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養神館-新宿初期の頃Ⅱ [合気道の事など 1 雑文]

 新宿道場の運営が軌道にのりはじめてからだったでしょうか、千田務先生はもとより竹野高文先生も新宿道場に指導に来られ、その切れ味鋭い技を披露されておりました。その頃になると活況という点では地の利があるためか、小金井道場より新宿道場の方が勝る観がありました。塩田剛三館長先生以下、竹野先生、千田先生、桜井文夫先生、N野先生がローテーションで小金井と新宿を回られるようになると、指導者の陣様は小金井となんら変わることはなくなり、両道場伴に本部と云った感じでありました。
 その頃、現在オーストラリアのブリスベン道場で活躍されている森道治先生が入門されましたが、森先生は拙生にとってことのほか思い出に残る方でありました。最初道場で見た時は随分な優男が入門してきたなあと云った印象でありました。もの静かな人柄で入門当初は顔見知りの稽古仲間も少なく、今ひとつ道場の雰囲気にしっくり馴染めないと云う風で、戸惑い気味に道場の隅の方で人の動きを見ていると云った感じだったでしょうか。まだ森先生は十九歳だったと思います。
 ちょうど拙生の愚妻が(まだ当時は結婚してはいませんでしたが)、同じく入門後日が浅く森先生と同じ初心者コースで稽古をしていましたから、なんとなく森先生と言葉を交わすようになり、その関係で拙生とも話をするようになりました。ちなみにこの愚妻ですが、日本武道館で杖を振り回していたり、大学時代からずっと合気会の方で合気道を稽古していたのを、拙生が養神館に見学に来るよう促し、見学後すぐに養神館に鞍替えしたのでありますが、まあ、それはどうでもよろしいであります。
 当時の森先生は寡黙で稽古熱心でしかし秘めた覇気があって、結構頑固で、しかし若者にありがちな無用な邪気とか悪意とかは微塵もなく、照れたような笑い顔にまだあどけなさを残している、今時めずらしい好青年と云った印象でした。話していても不遜な言辞や態度はついぞ見ることはありませんでした。拙生が森先生にとって意ならぬことを云ったとしても、片頬にほんのりと不承であると云いたげな気配を浮かべながらも、決して年嵩の者に対する敬意を失うことはなかったのでありました。
 不幸にもこの森先生、六級の審査を件の愚妻と仕手受けで受験することになりました。と云うのは愚妻の身長が百五十五センチ、森先生は百七十五センチ以上と云う身長差でありまして、これで四方投げ等を行うとしたらかなり森先生に不利なるに違いありません。森先生にしたらさぞややりにくかろうと思いつつその審査を見ておりましたが、審査を終えた愚妻が「やりにくかった」などとほざくのを聞きつつ、そりゃ向こうはもっとやりにくかったに違いないわいと腹の中で云う拙生でありました。
 塩田剛三先生が逝去される前辺りに、ちょっとしたごたごたが養神館の機構の中であったのでありますが、そのごたごたを機に森先生はオーストラリアへ、本当はご自身の意に副うことではなかったようですが、赴かれて合気道を指導することとなりました。まあ、住めば都で新天地でも頑張るしかないなと励ましたのでありますが、「人ごとだと思って皆そんな風に云うんですよね」と返されて、拙生はちょっと動揺いたしました。ありきたりの送別の言葉として軽く云ったに過ぎないのでありましたが、森先生の心境を察すると如何様軽々しく無神経な言葉であったようでありました。
 しかし平成十七年にあった養神館創立五十周年演武大会で、森先生はオーストラリアからお弟子さんを引き連れて参加され、その折久しぶりに挨拶をさせてもらおうと席まで伺ったら、森先生には拙生の姿を認めると自ら立ち上がり深々と先に礼をして頂いたのでありました。拙生は十年以上も気持ちのささくれに引っかかっていた瘡蓋が、ようやく落ちたような気が、なんとなくしたのでありました。
 塩田剛三先生ご逝去前のそのごたごたの時期に、竹野先生、桜井先生も辞められ、N野先生も道場へは立たれなくなり、千田先生も中心指導をされなくなった新宿道場(その頃はもう本部道場)での稽古がかつての虹彩を失いつつあるような気がして、拙生はなんとなく場を失ったような気がしておりました。ちょうど折があって東芝府中工場の中の体育館で、千田先生のご協力もいただき、東芝の社員の方達と週に一度合気道の稽古をしていたのでありますが、拙生はそちらの活動に力点を移すことにしたのであります。色々な出来事があった養神館での稽古に未練はあったのでありますが、森先生の万分の一の悲壮な決意でもって、養神館新宿道場(本部道場)に別れを告げることにしたのでありました。
(了)
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