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枯葉の髪飾りⅩⅩⅩⅡ [枯葉の髪飾り 2 創作]

 拙生の出場する障害物競争は午後遅くに行われる予定でありました。それまで拙生はなにもする事がないのであります。ですから午前中はトラックを囲む生徒席で体育祭とは何の関係もないことを友人と話しこんだり、生徒席の前で俄か作りのチアリーダーをやる数人の同じクラスの女子をからかったり、後ろの櫓に登って高い位置から体育祭の様子を眺め下ろしたり、教室に引き上げて英語の参考書を開いたりして時間を潰すのでありました。校庭をうろちょろする序でに時々本部席辺に行って、記録をとるためテントの中の一番前の席で鉛筆を持って机の前に広げられた記録簿と、前で繰り広げられている競技を交互に見ている吉岡佳世の後姿を、もし拙生に気づいて彼女が振り返ったなら彼女だけに判るように密やかに手でも振ろうと思いながら、暫く見ていたりもするのでありました。
 記録係をやっている時には彼女はその仕事に如何にも真剣に取り組んでいる様子で、前を向いたまままったく脇目をしないのであります。そんなものだから彼女のいつもながらの生真面目な性格を考え、拙生はちいとばかり寂しい思いをしつつ手振りの交換を諦めて、我がクラスの生徒席の方へ引き上げるのでありました。
「また吉岡の処に行っとったとやろう、井渕は」
 トラックを挟んで本部席の対面になる生徒席にぶらぶら歩いて戻ると、友人の一人が拙生に云うのでありました。この友人は隅田と云う名の、二年生の時に同じクラスになって以来なんとなく気があうものだから、その後ずっと親しくしている男であります。
「別にそがんことじゃなか。ちっと水飲みに行っとっただけくさ」
 拙生は隅田に図星された動揺を隠すように努めてのんびりとした口調でそう云って彼の隣りの席に座ります。別に拙生と吉岡佳世がつきあっていることを隅田に報告したわけではないし、進んで公然化していたのでもなかったのであります。かと云って徹底的に秘密にしていたわけでもなかったので、多分拙生と吉岡佳世が待ち合わせて一緒に学校帰りのバスに乗るのを誰かに目撃されたこともあったでしょう。だから二人が良い仲であると知っている者には、もうはっきり知れていたのではありました。
「お前、普段は何時吉岡と逢うとるとか? 勉強でそがん時間なんか作れんやろうもん」
 生徒席の真ん中辺りに座って隅田が頭の後ろに両手を組んで、上体を後ろにやや反らして拙生に聞きます。他の我がクラスの者達は後ろの櫓に登っていたりその辺をうろうろしたり、或いは教室で参考書を開いていたりで、生徒席には隅田を含めて数人がそれぞればらばらに離れて退屈そうに座っているだけでありました。
「ま、その気になれば結構逢う時間はあるくさ」
「この時期にようそがん悠長にしとられるなあ、井渕は」
「お前んごと高望みしとらんけんね、元々オイは」
 隅田は九州有数の合格難関大学を目指しているのでありました。
「そいにしてもくさ、勉強の方に気合いの入らんやろうもん」
「要はここ一番の集中力の問題ぞ、受験なんちゅうもんは」
「ほう、集中力ねえ」
 隅田はそう云って鼻で笑うのでありました。
(続)
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