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その犬の思い出Ⅱ [散歩、旅行など 雑文]

 その犬は我々と十メートル程の距離を保って地べたに尻を落としてこちらを窺っているのですが、決して近づこうとはしないのでありました。我々が再び歩き始めるのを待っているようであります。友人が試しに犬の方へ歩み寄ろうとすると、尻を浮かして飛びのくように数歩下がり、こちらが近寄る仕草をやめるとまたそこへ座って小首を傾げています。まあ、先の道程が長いのですからその犬にそんなに関わっている時間はないので、我々はまた沢山湖に向って歩き出しました。それとなく窺っていると、なんのつもりかつかず離れずの距離を保って犬はその後も我々についてくるのであります。
 不可思議な犬の行動に我々は少々薄気味悪いものを感じるのでありましたが、なんとなく及び腰で後をついてくるその様子から危害を加えようと云う気はさらさらないようです。妙な道連れが出来たものだと話しながら拙生と友人はのんびりと歩を進めるのでありましたが、どこかのタイミングで急にその犬の姿が後方から消えてしまいました。こんな貧乏臭い奴ばらについていってもなにかくれることもなさそうだと判断したのか、犬は我々の後を追うのをやめたようでありました。なんとなく我々も犬が居なくなってくれたのに安堵しました。ま、ちいとばかり寂しくもなったりするのでありましたが。
 もうほんのすぐで沢山湖が見えてくる辺りにさしかかると、今度は前方の道脇の雑木林の中でがさごそと云う背の高い草を踏みしめる音が聞こえてきました。林の中からふいに顔を覘かせたのは件の犬であります。犬は我々の方に目を向けてまた雑木林の中に消え、我々の後方へ回りこんで再び十メートルくらいの辺りで林から道に降りてきました。ちょっと寄り道はしたもののやはり我々の後を追っていたようであります。
 きっと我々がいかにも頼りなげな旅行者に見えたので、ちゃんと目的地まで散策コースを外れずに行くことが出来るのか、頼みもしないのにああやって後をついてきてくれているのかもしれないとは友人の推察であります。その内昼食に食い物を我々が取り出すはずと踏んで、根気よく追ってくるのだろうとは拙生の考えであります。いずれにしても犬は沢山湖を過ぎ独鈷山登山口という木札が立っている辺りを横目に、結局中禅寺まで同じような距離を置いて我々の後を相変わらずついてくるのでありました。
 中禅寺に着いて我々は中を拝観するのでありますが、犬は寺内には入ってはこず、夫婦道祖神の時のようにその辺に居る観光客に食い物をたかりはじめます。しかし我々が寺から出てくるのをちゃんと待っていて、次の龍光院と云うお寺に足を向けるとやはりのそのそと後をついてくるのでありました。いったいどこまで我々に同行するつもりなのでありましょう。まことにもって妙な犬であります。
(続)
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