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ぎゅうにゅうⅣ [ぎゅうにゅう 創作]

「ギューニュー?」
 またもや初めて耳にする名称が出てきて拙生は頭が痛くなるのでありました。
「そいは英語の名前?」
「いいや、違う。あの、飲む牛乳くさ」
「白か牛乳?」
「うん、そうくさ」
「ふうん」
「本当は違う名前のあるとばってん、母ちゃんも隣の小母ちゃんも、上に住んどらす姉ちゃんも誰でんオイのことばぎゅうにゅうて呼ばす」
「変なか名前ねえ」
 拙生はそう云って笑うのでした。少年も笑い出します。ぎゅうにゅうと名乗る少年の大きな歯が、またその口元から覗きます。その大きな歯に笑ったことを咎められているような気がして、拙生は急いで顔から笑いの痕跡を消し去るのでありました。
 夏の海辺の強い日差しが拙生の腕や足の産毛に留まります。熱が次第に体内に染みこんできて、その熱で身体が熔けていくようでありました。雲の欠片もない黒々とした夏空をなんとなく眺めた拙生は、くしゃみを一つしました。涙の溜まった目を手首で拭くとまた少年の方を見るのであります。ぎゅうにゅうの身体は黒く輝いていました。
 拙生の身体とは比較にならないような逞しい身体であると思うのであります。夏の日差しに簡単に熔けだすような柔な身体ではない、黒い鎧のようなその体躯。太陽の光を怯まず受け止め、その光を体内に取り込んで、ますます黒く美しい光沢を手に入れることの出来る身体。まるで太陽と同格、対をなす存在のように、少年のことを思うのでありました。
 肘で身体を支えて仰臥するぎゅうにゅうの顔を拙生はうっとりと眺めます。手を伸ばして拙生は砂の小山の向こうに居る彼の横腹を人差し指で突ついてみました。ぎゅうにゅうの固い腹筋はいとも簡単に拙生の指を弾きとばします。
「ん、なんや?」
 ぎゅうにゅうが拙生の方へ顔を向けます。
「ここ、硬かねえ」
 拙生はもう一度ぎゅうにゅうの横腹を突つきます。今度も拙生の指はまったく相手にされないのでありました。ぎゅうにゅうは腹に力を入れます。見事な腹筋がその腹の上に浮きあがり、威きり立つのでありました。
「お前も力ば入れてみろ」
 ぎゅうにゅうに云われて拙生も息を止め威きんでみます。拙生の腹には腹筋の盛り上がりがまったく浮き出てはきませんでした。
(続)
タグ: 佐世保 少年
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