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枯葉の髪飾りⅩLⅨ [枯葉の髪飾り 2 創作]

「ああ、そうや・・・」
 島田の凛然とした正論に安田はなんとなくたじろぐ様子でありました。どう見ても島田の方が安田よりも一枚上手のようであります。
「吉岡がそがん病気やったとは、オイは今までちっとも知らんやったね」
 珍しく大和田の声がするのでありました。それは拙生と島田と安田より少し遅れて、隅田と並んでバス停までの道を歩きながら話をする彼の声でありました。なんとなく拙生はその大和田の話し声に耳を引っ張られるのでありました。
「元々が、他人になんか興味ば示さんけんがくさ、お前は」
 これは隅田の声です。大和田はそれを褒め言葉とでも思ったのか、得意げに続けます。
「確かに興味はなかけどね、そがんとには。ばってん吉岡が学校ば休みがちやったのは少し妙とは、ちらっと思うたこともありはしたけどな」
「ほう、お前もそがんことが気になることもあるとか」
「まあ殆ど、どうでもよかことではあるけど」
 拙生としては聞く気はないのですが漏れて聞こえてくる、隅田と小声で話をする大和田のその声色が妙に気に障るのでありました。拙生が大和田の声に気を取られている間、拙生を残して前の方に出た安田と島田が、なにやら言い争ってでもいるのかも知れませんが、しかし飽かず熱心に言葉を投げ交わしながら二人並んで歩いているのでありました。
「しかし井渕が吉岡とつきおうとるて云うとも、今日初めて知ったぞ」
 また大和田の声が聞こえだします。
「もうクラスでは有名な話ぞ、それは」
 隅田がそう云うのを聞きつつ、拙生はやはり拙生と吉岡佳世の仲はクラス中に知れ渡っていたのであったかと、そう改めて確認するのでありました。それはそうかも知れません。進んで公然化もしない代わりに敢えてひた隠しに隠す工作も気遣いも、別にしてはいなかったのでありますから。坂下先生にも知れていたわけですし。
「しかしまあ、井渕も大変やねえ」
 大和田が声は潜めてはいるものの頓狂な口調で云います。「吉岡が、そがん重か病気て云うとも気の滅入る話ぞ。元々知った上で、井渕はつきあい初めたとやろうか?」
「さあ、知らん」
 隅田の、大和田の声が前を歩く拙生に聞こえはせぬかと気を揉んでいる様子が、その彼の短い返答から窺えるのであります。
「なんか井渕は、とんだ欠陥品ば掴んでしもうたことになるかね」
 その大和田の言葉に拙生の頭髪がいきなり逆立つのでありました。急激に沸点を越えた拙生の怒気は前に運ぶ拙生の足の動きを止めます。大和田の方へ振り向いた拙生は彼の前まで数歩戻ると同時に、肩に掛けていたバッグを下に落とすと、後ろに腕を引く動作ももどかしく、その顔面に向かって渾身の力と速さで拳を突き出したのでありました。
 手首に不快な重さを感じるのでありました。中指の付け根に鋭い痛みが瞬間走ります。大和田が両手で顔を押えて後ろに仰け反る様子が、拙生の目の端に見えるのでありました。
(続)
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