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枯葉の髪飾りLⅩⅩⅧ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「明日から冬休みね」
 吉岡佳世は公園のいつものベンチに並んで腰を下ろすとそう云うのでありました。
「そうね。今年ももうすぐ終わる」
 ベンチ横の銀杏の木はすかり葉を落としてしまって、冬の寒空の中に裸を曝しているのでありました。風が吹いてももう、葉擦れの音は聞こえてはこないのであります。
「入試まで、あと一月とちょっとになったね」
 吉岡佳世は拙生の入試のことを心配してくれるのでありましたが、それよりも目前に迫った彼女の手術の方が、彼女にとっては当面第一の懸案に違いないのでありました。
「絶対、上手くいくぞ、手術は」
 拙生はそう云いながら彼女に笑いかけるのでありました。
「そうね、態々福岡から、専門の先生が来てくれて手術さすとやけん、大丈夫てあたしも思うよ。だらかあんまり、心配しとらんもん」
 しかしそうは云っても、彼女の胸の中は恐怖と不安で塞がれているに違いないのであります。拙生に心配させまいと笑って見せる彼女の心情を斟酌すると、拙生は切なくなってくるのでありました。
 拙生はベンチの横に置いていたカバンを膝の上に取って、中からカメラを取り出して吉岡佳世の目の位置まで持ち上げて彼女に示すのでありました。
「あら、カメラ。どうしたと?」
「家から持って来た。お前の写真ば撮ろうて思うて」
「あたしの写真、撮ると?」
「そう。考えたらオイは、お前の写真ば一枚も持っとらんけんね。今日写真ば撮っておいて、お守り代わりに東京に持って行こうて思うてくさ」
「ふうん。でもそがんと、お守りになるやろうか?」
「なるなる」
 拙生は笑いながら受けあうのでありました。「もしならんてしても、お前ば東京に一緒に連れて行くような気のして、オイは気持の弾むもん」
 拙生がそう云うと吉岡佳世は肩を竦めて笑って見せます。
「それ、なんとなく嬉しい」
「そんならちょっと、其処の木の下に立ってみろ」
 拙生が銀杏の木の下を指差します。
「うん、判った」
 吉岡佳世は立って銀杏の木の横まで行き、幹に片手を添えて此方を向きます。拙生は立ち上がって少し傍へ寄りカメラを構えるのでありました。しかし拙生がなかなかシャッターを切らないのは、ほんの少し枝に残っていた銀杏の枯葉が、タイミングよく落ちてくるのを待っていたからであります。もし幸運が拙生の魂胆に加勢してくれたなら、その落ちてきた枯葉が彼女の髪の上に止まるかも知れません。枯葉の髪飾りを頭に飾ったあの時と同じ彼女の姿が、ひょっとして撮れるかも知れないのであります。
(続)
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