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ぎゅうにゅうⅡ [ぎゅうにゅう 創作]

 少年は拙生に断りもなく、砂の小山の向こう側からトンネルを掘りだします。彼の大きな掌は拙生の掘削作業よりもはるかに効率的に、大量の砂を一挙に掻きだします。その掌はその甲の艶やかな黒さに比して、潤んだようにほの白くどこか恥ずかしげにさえ見えるのでありました。短い髪の毛は一面毛玉をつくったように縮れていています。少し尖った分厚い唇から覗く前歯はとても大きく、これは誇らしげに白く輝いていいるのであります。少年の大きな歯はまるで、彼が特別の人間であることの証明のように拙生には思えるのでありました。畏怖に値する、少年の白く大きな歯。少年の肌の色は拙生の肌より、いや、浜辺の其処此処に居る誰よりも異質に、黒く鈍く輝いています。彼の肌は単に夏の日差しに炒られたために黒くなったのではなく、その色艶と云うものは生まれながらに彼が持っている肌の特徴のようでありました。で、トンネルは、あっけなく貫通してしまったのであります。
「お前琴平小学校に通いよるとやろう」
 少年が話しかけます。「朝時々、お前が学校に行くとば見かける」
「あんたも琴平小学校に行きよると?」
「いいや、オイはアメリカ人けん、アメリカンスクールに行きよる」
「ふうん。アメリカンスクールに行きよるとなら、英語とか話しきると?」
「当たり前くさ」
 少年は得意げにあの大きな歯を見せて笑います。
「へえ、すごかねえ。ちょっと話してみてん」
「急に云われてもすぐには出てくんもんか、そがんと。・・・」
 そう云いながらも少年はなにか言葉を見つけ出そうと、空に目を遣るのでありました。
「お前達のごたる日本人ば、英語でなんて云うか知っとるか」
「知らん。なんて云うと?」
 少年は日本人の蔑称を得意げに拙生に紹介するのでありました。
「へえ、ジャッ・・・」
 拙生は今聞いたばかりなのにその言葉をすぐに頭の中に収めることが出来ず、口ごもってしまうのでありました。少年がもう一度その蔑称を云ってみせます。
「判ったか、もう一回ちゃんと云うてみろ」
 拙生は今度ははっきりと繰り返します。少年はそれを見て満足げにうなづくのでした。
「そしたら、あんた達のことは何て云うと?」
「オイ達は・・・」
 少年がアフリカ系アメリカ人に対する蔑称を口にします。
「ふうん、なんか知らんばってん、格好良かねえ」
 拙生は初めて聞く自分達日本人を侮蔑して云うその呼称が、なんとなく気に入ったのでありました。なにやら誇らしい称号を得たような気分になったのであります。そう呼ばれる日本人と云うものは、きっとアメリカではとても尊敬されているに違いありません。
(続)
タグ: 佐世保 少年
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