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枯葉の髪飾りⅩL [枯葉の髪飾り 2 創作]

 吉岡佳世は拙生を見て首を横に振るのでありました。
「ううん、別になんともなかよ」
「いつもより元気のなかごと見えるばってん」
「そんなことないって。結構元気よ」
 彼女は笑いながら両手で力瘤を作る仕草をして見せます。彼女が右手に持っていた水筒の赤いビニールの肩掛け紐が、彼女が腕を上げようとした時に動きを妨げるようにその腕に絡みつくのでありました。
 一応校庭に学年別にクラス毎に整列して午後の競技の再開を校長が宣して、生徒はその後トラックを取り巻く各々のクラス席に散るのでありました。吉岡佳世は拙生と別れて本部席の方へ向かうのでありましたが、彼女の体に変調があったのではないかと心配しているせいか、拙生にはその後ろ姿はいかにも頼りなく儚げに見えるのでありました。しかし病気との長いつきあいから彼女が一番自分の体のことを判っているはずでありますし、その本人が大丈夫と云っているのであります。疲れたような風情はあるもののああやってまた本部席に戻って雑用係の仕事に復帰するつもりなのですから、まあ、大丈夫なのだろうと拙生はそう考えて不安をなんとか宥めようとするのでありました。
 午後の競技が始まったと云っても拙生の出番はまだまだ先でありますから、拙生は午前中と同じように校庭をうろついたり隅田や安田とふざけあったり、時々吉岡佳世の姿を見るために記録係のテントの方へ足を向けたりしているのでありました。吉岡佳世はテントの中で午後はこれと云った仕事がないためか、手持ち無沙汰そうに後ろの方の席に座ってなんとなく競技を見ているのでありました。彼女はクラス席に居ても構わないのですからそちらに誘ってもよかったのでありますが、クラス席は日差しを遮るものもなくて彼女の体には辛かろうと拙生は慮るのでありました。
 拙生の姿を見つけると吉岡佳世はテントから出てきます。彼女を日向に居させるのを憚って、それにいちいちテントから出てくるのも面倒であろうから、拙生はなるべく記録係のテントにも行かないようにしようかと思うのでありましたが、しかしどうにも気になるので、結構頻繁に足を向けてしまうのでありました。
 さていよいよ、拙生の出番たる障害物競争であります。拙生は頑張ってトップで記録係テントの前を疾走して、吉岡佳世にいいところを見せんかなと張り切るのでありました。ひょっとしたら体の思わぬ不調から萎えているかも知れない彼女の気分を、少しは引き立て得るかと秘かに目論んでもいたのであります。多少の自信は元々あったのではありますが、はたして拙生は先ず梯子潜りでトップに躍り出て、各障害を無難に乗り切って先頭で記録係のテントの前を通過するのでありました。
 通過する一瞬、彼女の姿を求めて横目でテントの中を窺ったのでありますが、先程まで確かに居たはずの彼女の姿を見つけることが出来なかったのでありました。彼女の姿がないと思った瞬間、走りながら拙生の危惧が一気に膨張します。あまりに短い時間であったから見逸れたのかも知れませんが、ひょっとして彼女に異変が起こったのではなかろうかと心中戦慄きながら、拙生は不安一杯の顔をしてゴールを駆け抜けたのでありました。
(続)
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