こんな甘い味だったと八割がた納得して、しかしなんとなく甘さの性格が少し違うような気もするのでありました。屹度他に何か混ぜものをしているのか、扶桑で手に入る砂糖とは違った砂糖を使っているためでありましょう。
 しかし兎も角「コピ」もどきのコーヒーは、このようにすれば何時でも飲めるようになったわけであります。拙生はその後普通のコーヒーを淹れて、満足の笑みを片頬に浮かべてそれをゆっくり飲むのでありました。
 元来が無精に出来ている拙生であります。毎回々々挽いた豆をまたパウダー状になるまで潰して等と云う手間暇を辛抱出来るわけがないのであります。よってこのバリ島風コーヒーの作成はこれにて終幕し、以後試みることはなかったのでありました。また再びバリ島へ行く機会でもあったら、その折本場ものをしこたま飲むことにしましょう。それまではお預けと云う事にしておくのであります。と、この一文を書いていたら本当にもう一度バリ島へ旅行したくなってきましたが。
(了)
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