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枯葉の髪飾りⅩⅩⅩⅤ [枯葉の髪飾り 2 創作]

 教室には数人の生徒が居るのでありました。体操服姿ながら皆夫々ばらばらに自分の席に座って、教科書やら参考書を広げて勉強している風であります。話声も聞こえない静寂なその雰囲気の中に吉岡佳世と二人連れで入って行くのは、なんとなく気後れするので拙生と彼女は図書館の方へ足を向けるのでありました。我々は図書館一階のエントランスにある長椅子に並んで腰を下ろします。図書館には殆ど人影もなく、偶に参考書を持って図書閲覧室に向かう他のクラスの三年生が通るくらいでありました。ここなら彼女とのんびりお喋りに現を抜かすことが出来るのであります。
「なんかあたし、ちょっと疲れた」
 吉岡佳世が両手で持った水筒を膝の上に置いて云います。「なんとなく知らず知らず緊張して、記録係の仕事ばしてたとやろうかね」
「大丈夫か?」
 拙生が聞きます。吉岡佳世の体のことを考えると、拙生としては彼女の疲れたと云う表明をつい深刻に考えてしまうのでありました。
「うん、大丈夫。そがん大したことじゃないけん」
「今日はなんとなく暑かしね。テントの中て云うてもずっと外に居ったけんがやろうか」
「もっと暑かった夏の海は、全然大丈夫やったとにね」
「気疲れしたとやろう」
「そうね、そうかも知れん」
 吉岡佳世は水筒の蓋をくるくると回して外し、中の麦茶を注いでそれを一口飲むのでありました。その彼女の顔を覗きこむ拙生を横目で見て、吉岡佳世は水筒の蓋を口から離して云います。
「あ、そがん心配せんでいいとよ。体の調子の変になったて云うわけじゃないし。ただなんとなく疲れただけやから」
「顔色は悪うなかように思うばってん」
「うん、大丈夫。それより井渕君の出る障害物競争て、最後から三番目にあるとやろう?」
「そう。三時半頃になるやろうね。そいまでオイはずうっと暇ぞ」
「入試の勉強でもすればよかたい」
「今日はなんとなくあんまいする気の起きらん」
 吉岡佳世が自分が飲み終えた水筒の蓋を拙生の顔の前に掲げて見せます。
「麦茶、飲む?」
「いや、オイはよか、要らん」
 彼女は蓋を水筒に戻してまたくるくると回します。
「なんかここ静かね。運動場の声とかもあんまり聞こえてこんし」
 吉岡佳世が水筒の蓋に置いていた片手をそこから離して拙生の手の甲に乗せます。拙生は掌を返してその手を握ります。
「学校の中でこうして手ば繋ぐとは、なんかちょっとスリルのあるね」
 吉岡佳世が拙生の顔を見ながら云うのでありました。
(続)
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