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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅨ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「どうしたと?」
 拙生がなかなかシャッターボタンを押さないものだから、吉岡佳世が不審に思ってそう聞くのでありました。
「いや、済まん。構図のよう決まらんけん」
 拙生はそんなことを云うのでありましたが、カメラのシャッターが切られるのは偏に枯葉が落ちてくるかどうかに懸かっていたのであります。しかしそう易々と思い通りになるはずもなく、拙生は諦めて一度シャッターを切るのでありました。
「今度は全身の写っとるとば、もう一枚」
「井渕君て、結構完璧主義者ね」
 またもや拙生のシャッターを切るまでの時間が長引いているのに痺れを切らして、吉岡佳世がそう云うのでありました。拙生が今度も構図に拘ってカメラを構えたまま指を動かさないものと判断したのでありましょう。結局彼女のスナップ写真を都合五枚程撮ったのでありますが、枯葉は遂に落ちてくれることはなかったのでありました。それでもまあ、吉岡佳世の写真を撮れたことに拙生は満足でありました。
「今度は、あたしが井渕君ば撮る」
 吉岡佳世が拙生からカメラを受け取ろうと手を伸ばします。
「いや、オイの写真はよか。それより今度は二人で並んで撮ろうで」
 拙生はそう云ってベンチに拙生と吉岡佳世の鞄を重ねて置いて、その上にカメラを乗せて横からファインダーを覗くのでありました。
「ちょっと低かねえ」
 拙生は鞄の上にその辺に転がっていた石を積み、その上にカメラを据え、横から他の石でカメラを固定します。今度は上手く全身が入るのでありました。
 拙生は自動シャッターに切り替えてそれを押して、急いで銀杏の木の下の吉岡佳世の横へと移動します。構図的には全く余裕があったのでありますが、拙生は吉岡佳世に肩を寄せて頬がつく程に接近するのでありました。彼女の髪の芳しい匂いが拙生の鼻孔を擽るのでありました。その後、カメラに近寄って二人でしゃがんで胸から上の二人寄り添う顔が大きく映った写真を矢張り自動シャッターで撮ってから、拙生はカメラをカバンに仕舞おうとするのでありました。
「待って。井渕君の写真も、一枚撮らして。そうしたらその写真をあたしに頂戴。あたし病院に持って行くからさ」
 吉岡佳世がそう云って手を差し出すのでありました。拙生はああそうやと云ってカメラを彼女に渡します。それから彼女の指示で銀杏の木の下に行って、彼女の構えたカメラに向かってにいと笑うのでありました。
「今度は少し真面目な顔ばして」
 吉岡佳世が一枚撮った後に注文を出します。しかし照れ臭くてついふざけた顔などするのでありました。風が吹いて先程あれだけ待った銀杏の枯葉が、今頃拙生の顔の前に落ちて来ます。拙生は枯葉が着地するまで、その落ちる軌跡を横目で追うのでありました。
(続)
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