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枯葉の髪飾りLⅩⅨ [枯葉の髪飾り 3 創作]

「クリスマスパーティーまで、あと一ヶ月くらいね」
 ベンチの上の落ち葉を掃って拙生と並んで腰かけた吉岡佳世は云うのでありました。
「今から楽しみのごたるね、お前」
「うん、楽しみ。家族以外の人とクリスマスするとは初めてやもん」
 すぐ横の銀杏の木が暫くの間がさごそと黄色い葉擦れの音を響かせます。
「寒うなかか?」
「ううん、大丈夫」
 またすぐに乾いた葉擦れの音がして、その音に拙生と彼女の言葉がベンチの上にあった落ち葉のように二人の空間から掃われてしまいます。
「あたしやっぱり、来年三月に、井渕君と一緒に高校卒業するのは、難しいかも知れんね」
 吉岡佳世は葉擦れの音が去った後に云うのでありました。
 いやそんなことはまだ判らないと拙生は否定しようとしたのでありますが、最近の彼女の学校への出席具合や手術のことなど諸々鑑みると、実際の所卒業は本当に無理かもしれないかなと考えてしまって、口に上せる言葉に窮するのでありました。
「ま、でも、いいの」
 彼女は拙生の言葉を待たずに続けます。「そうやろうて、前から思うてたし、予定通りて云えば予定通り。それにあと一年みっちり勉強して、体も大丈夫になって、それから大学受験する方が、きっと現実的かも知れんから」
 彼女は拙生の方を見ずに少し俯いて、地面を時々はらはら動く黄色い落ち葉を見ながら云うのでありました。「井渕君と一緒じゃないのは、寂しかけど」
 そう云った後で彼女は顔を拙生の方に向けて笑いかけるのでありました。
「オイが一足先に卒業するとしてもぞ、その後二度と逢えんようになるわけやなかし。もし東京の大学にオイが行っても、夏休みとか冬休みとかはこっちに帰って来るし、手紙とか電話でしょっちゅう連絡は取れるし」
「井渕君の顔ば、何時も見れんのは嫌やけど、そうね、一年の辛抱よね」
 少し強い風が吹いて葉擦れの音が一段と高くなるのでありました。
 不意に吉岡佳世はベンチから立ち上がるのでありました。それから数歩歩いて拙生から少し遠ざかりその後体ごと此方に向き直ります。その振り向き方がどこか決然としているように見えて、どう云うものか拙生は少したじろぐのでありました。
「井渕君、どうも有難う、今まで」
 吉岡佳世はそう云って拙生に深々と頭を下げるのでありました。
「なんや、急に、そがんこと」
 拙生はどぎまぎとして言葉の端を縺れさせます。
「あのね、夏にこの公園で偶然会ってから、ずっと、あたしにこんなによくしてくれて、本当に、なんて云ってお礼をしたらて、そうずっと思うとって・・・」
 吉岡佳世のその言葉の最後は、俄かに高くなった葉擦れの音にかき消されてしまって、拙生の耳に完全には収まらないのでありました。
(続)
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