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枯葉の髪飾りⅩLⅡ [枯葉の髪飾り 2 創作]

「井渕君なんばしよったと。しょっちゅう佳世と一緒に居って、気づかんやったとね、佳世の具合の悪そうな様子に」
 島田が拙生の怠慢を詰るように云うのでありました。その言葉が鋭く拙生に突き刺さってくるのであります。その詰問口調は少し酷ではなかろうかと、拙生は咄嗟に抗弁しようと彼女を睨みつけるのでありました。しかし抗弁しようとすること自体が、吉岡佳世の体の具合を真摯に気遣わなかったせいで、彼女の異変に対して何らかの手立てを最初に施すその機会を逸した、拙生の後ろめたさの陰翳に他ならないのでありましょう。拙生はそのまま島田に背を向けて廊下を引き返し、階段を二段跳びに駆けあがって教室に戻ると、自分の席の椅子に掛けていたバッグから通学バスの定期券を取り出して、ジャージのズボンの尻ポケットに捩じこんですぐにまた教室を跳び出すのでありました。
 校舎を出るとまだ競技が行われている校庭を横目に全力で校門まで走って、学校から最寄りのバス停へと向かいます。こう云う時に限ってバスはなかなか来ないのでありますが、拙生は苛々しながら腕時計と道の彼方を交互に睨んでバスの到着を待つのでありました。それにようやく来たバスに跳び乗ったのはいいのですが、いつもよりも多くの赤信号に引っかかってバスがなかなか道を進まないことに拙生はやきもきするのでありました。
 市民病院は平日であるにも関わらず多くの人でごった返しているのでありました。拙生は一階の受付を無視して、おそらく吉岡佳世はそこに運びこまれているであろう循環器科の診察室の方へと足早に向かいます。病院の中に籠っている消毒薬の匂いが、焦って歩を運ぶ拙生の汗ばんだ顔に無遠慮に纏わりついてくるのでありました。
 循環器科の診療室の前の長椅子に担任の坂下先生が一人座っているのでありました。
坂下先生は横に立った拙生を見上げて腕組みした手を解きます。
「井渕、なんしに来たとか、お前が?」
 そう聞かれて拙生は自分がここへ来た経緯をどう説明したらいいのか判らずに、ただ先生に挨拶の礼をするだけでありました。
「吉岡はどがんしとるとですか?」
 拙生が聞きます。
「まだ診療中」
 坂下先生はそう云って少し端に腰を移動します。「兎に角、まあ、座れ」
 拙生は先生の言葉に従って横に腰を下ろすのでありました。
「大分悪かとですか、具合は?」
「判らん。中に入ってそろそろ三十分くらいになる」
「ああ、そうですか」
 その診療時間三十分と云う時間の経過がどう云う意味を持つのか、深刻なのかそれともそうでもないのか、拙生にはよく判らないのでありました。
「お前、誰かに許可ば貰うて、此処に来たとか?」
 坂下先生が拙生に尋ねます。そう聞かれても、当然のことながら拙生は妥当な返答の言葉を持ちあわせていないのでありました。
(続)
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