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枯葉の髪飾りⅩLⅠ [枯葉の髪飾り 2 創作]

 一位から三位まで、数字を大書した旗をもってゴールした選手を記録席まで先導する係の生徒が居るのでありますが、拙生は旗の先導を無視して記録係のテントへ、吉岡佳世がその中に居てくれることを願って心急きながら向かうのでありました。全力疾走中に一秒とかほとんどその程度の時間でしかテントの中を覗けなったのであるし、しかもそちらに顔を向けて見たのでもなく横目で窺っただけでもあることから、きっと見逸れただけなのです。吉岡佳世はテントの中にちゃんと居て、笑いながら拙生を秘かな目の挨拶で迎えてくれるに違いないと、拙生は自分に言い聞かせながら小走りするのでありました。
 しかし矢張り、吉岡佳世の姿はテントの中になかったのでありました。最前列の机で記録をつけている女生徒に吉岡佳世はどうしたのだと、拙生は着順と三年生の二組の者である旨報告した後にそれとなく聞くのでありました。
「なんか具合の悪うならしたけん、保健室に行かしたです」
 下級生であろうその女生徒は拙生にそう云うのでありました。その言葉を聞いて最初に拙生の頭の中に立ち上ったのは悔悟でありました。先程図書館のベンチで彼女が疲れた様子を見せた時に、もう少し強くその表情に気持ちを働かすべきだったと悔いたのであります。いやもっと云うと、拙生はその時確かに心配にはなったのではありますが、その自分の中に生じた不安をしっかり掴もうとせずに、運動場の喧騒を離れて彼女と二人だけで居る嬉しさにかまけて、気遣いの握力をだらりと緩めてしまっていたのでありました。そのために実際大したことではなかろう等と、たかを括ったような視力の甘さが生じたのであります。それに、今のこの甘やかな最中にそうあって欲しくはないなと云う、甘やかでなくなってしまうことを忌避したい身勝手で浅はかな未練によって、その場凌ぎに彼女の体に起こった異変に対して拙生は結果として見ない振りを決めこんだのであります。
 拙生は保健室の方へ急ぐのでありました。保健室へ向う廊下で、先に教室で昼食をとっている時吉岡佳世に、体育祭終了後に行われることになっている同級生のロックバンドのステージ造りの手伝いを要請しに来た、島田と云う同じクラスの女子生徒が保健室の方から此方に歩いて来るのを見つけるのでありました。島田は拙生の姿を認めると駆け寄って来ます。
「佳世が大変なことになっとるよ」
 島田は少し声を荒げて拙生に先ずそう告げるのでありました。その声の荒さに拙生はなにやら咎められているような気がするのでありました。
「なんとなく記録係の所ば通ったら、佳世が俯いて後ろの方の椅子に座っとると。変に思って声ば掛けたら、顔色の真っ蒼しとったとさ。そいで急いで保健室に連れて行ったと」
 島田がそう続けます。拙生はその島田の言葉に思わず顔を顰めるのでありました。
「そいで、吉岡は今どがんしとるとか?」
「本人は大丈夫て云うとやけど、元々体の丈夫やなかとけんが、取り敢えず病院に連れて行った方がよかて保健の先生が云わすし、担任の坂下先生に連絡して、先生の車で市民病院に向かったと」
 拙生はその島田の言葉に一層顔を顰めるのでありました。
(続)
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