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お前の番だ! 361 [お前の番だ! 13 創作]

 鳥枝範士に依れば、あの会長は、道分興堂、と云う威名が自分の政治的立場やら社会的評判やらにとって未だ充分に利用価値ありと踏んで、大いにそれを出しに使わんとして、その血を受けた威治教士に肩入れしているのだろうと云う事であります。本心では威治教士を歯牙にもかけていないけれど、興堂範士の名前を利用するに当たって、その実子の威治教士を手元に引きつけておいた方が何かと好都合であろうと云う魂胆でありますか。
「だから、威治に利用価値がなくなったら、あの会長はヤツをさっさと棄てるだろうよ」
 万太郎が何かの折にその辺を質した時、鳥枝範士はそう云って、冷めた笑いをするのでありました。「それに威治にとっては、そんな会長に頼る以外には何も寄る辺がない」
 鳥枝範士はそうも続けるのでありました。これは何とも、実に以って興醒めで殺風景なる相身互いの関係、と云うものでありましょうか。
 とまれ、直門連中の危惧やら不満やらも封殺出来る会長の剛腕と云うところでありましょうか。琴線を巧みに弾く甘言苦言、曖昧に仄めかすような恫喝やら賺しやら、寝業師会長の繰り出す錬りに錬られたその寝技の数々が、屹度その剛腕を裏から保証しているのでありましょうが、万太郎なぞにはその具体的な技巧は想像に余るところであります。
 威治教士にとっても、当面、実に結構な人が財団会長に収まっていたと云うべきかも知れません。しかし所詮、威治教士にしても会長に操られる側に居るのでありましょうが。
 さてところで、そうこうしているところに、花司馬筆頭教士がちっとも姿を見せない代わりと云うわけではないでありましょうが、興堂派の専門稽古生である宇津利益雄が総本部道場に万太郎を訪ねて来るのでありました。何となく思いつめたような顔をしているので質してみると、宇津利はどうやら興堂派の門下生を辞めるつもりのようでありました。
 何やらを万太郎に聞いて貰いたいような節が見えたので、夕方の専門稽古と夜の一般門下生稽古の間に時間があったから、宇津利を受付兼内弟子控え室に上げて、暫く話しをするのでありました。受付兼内弟子控え室には来間と準内弟子の狭間がいたのでありましたが、それを母屋の方に追っ払って宇津利と二人きりになるのでありました。
 宇津利は開口一番、自分は興堂派の専門稽古生を止める心算であると万太郎に告げるのでありました。そう云った後に宇津利が遣る瀬無いような溜息をつくのは、興堂派のゴタゴタが竟に門下生達の心根にも大きに影響を及ぼし始めたと云う表れでありましょうか。
「常勝流の稽古を止めて仕舞うのか?」
 万太郎がそう訊くと宇津利は顔を横にふるのでありました。
「いや、こちらの総本部道場に入門させていただきたいと考えているのです」
「ほう。それはまたどう云う了見で?」
「興堂派本部道場では前みたいなまともな稽古が出来ないからです」
 宇津利はそう云ってげんなり顔をするのでありました。
「技術の核であった道分先生がお亡くなりになったため、と云うのか?」
「それも、あります」
「花司馬先生や板場先生や、・・・まあ兎も角、そう云った先生がいらっしゃるだろう」
 万太郎は一緒に威治教士の名前を出そうとして、それを急に控えるのでありました。
(続)

お前の番だ! 362 [お前の番だ! 13 創作]

「ところが、板場先生は未だ時々稽古の指導をされていますが、花司馬先生はもうすっかり指導をされてはいないのです」
 万太郎はその言を聞いて目を剥くのでありました。
「花司馬先生が指導をされていない、と云うのは一体どういう事だ?」
「まあ、要するに干されたような感じですね」
「干されたって、誰に?」
「当然、若先生に、ですよ」
 敢えて訊かでもがなの事を訊くな、と云ったような不快が宇津利の目に現れるのでありました。まあしかしこれは実は万太郎に対しての不快と云うよりは、自分が今名前を出した威治教士に対しての不快であろうとは万太郎にも容易に推察出来るのでありました。
「まさか、花司馬先生は興堂派を辞められたのではないだろう?」
「いや、辞められたわけではないのですが、稽古への顔出し無用と、財団会長に云い渡されたのです。勿論、実際は若先生の魂胆なのでしょうけれど」
「何と、まあ、・・・」
 万太郎は驚き入るのでありました。「道分先生がいらっしゃらなくなって、ただでさえ指導の陣容が手薄になっただろうと思えるのに」
「花司馬先生が居ると、あれこれの面で若先生の立場がないと云う事なのでしょうね」
「若先生の立場なんぞより、指導陣の実質を損なわないのが先決だろうに」
 これは宇津利に云っても詮ない事だとは判るのでありましたが、しかし万太郎は竟、詰問口調になっているのでありました。
「自分もそう思います」
「じゃあ、花司馬先生は道場にお見えになっていないのか?」
「いや、毎日いらしてますよ。しかし受付部屋で、スーツ姿で受付をされておられます。花司馬先生としては、幾ら会長に顔出し無用と云われても、興堂派から給金を貰っている以上、何やらの仕事はしなければならん、と云ったお心算なのでしょう」
「それは確かに律義な花司馬先生らしいお考えだろうな」
「でも若先生としては逆に、それも一層目障り、と云ったところでしょうけれど」
 宇津利は花司馬筆頭教士に対してそんな仕打ちをする威治教士を嘲笑うように、片方の口の端だけを微妙に吊り上げるのでありました。
「つまり当てつけがましい、と映るのかな?」
「まあ、そう云った辺りでしょうね」
 宇津利の口の端が一層吊り上がるのでありました。
「で、それなら若先生が総ての稽古を指導されているのか?」
「いやまさか。あの横着な若先生がそんな責任感があるわけがないですよ」
「しかしそれではどう考えても指導者が足りないだろう?」
「八王子だったか小金井の方だったか、そこで支部長をしている人とか、随分昔に内弟子をやっていて、今はもう全く武道から足を洗っている人とかが来ています」
(続)

お前の番だ! 363 [お前の番だ! 13 創作]

「八王子の方で興堂派の支部長をしている人、と云ったら洞甲斐さんとか云う人か?」
「そうです。洞甲斐富貴介と云う名前の先生です」
 この洞甲斐先生と云う人は、忍術やら修験道の業法を稽古に取り入れて、瞬間壁抜けの術やら分身の術やら、人差し指で触れただけで相手の力を無力化して仕舞うと云う瞬間活殺法とか称する技法を唱えて、常勝流の普通の修業から見れば全く趣を異にするような、奇妙奇天烈な稽古を売り物とする人でありました。でありますから、興堂範士に常勝流を習ったとは云え、一般的に認知されている常勝流の、或いは常勝流興堂派の技法とは似て非なる、と云うよりは全く似てもいない、別物と云った様相の武術なのでありました。
 鳥枝範士の言を借りれば、常勝流の面汚し、と云う事になり、生前の興堂範士も、誓ってあんな子供騙しを教えた覚えはない、と云う、異端扱いの先生なのであります。それでも興堂派に在籍を許されていたのは、偏に興堂範士の包容力に依ってでありましょう。
「あの洞甲斐先生が指導にいらしているのか。・・・」
 万太郎はそう云ってから思わず絶句するのでありました。この洞甲斐流とも云うべき武術は、こう云った風でありますから一部の好事家の熱烈な支持と云うものは得ていて、一定数の門下生は確保しているようなのでありますが、あくまでも、そこそこ、という範囲は越えない程度であって、万太郎等が指導に出向いている常勝流総本部系の正統派の支部と較べると、その賑わいぶりは比べようもないと云ったところでありましたか。
「洞甲斐先生もさることながら、もう二十年以上も武道から遠ざかっていた人とか、大昔に内弟子をしくじって辞めていた人が俄かに復活して、神保町の興堂派本部に乗りこんで来て大威張りで指導をし始めたのですから、その本部の、惨状、を察してください」
 宇津利は愛想尽かしの溜息を一つつくのでありました。
「どうしてそんな風になったんだろうな?」
「勿論、若先生の出鱈目な人脈と采配からです。道分先生が亡くなって、それに花司馬先生も干して、その穴埋めと云う心算なのでしょうが、それにしても呆れるばかりです」
「大方の門下生はそれで納得しているのか?」
 納得していないから宇津利がこうしてここに現れたのでありましょう。無意味な質問をしたものだと、万太郎は心の内で自分の言に舌打ちするのでありました。
「前に比べると色んな技術が学べるようになって楽しいなんて、あっけらかんと不見識な事を云う者も少数おりますが、大多数は苦々しく感じているでしょう。指導陣の多士済々を目論んだ心算でしょうが、それは実は、薄ら寒い実状の体裁を取り繕うための方便で、根本の常勝流興堂派の技術は、もう神保町では学べなくなったと云う事ですよね」
「それで、向こうを見限って、総本部に移りたいと云うわけだな?」
 宇津利は瞑目してゆっくり頷くのでありました。
「判った。興堂派内部の人間ではなくて、その一門下生が、自分の習う武道の道場を選ぶのは基本的に自由だ。移籍は問題ないだろう」
 万太郎が云うと宇津利は嬉しそうな安堵したような顔をするのでありました。
「有難うございます。入門を許されて、胸の痞えが取れたような気分です」
(続)

お前の番だ! 364 [お前の番だ! 13 創作]

「早速今夜の一般門下生稽古から参加するか?」
 万太郎が笑顔でそう訊くと宇津利は遠慮がちに首を横にふるのでありました。
「いいえ、今日はこれで帰ります。未だちゃんと興堂派を辞めたわけじゃありませんから。辞めてもいないのにこちらで早速稽古するのは、如何にも慎みのないふる舞いだと思いますので。それに第一、今日は稽古着を持ってきていません」
 宇津利はそう云って万太郎にお辞儀して見せるのでありました。この宇津利の篤実さを、万太郎は大いに是とするのでありました。
「じゃあ、諸事綺麗に収めて、それから堂々とやって来い」
「判りました。そうします。どうも有難うございました」
 宇津利はもう一度万太郎に深々と座礼するのでありました。用件を述べ終えて受付兼内弟子控え室を出る宇津利の顔から、懸案を解決した晴れやかさが毀れるのでありました。
 万太郎はその夜稽古が終わってから師範控えの間に居る是路総士に、宇津利が来て総本部道場に移籍したい希望があったのでそれを許した旨、お茶を持って行った折に報告するのでありました。同時に、興堂派からの移籍でありますから多少微妙な事情もありはするので、自分の一存で移籍を許可する前に是路総士にお伺いを立てた方が良かったかしらと、迂闊にも宇津利が帰った後に思ったのでその辺のお先走りをも一緒に謝るのでありました。
「ああそうか。成程ね。相判った」
 是万太郎の懸念を余所に、路総士はあっさりそう云うだけでありました。その後万太郎は、宇津利に聞いた興堂派の最近の様子を是路総士に聞かせるのでありました。
 洞甲斐富貴介の名前を聞いた是路総士は、思わず口元に苦笑いを作るのでありましたが、これは意外な名前が出てきた事に呆れたためでありましょう。ただその事態を腐しはしないし、特段の批判めいた感想等も何も云わないのでありました。
「それからその、昔内弟子をしくじって辞めた、と云うのは何と云う人だ?」
 是路総士はふと思いついたようにそう訊くのでありました。
「ええと、確か、太土木何某、とか云う名前でしたか」
「太土木文太、か?」
「ああそうです。そう云う名前でした。総士先生はご存知で?」
「知っている。確か道分さんを後援していた何とか云う会社の社長の息子で、大学を出てからブラブラしていたのを、親に云われて道分さんの通いの内弟子になったのだが、内弟子仕事はサボるわ、稽古には何時も遅れて来るわ、それを道分さんや花司馬君に叱られても一向に応える風もなくしれっとしているわ、稽古中に女子の門下生に下らんちょっかいは出すわ、まあそう云う風だから腕前も全く上がらないわで、半歳程で勝手にプイと出て行った男だ。どうしたものか威治君とは気があって、良く二人で遊んでいたらしいが」
 同気相求むと云うところですか、なんぞと万太郎は竟云おうとしたのでありますが、これは些か穏当を欠く発言になると思って唇の外には出さないのでありました。
「総士先生はなかなか詳しくご存知なのですね」
「以前に神保町に剣術の指導に行った折、その稽古に出ていた事があった」
(続)

お前の番だ! 365 [お前の番だ! 13 創作]

「矢張り稽古態度は戯けた感じでしたか?」
「ま、そうだったな。道分さんも浮世の義理から内弟子に取ったのだが、ほとほと持て余していたようだったな。辞めさせるわけにもいかないと、私に秘かに零していたよ」
「そう云う人やら、先に話しに出た洞甲斐先生やらを興堂派の本部に指導者として招聘するとは、若先生は一体どう云うお心算なのでしょう?」
「さあ、知らん」
 是路総士は全く他人事のように鮸膠もない云い方をするのでありました。その云い草で是路総士は、明らかな不快感を表明していると万太郎は理解するのでありました。
 母屋の食堂に帰ってくるとあゆみと来間がコーヒーを飲んでいるのでありました。万太郎の顔を見た来間がすぐ立つのでありました。
「折野先生もコーヒーを召し上がりますか?」
「ああ、淹れて貰おうかな」
「押忍。承りました」
 来間が立ったその横の椅子に万太郎は腰を下ろすのでありました。
「興堂派の宇津利君が来たんだって?」
 あゆみがコーヒーカップを持ち上げた儘訊くのでありました。あゆみは小金井の方に出張指導に行っていたから、帰ってから来間に聞いたのでありましょう。
「ええ。興堂派を辞めてこちらに移りたいと云う事です」
「じゃあ、入会の手続きに来たの?」
「いや、その相談、と云う感じですかね。未だ向こうを辞めると云う意志表示をしていないからと、今日は稽古を遠慮して帰って行きました。その場で僕は一応入門を許可しましたが、その事を今、総士先生にも申し上げてきたのです」
「噂だけど、何だか興堂派は今、しっちゃかめっちゃかになっているらしいわね?」
「そんな感じみたいですね。花司馬先生が指導の役を干されたり、何やら怪し気な人とか怠け者で内弟子を仕くじった人とかが、その代りに指導者として乗りこんで来たりとか」
「花司馬先生は今、指導をされていないの?」
 あゆみは驚いたようで、コーヒーカップを口に運ぶ手が止まるのでありました。
「そうみたいです。若先生との確執がある、と云うのか、若先生が勝手に確執を抱いているみたいで。花司馬先生は今、道場の受付係をされているみたいですよ」
「何それ。なんて勿体ない!」
 あゆみの語調が少し憤りの色を添えているのでありました。
「若先生一人の了見なら、そんな理不尽なんかは花司馬先生なら一蹴されるのでしょうけど、財団会長がバックについているようで、花司馬先生も無闇に逆らえないようですね」
「だからって、受付をさせる事はないんじゃない?」
「いや、指導を止められているから、花司馬先生自らの意志で受付の仕事をされているようです。興堂派から給金を貰っている以上、何か仕事はしないと申しわけないと云う気持ちからだそうです。如何にも花司馬先生らしい律義なお考えだとは思いますけれどね」
(続)

お前の番だ! 366 [お前の番だ! 13 創作]

「それにしても、酷い話しね」
 あゆみはそう云ってコーヒーカップを下に置くのでありました。ほぼ同じタイミングで来間が、万太郎のために淹れたコーヒーをテーブルに載せるのでありました。
「すると今は、興堂派はどのような指導体制になっているのでしょうか?」
 来間が椅子に座りながら万太郎に訊くのでありました。
「若先生と板場先生と、それに堂下と、それから若先生が何処からか連れて来たと云う妙な連中が二三人、と云った陣容のようだな。確か来間も知っているだろう、八王子の興堂派支部の洞甲斐さん辺りも指導に来ているらしいぞ」
「洞甲斐さんと云うと、何やらムニャムニャと呪文のようなものを唱えて、人差し指で縦一列に並んだ数人の弟子の先頭をちょんと触って、弟子達を全員揃って後ろに吹っ飛ばすと云う、ええと何でしたか、瞬間活殺法、とか云う技の、あの洞甲斐さんですか?」
「そう。その洞甲斐さんだ。よく知っているな、来間」
「あの人は或る意味で、超有名人ですからね。妙に痩せた体型をしていて、白髪交じりの長い髪を後ろにポニーテールみたいに束ねて、髭も伸び放題で、稽古着の着方も、どうしたらそうなるかと云うぐらいだらしないと云うその風貌も奇抜ですし」
 来間はそう云って冷めた自分のコーヒーを一口飲むのでありました。
「お前、逢った事があるのか?」
「いや、随分前ですけど、テレビのバラエティー番組にちょろっと出ていましたよ。自分が未だ常勝流を始める前の事ですが、随分妙ちきりんなオッサンだと思いましたよ」
「へえ、テレビにも出た事があるのか」
「世の中にはこんな変人もいる、とか云うので取り上げられたのでしょう」
「ああ成程ね」
 万太郎は口の端に笑いを湛えて来間からゆっくり目を逸らすのでありました。
「お話しになる事も、法力で空を飛べるだとか、高尾山の天狗に修行法を習っただとか、聞いているこちらが目を白黒させなければなりません。前に片倉と話した事があるんですが、片倉もそのテレビ番組を覚えていて、同じ常勝流でも、自分達はあの先生の弟子にならなかった幸運を神様に感謝しなければならんな、なんて冗談云って笑いあいました」
「へえそ、うか。そんなに詳しくはあの人の事を知らなかったなあ」
「テレビで見た時はあの人が興堂派の八王子支部長だとは知らなかったのですが、常勝流を習い始めてからその事を知って、愕然としましたね」
「それは愕然とするだろう」
 万太郎はそう云って声を立てて笑うのでありました。
「それからこれは、物語、として伝わっている話しですが、或る酒の席で道分先生に洞甲斐先生が、そんなに凄いのならその天狗に習ったとか云う技を俺にかけてみろ、なんて云われて、それからは随分その怪気炎が萎んで仕舞ったと云う事です」
 来間は一体何処からそんな話しを仕入れてくるのでありましょう。常勝流修行者としてその辺りの情報を殆ど知らない万太郎は、迂闊と云えば迂闊と云うものでありましょうか。
(続)

お前の番だ! 367 [お前の番だ! 13 創作]

「そんな人が指導をしているとなると、道分先生の今までの精進も報われないわね」
 あゆみが洞甲斐氏本人の話題から、会話を本筋に戻そうとするのでありました。
「興堂派の門下生達の動きは、どうなんでしょう?」
 来間がその筋に添って万太郎に訊ねるのでありました。
「宇津利が移籍したいと云いに来るようだから、内情は推して知るべし、だろうな。宇津利によると、殆どの門下生は失望していると云う事らしいし」
「まあそうでしょうね。若先生が一体どう云う将来の見取り図を描いているのか良く判りませんが、今の路線を続ける了見なら退会者が続出して、急速に先細りしていって、その内空中分解するのは目に見えているような気がしますが」
「まあ、それが大方の予想だろうな。しかしこれは他流の事だから、総本部があれこれ手出しするわけにはいかない。こちらとしては気を揉みながらも見守るしかない」
「しかし根は同じ常勝流ですし、向こうだって常勝流を会派の名前に冠しているのですから、総士先生の発言も一定程度は重んじられるのではないですか?」
「まあ、総士先生がどのようにお考えなのかは判らないが、しかし、あの若先生との間にはあんまり良い経緯はなさそうだからなあ」
 こう云ってから万太郎は、これはちょっと余計な事を口走ったかしらと、あゆみの方をちらと窺い見るのでありました。この自分の言なんと云うものは、当然あゆみと威治教士の縁談話しが不調であった事を念頭にしているのでありましたから。
「それにしても、花司馬先生の事が気に懸かるわねえ」
 あゆみが万太郎の発言をサラッと受け流すように云うのでありました。いや、受け流すように、と考えるのは万太郎の感触であって、実際あゆみは何もその万太郎の言に拘る意識もなかったかも知れないし、実は矢張り引っかかって、本当に受け流そうとしたのかも知れないのでありますが、まあ、機微に触れるような発言は控えるべきでありました。
「花司馬先生には味方はいないのですか?」
 来間が万太郎の方を向いてそう訊くのでありました。
「理事の中にも、それに道分先生の後援者だった人の中にも、いない事もないだろうが、しかし会長の威光が頭抜けているからな。あの会長は海千山千の政治家らしいし」
「でも屹度近い内に、何か動きがありそうな気がするわ」
 あゆみがそう云うと、万太郎も来間もしかつめ顔で頷くのでありました。確かにこの儘興堂派があっさり落ち着くとは、万太郎も到底考えられないのでありました。

 あゆみの云った、動き、の一つとして、と云う事になるでありましょうが、数日経ってから花司馬筆頭教士が、稽古が総て終わった夜に総本部道場を訪ねて来るのでありました。その日総本部道場では鳥枝範士の指導の日であったから、師範控えの間に花司馬筆頭教士を招じ入れて、是路総士と鳥枝範士の二人が応接するのでありました。
 万太郎は八王子の出張指導に出ていたので、帰ってみるとあゆみから花司馬筆頭教士が来ている事を告げられるのでありました。万太郎は急に胸騒ぎがするのでありました。
(続)

お前の番だ! 368 [お前の番だ! 13 創作]

 何となくやきもきしながら母屋の食堂で待っていると、師範控えの間の廊下で待機していた来間が戻って来て、向こうで酒を所望だと告げるのでありました。それから万太郎とあゆみと、それに来間も一緒に酒肴に与れとの事でありました。
 日本酒の燗をする来間と、肴の用意をするあゆみを残して、先ず万太郎一人が師範控えの間に駛走するのでありました。座敷からは笑い声が聞こえてくるのでありました。
「押忍。失礼いたします」
 万太郎は廊下に正坐してそう声を上げて、障子戸を開くのでありました。笑みの残滓を頬に止めた儘笑い収めた三人が、万太郎の方に顔を向けるのでありました。
「おお折野君、夜遅くお邪魔しています」
 花司馬筆頭教士がそう声をかけるのでありました。思いの外元気そうな声に万太郎が少し面食らうのは、先程覚えた自分の胸騒ぎとの不整合に戸惑ったからでありました。
「押忍。いらっしゃいませ。酒と肴は整い次第持って参ります」
 万太郎はそう云ってから座敷に膝行で入るのでありました。
「実は花司馬が、興堂派を辞める事になったそうだ。今日はその報告に来たんだ」
 鳥枝範士が花司馬筆頭教士の来意を代わって告げるのでありました。
「え、本当に興堂派をお辞めになるのですか?」
 万太郎は花司馬筆頭教士の顔を凝視するのでありました。
「うん、辞める」
 花司馬筆頭教士はそれだけ云って、万太郎に笑むのでありました。
「今の興堂派には花司馬の居場所はないからな。向こうも今更何をしに神保町に足を運んで来るのか、と云ったすげない態度らしいから、そうまでされて居る必要もないと云うわけだ。長年尽くしてくれた大事な人間に、そう云う仕打ちはないと云うものだ、全く」
「辞められた後は、どうされるのですか?」
 辞めると決めた経緯には語り尽くせない程の思いがあるでありましょうが、それはここでは敢えて一足飛びして、万太郎は向後の花司馬筆頭教士の身のふり方を訊くのでありました。経緯に関しては、この後の酒を飲みながらの懇話の中で出るでありましょうから。
「さてどうするかな。未だはっきり決めてはいないよ」
 花司馬筆頭教士は先の目途も何も立てずに、先ずは辞めると決めた自分の呑気、或いは軽はずみを自嘲するような笑みを浮かべるのでありました。先の目途を立てるよりも取り敢えず辞めると云う決意を先にしたと云う、その切羽つまった心根が充分に察せられるので、万太郎は苦渋の顔で花司馬筆頭教士の自嘲の笑みに応えるのでありました。
「花司馬がこれで常勝流をすっかり止めて仕舞うのは全く惜しいと云うので、良かったら我々で花司馬の立つ瀬を考えようと、今さっき総士先生とワシで提案したところだ」
「花司馬君自身は当然、常勝流を続ける意志は未だあるのだろう?」
 是路総士が花司馬筆頭教士の方に顔を向けるのでありました。
「ええ、それはもう。道分先生の内弟子になって随分経ちますが、ようやくこの頃になって少しは常勝流の術理が判ってきましたし、自分でももっと続けたいとは願っています」
(続)

お前の番だ! 369 [お前の番だ! 13 創作]

 花司馬筆頭教士は慎に謙遜な言葉でその志望を述べるのでありました。
「相判った。しかし明日から総本部に来て貰ってもこちらとしては一向に構わんのだが、性急に事を運んで、威治のヤツに下らぬ謗言を許して仕舞ってもつまらんからなあ」
 鳥枝範士がそう云って腕組みするのでありました。
「自分としては、何処かで小ぢんまりと地道に、少数の同じ愛好の仲間達と稽古が出来ればそれで構わないのです。稽古が続けられるなら、それで充分なのですから」
 この花司馬筆頭教士の言は、無二の師匠と仰いだ興堂範士を失った空虚感とか、これは一方的に仕かけられてきたものではありますが、その後に続いた威治教士や会長との、気の滅入るような興堂派のヘゲモニーをめぐる暗闘に疲れて、気持ちが萎えている今現在の心境から発せられた一種の遁辞でありましょう。それにまた、こよなく愛した興堂派が衰微の危機にあると云うのに、それを見捨てて去ろうとする自分の負い目、己の無力さや情けなさ等の交々が、こんな隠遁的な言葉を此の人をして口走らせているのでありましょう。
「いやいや、お前には常勝流武道が興隆するための、推進者の側になって貰わねば困る」
 これは鳥枝範士の激励の言でありますか。
「身に余る有難いお言葉を感謝いたします」
 花司馬筆頭教士はそう云って鳥枝範士に頭を下げるのでありました。ちょうどそこに、あゆみと来間が燗の日本酒と肴を持って現れるのでありました。
「今お寿司を頼んでいますので、それが来るまでは子供騙しのようなつまらない肴ですが、これで我慢して暫く飲んでいてください」
 あゆみが徳利と夫々の猪口と急ぎ拵えた肴を来間と一緒に卓上に並べながら云うのでありました。あゆみがもの云うと、急にしめやかだった座敷の中が華やぐのでありました。
「いや、無調法にもこんな時間に出し抜けにお邪魔して、あゆみ先生には余計な手間をおかけしたようで、慎に申しわけありません」
 花司馬筆頭教士はあゆみに律義なお辞儀をするのでありました。
「いえ、とんでもありません。あたしが作った物なんかお口にあわないかも知れませんが、お寿司が来るまで我慢して食べていてくださいね」
「いやあ、道分先生とこちらに出張指導にお邪魔した折に偶にご馳走に与りましたが、どうしてどうして、あゆみ先生の手料理はどれも大変美味しかったです。道分先生もあゆみ先生の手料理を何時も楽しみにしていらっしゃいました」
「道分さんは奥さんを早く亡くされたからか、こんなような普通の家庭料理がお好きでしたなあ。お世辞もあるにしろ、あゆみも随分誉められたよなあ」
 是路総士がその折の情景を懐かしがるようにあゆみに笑みかけるのでありました。あゆみも在りし日の興堂範士を偲んで、寂し気な笑みをして静かに頷くのでありました。
「花司馬君、まあ一献」
 是路総士が徳利を持って花司馬筆頭教士に差し出すのでありました。
「は、有難うございます」
 花司馬筆頭教士は答礼して、両手で恭しく猪口を持って前に差し出すのでありました。
(続)

お前の番だ! 370 [お前の番だ! 13 創作]

「今日は花司馬君のこれまでの働きに対する慰労会と云う事にして、折野もあゆみも来間も、夫々濃淡はあるにしろ花司馬君と交流があったのだから、大いに楽しくやれ」
 花司馬筆頭教士の猪口に酒を注ぎ終わった是路総士が云うのでありました。万太郎とあゆみは偶にこのような席に連なる事もありましたが、来間はその日初めて是路総士と鳥枝範士、それに興堂派の筆頭教士と云う重鎮とのくだけた酒宴に同席の栄を賜ったので、逆に緊張で全くくだけない面持ちで花司馬筆頭教士から酌をして貰っているのでありました。
「若しも花司馬先生が何処かで常勝流の道場を開かれるなら、興堂派の現状に不満を持つ門下生達が大挙して押し寄せて来るでしょうね」
 幾つか花司馬筆頭教士と杯の遣り取りをした万太郎が云うのでありました。
「それは屹度そうね。興堂派本部よりも盛況になるんじゃないかしら」
 あゆみが頷くのでありました。
「そりゃあ威治のヤツに習うより、余程本格的な稽古が出来るからな」
 鳥枝範士も頷くのでありました。
「いや、辞めてすぐに自分の道場を、まあ、何処かの体育館を借りて同好会と云う形ででも開いたりするのは、何やら慎みのない所業のようで、今現在は躊躇いがありますね」
「慎みがないとは、誰に対して慎みがないのか?」
 鳥枝範士が猪口をグイと空けてから訊くのでありました。
「まあ、興堂派に対して、と云う事になりましょうか」
 花司馬筆頭教士は徳利を取って空いた鳥枝範士の猪口に酒を注ぐのでありました。
「辞めた以上、何の遠慮が要るものか」
「しかしまあ、地下の道分先生に対しても申しわけが立たないようで。・・・」
「お前の意志や都合で辞めたのではなくて、云ってみれば向こうに無理強いに辞めさせられるようなものなのだから、引け目を感じる必要は何もない」
「でも、形としては自分が辞表を出すのですから、自分の自己都合です」
「形がそうであっても、そう仕向けられたと云う事情は誰でも知っている」
「敢えて事を構えるような真似はしたくないと云う、花司馬君の気持ちでしょうよ」
 是路総士が鳥枝範士の指嗾するような言葉をやんわり制するのでありました。
「そりゃあ態々角を立てるような挑発的な真似は返って損かも知れませんし、得策とは云えないかも知れませんが、彼奴等の思う儘に事を許しておくと、常勝流そのものの品格を世間から疑われて仕舞います。延いては総士先生の名折れともなります」
「まあ、興堂派は我々とは別流派ですからなあ」
「それはそうですが、そうなれば全く無関係だと云う事を世間に知らしめるためにも、常勝流の名前を使わせないようにしなければなりません。奴等と同じ流派だと思われるだけで、胸糞が悪くなるし迷惑ですぞ。こうなれば一番、総本部として強く出ないと」
「まあまあ、そう熱り立たないでください」
 是路総士はそう云いながら鳥枝範士の猪口に酒を差すのでありました。
「ああこれはどうも、恐れ入ります」
(続)

お前の番だ! 371 [お前の番だ! 13 創作]

 鳥枝範士は急に謹慎な風情で背を丸めて首を垂れて、是路総士の酌を受けるのでありました。その急変が面白かったのか、あゆみが口に掌を当てて笑うのでありました。
「何か可笑しいか、あゆみ?」
 鳥枝範士はあゆみを横目で睨むのでありました。
「鳥枝先生、高血圧で病院に入院、と云う事態だけはくれぐれも用心してくださいね」
 あゆみはそう云ってもう一度笑い声を立てるのでありました。
「なあに、すぐに熱り立って見せるのは、実は鳥枝さんの素ぶりであって、本当は全く冷静なんだよ。ま、座の盛り上がりを促すための、云ってみれば愛想やサービスの一環だ」
 是路総士がそう云って笑うのでありました。
「総士先生、元帳を披露されては困ります」
 鳥枝範士は照れ臭そうに頭を掻くのでありました。「いやしかし、自派の呼称に常勝流の名前を冠していながら総本部を蔑ろにする事は、実際のところ看過出来ません。こうなれば一度は、総士先生の御出馬をお願いする事になるかも知れませんなあ」
「花司馬君の次は、私を唆そうと云うので?」
 是路総士はそう云って鳥枝範士に笑みかけるのでありました。
「いやいや、滅相もない」
 鳥枝範士は慌てて掌を横にふるのでありました。
「まあ、もう少し向こうの出方を待ちましょう。威治君には会長がついているのだし、幾ら政界の寝業師と云われた人でも、いや寧ろそうであるからこそ、無用に義理や礼儀を欠いて、態々相手につけこむ隙を与えたりするような無意味な真似はしないでしょうから」
「ま、総士先生がそう云われるのなら」
 鳥枝範士は自説を取り敢えず懐に仕舞うのでありました。
「ところで最近、総本部の様子は如何ですか? 興堂派からこちらに移って来る門下生が急に増えたりはしていないでしょうか?」
 花司馬筆頭教士が少し話しの舳先を変えるのでありました。
「まあ、幾らかはそう云う報告が支部から来ていますかな。総本部にも興堂派でやっていたと云う人が見学やらに見えるケースも、若干増えはしましたかな」
 是路総士がそう語るのを聞きながら、万太郎は先日来た宇津利益雄の事を思い浮かべるのでありました。宇津利の来訪は、興堂派から総本部へ移籍しようとする門下生の大量流入の、先触れのようなものであろうと万太郎は考えているのでありました。
 そうなると向こうが見れば興堂派内部のゴタゴタにつけこんで、総本部が漁父の利を占めたと見えるかも知れないのであります。冷静に見ればそんな事は云いがかり以上では勿論ないのでありますが、あの威治教士ならそんな僻目は得意でありましょうから。
 結局総本部までもが興堂派のゴタゴタに巻きこまれる事になると云うのは、これはもう間尺にもあわないと云うものでありますが、かと云って総本部に行先を求めた興堂派の門下生達を無下に門前払いするのも無責任と云うものでありましょう。万太郎は未だ起こってもいない難事に想像を回らして、秘かにたじろいでいるのでありました。
(続)

お前の番だ! 372 [お前の番だ! 13 創作]

「板場君や堂下君はどうしているのかい?」
 是路総士が花司馬筆頭教士の酌を受けながら訊くのでありました。
「板場はあの通り生真面目一辺倒なヤツですから、右往左往しながらも興堂派に留まって、道分先生の後継である威治教士のために尽くそうとしています。堂下は未だ威治教士にもの申す程の経験も実績もありませんから、こちらも取り敢えずは威治教士の威令に背ける筈もありません。二人共、見ていると気の毒になってくるくらいです」
 花司馬筆頭教士は自分が威治教士に受けた気の毒な仕打ちはさて置いて、二人の弟内弟子に同情を寄せるのでありました。
「そうすると、花司馬が辞めるのに同調するわけではないのだな、二人共?」
 鳥枝範士が花司馬筆頭教士に徳利を差し出すのでありました。
「そうでしょうね。第一あの二人に辞められると、今の興堂派は指導の体裁が全く取れなくなってしまします。あの二人だけは、威治教士もまさか辞めさせないでしょう」
「まあ、花司馬は威治に逆らえるが、あの二人は未だ逆らえないからな。道場に残しておいても、威治の目障りになるような存在ではないだろうし。しかし指導の体裁と云う点で云えば、元内弟子落伍者とか、瞬間活殺法の先生とかが来ているのだろう?」
 鳥枝範士にそう云われて、花司馬筆頭教士は苦笑いを浮かべるのでありました。
「まあそうですが、長年に亘って道分先生の薫陶を受けた人達ではありませんから。・・・」
「花司馬君自身はこの後一先ず、具体的にはどうするつもりだい?」
 是路総士がそう云いながら、先程から話しに加わるのを遠慮して、当然同じ遠慮から一向に酒も進まない、座卓の端で小さくなっている来間に徳利を差し出すのでありました。来間は慌てて、先程の鳥枝範士よりも一層謹慎そうに両手で自分の猪口を差し出すのでありましたが、まさか是路総士にお酌して貰うとは思ってもみなかったでありましょう。
「来間、それを飲んだら寿司が遅いから、もう一度電話して催促してこい」
 鳥枝範士が猪口を捧げ持つ来間に命じるのでありました。
「押忍。すぐに電話して参ります」
 来間は一息で猪口の中を干すと、急いで師範控えの間から退出するのでありました。
「さて、花司馬君、興堂派を辞めた後、何か収入の当てはあるのかい?」
 是路総士が花司馬筆頭教士に訊くのでありました。
「いやあ、すぐには。まあ、少しですが蓄えもありますからそれで食い繋ぎながら、折を見て職安にでも行って、自分に出来る仕事を探しますよ」
「しかし花司馬君は妻子持ちだから、そう悠長にはしておられんのだろう?」
「それはそうですが、何とかなるでしょう」
「花司馬は武道以外に何か就職に有用な資格を持っているとか、特技とかあるのか?」
 今度は鳥枝範士が訊くのでありました。
「いや何もありません。しかしこの鍛えた体がありますから」
 花司馬筆頭教士はそう云って自分の胸を拳で一つ打つのでありました。その仕草を鳥枝範士は懐疑的な目で見遣るのでありました。
(続)

お前の番だ! 373 [お前の番だ! 13 創作]

「お前みたいな武道一辺倒で今まで来たヤツが、この世知辛い世の中でおいそれと適当な仕事なんか見つからないぞ。そうは思わんか?」
「そうかも知れませんが、いざとなったら立ちん坊でも何でもします」
「そうか。しかしどうせ立ちん坊をする覚悟があるのなら、この際ウチに来ないか?」
「ウチ、と云われますと?」
 花司馬筆頭教士は鳥枝範士を真顔で見るのでありました。
「いや、総本部道場に来いと云っているのではなく、鳥枝建設の方だ」
「ええと、鳥枝建設で立ちん坊をさせていただけるのですか?」
「そうじゃない。鳥枝建設の社員にならないかと云っておるのだ」
 そう聞いて花司馬筆頭教士の眉宇が一瞬開くのでありました。
「この自分が、鳥枝建設の社員に、ですか?」
「何だ、鳥枝建設では不足か?」
「いえ、とんでもありません」
 花司馬筆頭教士は慌ててせわしなく首と両掌を横に何度もふるのでありました。「それは思いもかけなかった有難いお誘いではありますが、しかし鳥枝先生からこの自分如きが、そんなご高配を頂戴してもよろしいのでしょうか?」
「なあに構わんよ。それに鳥枝建設には常勝流の愛好会があるから、そこで興堂派のゴタゴタが落ち着くまで、暫く体熟し程度だが常勝流をやっておれ。ま、将来に亘ってずっと鳥枝建設の常勝流愛好会に居て貰う心算ではないんだがな」
 鳥枝範士はここで意味深長にニヤリと笑うのでありました。
「ああそれは良い。鳥枝さんのご厚意にこの際その身を預けるのも一手ではある」
 是路総士が何度も頷くのでありました。
「鳥枝先生のご迷惑にはならないのでしょうか?」
 花司馬筆頭教士は恐懼の面持ちで訊ねるのでありました。
「前にウチに入れた面能美の場合もそうだが、常勝流の内弟子をしていたヤツは滅多な事で音をあげないし、どんなキツイ仕事でも黙々と仕遂げるから、社内の受けは頗る良いんだ。ちなみに面能美は、今は秘書室主務と云う役職についている。この頃は海外での現場視察を取締役に代わって任されたりして、大いに活躍しているよ」
「ああ、前に神保町にも定期的に稽古に来ていた、あの面能美君ですね?」
「そうだ。面能美は鳥枝建設の常勝流愛好会の責任者にもなっていて、花司馬が来てくれれば大助かりだろうよ。彼奴はこの頃国内外の出張も多いので、時々稽古に穴をあけなければならんが、そういう時に花司馬がいてくれると指導を代わって貰えるからな」
「花司馬君が指導するなら、面能美より良い指導が出来るだろう。愛好会の会員さんも、その方が返って好都合、と云った按配になるかも知れない」
 是路総士が満更冗談でもない口ぶりで云って、またもや何度も頷くのでありました。
「しかし自分が入ると、面能美君が色々やり難くなるのじゃないでしょうか?」
 花司馬筆頭教士はそうなった場合の危惧を遠慮がちに述べるのでありました。
(続)

お前の番だ! 374 [お前の番だ! 13 創作]

「いや、面能美はそんな器量の狭いヤツじゃない」
 鳥枝範士がそう云ってあっけらかんと笑うのでありました。この言葉からも、良平が会社で鳥枝範士に大いに買われ、期待されているのが判ると云うものであります。
「良さんはさっぱりした人柄ですから、屹度花司馬先生を大歓迎すると思いますよ」
 万太郎が脇から控えめに口を挟むのでありました。
「あたしもそう思います」
 あゆみが万太郎の言に同調するのでありました。
「まあ、さっきも云ったように、お前を何時までも鳥枝建設の愛好会で燻らせている心算はないよ、ワシは。まあ、今はこれ以上、特に何も云わん方が良かろうから云わんがね」
 鳥枝範士はまたも意味有り気に笑うのでありました。万太郎が察するところ、鳥枝範士は花司馬筆頭教士を将来、諸事が落ち着くところに落ち着いたら、総本部の指導者として正式に招聘するか、或いは興堂派から離れた門下生達の受け皿として、総本部の下で支部を結成させて、そこの指導と運営の一切を取り仕切らせる心算なのでありましょう。
 確かにそうすれば、花司馬筆頭教士の一身も立つし、鳥枝範士の武道上の愛兄であり、傑出した武道家でもあった興堂範士の残した技術を、この先継承していく場も確保されると云うものであります。鳥枝範士が花司馬筆頭教士を一先ず鳥枝建設の方に引き取ると云うのは、そう云う見取り図のための最初の布石と云う意味があるのでありましょう。
 つまり威治教士では興堂範士の武道の後継者としては不適合と、鳥枝範士が見切りをつけたと云う事であります。是路総士もこの鳥枝範士の処置に賛意を示したわけでありますから、こちらも威治教士を見限ったと云う事になるでありましょうか。
「押忍。ようやく寿司が来ました」
 廊下から来間の声がするのでありました。
「おう、待ちかねた。持ってこい」
 鳥枝範士が応えるのでありました。万太郎とあゆみが急ぎ立つのは、寿司を師範控えの間に運ぶ来間を手伝うためと、徳利のお代わりを持ってくるためでありました。
「折野、明日で構わんから寿司屋に電話して、オマエんところは寿司の注文が来た後で、ネタの仕入れに魚釣りにでも出かけているのか、と云う皮肉と、この鳥枝に不行き届きな真似をしていると出入り禁止にするからな、と云う脅し文句を、一応垂れておけ」
「押忍。承りました」
 万太郎は真顔で鳥枝範士にそう返事して、まるで寿司屋に成り変わってするような深いお辞儀をしてから、そそくさと座敷を後にするのでありました。まあ、万太郎は別に次の日に電話などしないし、一応鳥枝範士の命令だから仙川駅前商店街に行った折に、その道場懇意の寿司屋にちらと立ち寄って、冗談口調で角もなく、そう云えばこの前鳥枝範士が寿司が来るのが遅いと頭から湯気を立てていたと、店主に笑話する程度でありますが。
 寿司屋の亭主は鳥枝範士の気性を知っているから、それは済まない、良しなに取り成しておいてくれと半笑いで謝りを云うでありましょう。万太郎が寿司屋にすべき抗議の緩い態度も寿司屋の軽い受け応えも、実のところ鳥枝範士は既に承知の筈でありましょうし。
(続)

お前の番だ! 375 [お前の番だ! 13 創作]

 花司馬筆頭教士のこの慰労会は、日を跨いでも続くのでありました。今後の身のふり方に目途が立ったためか、花司馬筆頭教士は来た時の固い表情とは裏腹に、大いに安堵した面持ちで注がれる儘に猪口を傾けるのでありました。
「明日も稽古があるでしょうから、そろそろ自分はお暇します」
 気を遣ってそう云う花司馬筆頭教士をイケる口の鳥枝範士が無理強いに引き留めて、来間に徳利の更なるお代わりを何度も命じるのでありました。身の立つように取り計らってくれようと云う鳥枝範士の慰留を、花司馬筆頭教士としては無下に退ける事も出来ないだろうし、鳥枝範士と同様イケる口である花司馬筆頭教士でありますから、無下に退ける意志も薄弱と云うところで、この酒宴はいつ果てるともなく続くと云う寸法であります。
 気の毒なのは一番下っ端の来間で、鳥枝範士にいつ何時、用を云いつけられても即応すべく緊張の面持ちを解けずにいるのでありました。だから来間は酒精に負けて舟を漕ぐのも儘ならず、疲れたから寝ると内弟子部屋に勝手に引き上げる事も出来ず、しかし酒はどんどん注がれるわで、下っ端内弟子の悲哀を大いに堪能した事でありましょう。

 興堂派の近況を宇津利が万太郎に伝えるのでありました。宇津利は門下生を止すと興堂派に伝えた後すぐに、総本部道場の専門稽古生として勇んで入門してくるのでありましたし、こちらの稽古に慣れたら、準内弟子になろうと云う意気ごみでありました。
「最近は体術の乱稽古ばかりですよ、向こうの稽古は」
 夕方の専門稽古が終わった後に、その日晴れて総本部道場の稽古に参加した宇津利を、興堂派の情報収集のために万太郎は内弟子控え室に呼ぶのでありました。そこに居た来間と準内弟子の山田に宇津利を紹介して、この二人にも同席を許すのでありました。
「組形の稽古とか剣術稽古は全くやらないのか?」
「そうですね。準備運動の心算で乱稽古に入る前に当身の単独形を、夫々勝手に十五分程度やるくらいですかね。稽古開始の一同揃っての神前への礼もありません」
「神前に礼もしないで稽古を始めるのですか?」
 宇津利と同い年である来間が、未だ馴染みが薄いので敬語を使うのでありました。
「神前への礼も、稽古生同士の礼もありませんよ。道場に入ったら一応その日の担当指導員の傍に行って挨拶しますが、それもちょいと頭を下げるだけの立礼ですね」
「何やら武道の道場と云うより、ボクシングとか横文字格闘術のジムみたいな感じだな」
 万太郎は眉間に縦皺を作るのでありました。
「若先生、じゃなかった、今は筆頭範士になっている御方の方針らしいです」
「若先生は、今は筆頭範士と自称されているのか?」
「若先生が筆頭範士で、板場さんが範士、それに堂下が範士代理だそうです」
 宇津利はそこで揶揄の笑みを浮かべるのでありました。
「ほう、堂下が範士代理ねえ。教士と云う名称は使わないのか?」
「そうですね。それから筆頭範士は濃茶の、カシミヤのような風あいの袴を着用されています。板場さんが綿の黒で、堂下が紺色です。称号に依って袴の色を変えたようです」
(続)

お前の番だ! 376 [お前の番だ! 13 創作]

「称号に関係なく黒色木綿の馬乗り袴、と云うのではないんだ?」
「前はこちらと同じでそうでしたが、心機一転と云うところでしょうか。まあ、若先生、じゃなかった、筆頭範士の趣味と、自己顕示のためと云うのが変えた狙いでしょうが」
 宇津利はまたも揶揄の憫笑を頬に浮かべるのでありました。
「すると、準内弟子扱いの者は何色の袴を穿くのでしょうかね?」
 これは準内弟子の山田の質問でありました。
「それ以外の者は、袴を着用しません」
「剣術稽古の時も穿かないのですか?」
「いや、さっきも云ったように、剣術稽古なんかしませんから」
「ああ成程、そう云う事か」
「それよりも、稽古の始めと終わりに一同揃っての礼をしないというのが、自分は気になりますね。武道は礼に始まって礼に終わると、世間でも知られているじゃありませんか」
 これは来間の感想でありました。
「前から若先生、じゃなかった、筆頭範士は礼儀作法が苦手な人でしたからね。まあ、それにしては自分に対する他人の礼儀の方は、前もやけに重んじられていましたけれど」
 宇津利は興堂派と縁を切った故か、威治教士、じゃなくて、威治筆頭範士に対して、なかなか辛辣な当て擦りを連発するのでありました。
「礼を重んじないと云う事は、嘗て命の遣り取りのために創られた武技をこれから稽古するのだと云う、自分や相手に対する緊張感や寛恕の気持ちを養わないと云う事になるのではないですか? それは武道稽古の本質にとって危険な兆候であると思うのですが」
 来間はそう云って眉宇に憤懣の色を表すのでありました。
「あの筆頭範士が、そんな小難しい理屈を考慮しているわけがないじゃないですか。稽古生同士ざっくばらんに、時々冗談や頓狂な声なんかも飛ばしながら、ふざけ半分に楽しく稽古が出来るとなると、入門者も増えるんじゃないかとか云う浅はかな魂胆でしょうよ」
「そうなると、もう、武道、じゃありませんね」
「良いんですよ。世間の関心を集めるようなユニークな稽古が売りで、ごっそり減った門下生の数がまた元に復して、月謝がガンガン入るようになればそれで御の字なのですよ」
「技を追求しようと云う真剣な姿勢なんか、無意味と云う事ですか?」
「真摯な姿勢では儲かりませんからね。現に最近は、礼儀は煩く云われないし、堅苦しい組形稽古で細かい事を注意される事もないし、要するに勝てば良し、と云いうシンプルな考えの試合重視の稽古になったから、前より俄然面白くなった、とか云う古くからの門下生もいます。今の興堂派の本部道場では、稽古中に正坐をしている者なんか見ませんよ。小休止している者ははだけた道着を直しもしないで、胡坐か足を投げ出してだらしなく畳に座っています。自分なんかはそう云うのに嫌気が差して興堂派を辞めたわけですがね」
 万太郎はこの宇津利の話しを聞きながら、どうしたものか嘗てあゆみに横恋慕してフラれて総本部道場を辞めた、新木奈の事を不意に思い出すのでありました。そう云えばあの新木奈は、今頃どうしているのでありましょうや。
(続)

お前の番だ! 377 [お前の番だ! 13 創作]

 夕食後に万太郎は是路総士に、宇津利に聞いた話しを掻い摘んで聞かせるのでありました。是路総士はさもありなん、と云った顔つきで話しを聞いているのでありました。
「まあ、そんな風になっているのだろうと、ぼんやりながら予想はしていたが」
 是路総士はそう云って居間から食堂の方に居る万太郎を見るのでありました。
「試合重視、と云うのは、贔屓目で見ればですが、判らない事もないです」
 万太郎は敢えてそんな事を云ってみるのでありました。
「組形でしっかり技を自分の体に浸透させて馴染ませる事が出来た上で、その技の色んな状況下での使い方を錬ると云う意味に於いては、試合は重要な稽古法の一つだろうな。ま、しっかり自分の中で技が血肉となっている、と云うのが大前提だか」
「技がしっかり出来ていないのなら、確かにその不完全な技を使って試合しても、武道の稽古としては無意味でしょうね。ま、単なる喧嘩術としてなら試合慣れしていた方が有利と云えば有利でしょうが。しかしそれも個々の資質に依るところが大きいでしょうし」
「弱い者が強い者を相手にする時に技が必要なので、初めから強い者には技は要らなかろうよ。ま、試合ばかりやっていれば、弱い者でも一定程度喧嘩の腕は上がるだろうが」
「それはもう、武道、ではありませんよね?」
 茶を淹れた来間がそれを是路総士が座っている居間の卓上に置きながら、宇津利と話していた時の科白をまた持ち出すのでありました。
「そうだな。少なくとも我々が専らにしている武道とは異質だな。常勝流の技法を継承してそれを後世に伝えるとか、技法をとことんまで磨くとか、それにそう云う稽古の過程で得られる修行者としての境地の揚棄なぞは、殆ど考慮されないだろうな」
「宇津利さんのお話しでは、若先生、じゃなくて筆頭範士は、生前お父上の道分先生が、これからは試合重視の武道でなければ上達しないし技術の発展もない、とずうっとおっしゃっていたと門下生に喧伝されているそうですが、そう云う事はあったのでしょうか?」
 来間はさっさと居間ら退去しないで、是路総士にそう質問を重ねるのでありました。
「いやあ、あの是路さんは、そんなうっかりした事は云わなかったろうと思うぞ」
 是路総士は茶を一口啜るのでありました。「道分さんは上達のためには、組形稽古が先ず必要な事は誰よりも判っていた人だったし、乱稽古ばかりやりたがる者を、上達するための仕組みの判らない空け者と云って軽蔑していた。それは亡くなるまでそうだったな」
「では神保町の筆頭範士のおっしゃっているのは、法螺だと云う事ですか?」
「少なくとも私は、そんな科白は道分さんから聞いた事がない」
「筆頭範士は道分先生の名前を使って、無責任にも僭恣を行っておられるのですね?」
「そう迂闊にここで断言するのは控えるが、そんな事をあの道分さんが云う筈は、先ずなかろうな。常勝流の伝書でも、形を専らにして妄りに試合う勿れ、としてある」
「では今の興堂派は、常勝流の本義を為そうとしていないと云えるわけですね?」
 是路総士はそう訊き募る来間をやや持て余すように見るのでありました。
「ま、筋あいの上からはそうなるだろう」
「そうなら、興堂派に常勝流の名前を使うのを止めて貰うべきではないでしょうか?」
(続)

お前の番だ! 378 [お前の番だ! 13 創作]

 来間がそう云って是路総士をじっと見るのでありました。
「来間、随分思い切った事を云うなあ」
 食堂の方から万太郎が声を出すのでありました。是路総士も来間も万太郎の方に顔を向けるのでありましたが、来間の顔には何やら思いつめたような色があるのでありました。
「自分のような下っ端が云うのは不遜かも知れませんが、自分は常勝流を学ぶ者として、興堂派の筆頭範士の仕様は、どうにも許せないと思うのです」
「気持ちは判るが、相手は独立した別派でもあるし、今のところはっきり喧嘩を売ってきているわけでもない。こちらから、殊更事を荒立てる必要はないだろう」
 万太郎は来間を窘めるような云い方をするのでありました。
「しかし、常勝流武道の宗家である総士先生に無断で、それにあたかも道分先生の方針であったかのような捏造まで行って、常勝流の稽古法を自分の都合の良いように変容させているのですから、これはもう総士先生に譴責されても仕方がないと云うものですよ」
「成程、私が譴責すべき興堂派の所業、か」
 是路総士がそう、無表情に云うのでありました。
「そうでなければ、常勝流を守るべき宗家の怠慢と云われても仕方ないと思います」
 来間は敢然とそう云い放つのでありました。
「来間、そのくらいにしておけよ」
 万太郎が声を少し荒げるのでありました。「総士先生に対してその云い方は何だ」
「ああ、済みません。竟、云い過ぎました」
 来間は自分の不謹慎にすぐに気づいてたじろぐのでありました。
「お前如きが総士先生をまるで指嗾するような、そんな云い方をするんじゃない。自分を弁えろ。それに総士先生の口に出されない苦渋を、弟子として先ずお察ししろ」
「済みません。指嗾するなんて、そんな心算では毛頭ないのですが。・・・」
「注連ちゃんの意見も、確かに一理あるわ」
 洗い物にかまけて今まで話しに加わらなかったあゆみが、水仕事を終えて手を拭きながら万太郎の傍に来て横の椅子に座るのでありました。「お父さんが曖昧な態度で何も発言しないのは、興堂派に対して必要以上の遠慮だとあたしも思うわ」
「いや、総士先生は態度を曖昧にされているのではなくて、今は効果的な時期を計っていらっしゃるのだと僕は思っています」
 万太郎は横のあゆみを見るのでありました。
「未だそのタイミングじゃないって事?」
「そうです、と僕が応えるよりは、総士先生に直接お聞きになる方が確かかと」
「それはそうね」
 あゆみは頷いて是路総士の方に万太郎越しに身を乗り出すのでありました。「どうなのお父さん、時期を見て興堂派の横着にお灸を据えに行く心算はあるの?」
 父娘の気安さからか、あゆみは是路総士にざっくばらんにそう訊ねるのでありました。
「ま、未だあれこれ様子見だ、今のところは」
 (続)

お前の番だ! 379 [お前の番だ! 13 創作]

 是路総士はそう云って茶を啜るのでありました。「私は形式的にしろ威治君の後見を頼まれてもいるから、目に余る脱線があればそれを諌める責任はある。しかしどうせ意見するのなら、事態が窮まる直前、と云うところを狙った方が、効き目があるだろうよ」
「事態が窮まる直前、と云うのはどういう状況なの?」
「事が思うように推移しないで、威治君が自分のやり方に自分で疑問を感じ出した辺り、と云うところかな。そう云う時期ならひょっとしたら、私の意見でも聞く気になるだろう」
「その時期がちゃんと判るかしら?」
「そのために鳥枝さんや花司馬君や、先程の折野の情報なんかが重要になる。情報を丁寧に積み重ねていると、今までとの違和の兆しが必ず見えてくる」
 これは武術家として、と云うよりは武略家としての是路総士の側面でありましょう。常勝流を本質を失わないようにしながら戦後に応変させて、今日の興隆を導いたその手腕等は正に、是路総士の優れた武略家としての才の表れでありましたが、若し是路総士が戦国時代に生まれていたら、大した軍師となった事であろうと万太郎は思うのでありました。
「僕等が短気にあれこれ気を揉むよりも、総士先生のお考えにすっかりお任せする方が、間違いがないと僕は思いますよ。だから我々はそれに資するような情報収集に徹して、それを逐一総士先生にお伝えすれば良いのではないでしょうか」
 万太郎はそう云ってあゆみに確信有り気に頷いて見せてから、居間に未だ居座っている来間の方に顔を向けるのでありました。「だから来間、気持ちは察するが、総士先生に情報をお伝えしても、お前の短慮な意見は持ち出すな。総士先生にとっては煩わしいだけだ」
「押忍。判りました」
 来間はそう云って少し悄気たような顔で立ち上がるのでありました。
 鳥枝範士の集めた情報、それから興堂派から移って来た門下生達の情報で大概を組み立ててみれば、どうやら威治筆頭範士は総本部の常勝流の在り方とは全く違う方向に踏み出す魂胆のようでありました。それはもう武道と云うよりは格闘術或いは格闘競技と呼ぶべきものでありましたが、かと云ってその総帥たる威治筆頭範士が、様々な格闘術に通じていて、それを一定程度極めているとは、万太郎には到底思えないのでありました。
 威治教士は瞬間活殺法の先生やら内弟子落伍者を招聘する他に、空手や柔道やレスリング等から人を集めているのでありました。これらの人は其界の指導者クラスと云うのではなく、どちらかと云うと異端の方に属する者達のようでありましたから、瞬間活殺法の先生同様、何となく胡散臭くて如何わしいと云えなくもない連中のようでありました。
 それで以ってこの連中に常勝流の乱稽古を俄か仕込みに仕込んで、残った門下生達と試合稽古をさせているようでありました。その目論む先は確とは見えないのでありますが、何やら荒涼たる武道的風景が広がっているようにしか万太郎には思えないのでありました。
 古い門下生がゴッソリ抜けた後には、それを補うと云うには貧弱ながら、この威治筆頭範士のやり方に新味を覚えるのか、或いは興堂範士の威名を、もう手遅れと云える程遅蒔きながら慕ってか、新入門者がボチボチと来るようでありあました。新しい入門者は興堂範士が既にこの世にはなく、二代目が後を継いでいる事すら知らないようでありました。
(続)

お前の番だ! 380 [お前の番だ! 13 創作]

 しかし昔を知らない者にとっては、全く異形と云える程に変貌した今の様態が、興堂派の元々の姿であり稽古のやり方であると勘違いして仕舞うのは仕方のない事であります。あの威治筆頭範士の事でありますから、その辺りの勘違いを自分に都合良く、全く無責任に逆用して、新しい門下生を道場に引き留めようとするでありましょう。
「興堂派の本部に嫌気が差した門下生達は、都内にある興堂派の支部の方に流れるか、ウチの支部にも新しい稽古場を求めてやって来ています。興堂派の地方の支部は未だ比較的安定を保っていますが、それは威治に影響力がないためで、威治の方針を無視して前の儘の稽古をやっているようです。地方の支部長クラスは、威治を総帥として評価してはいない者が多くて、ひょっとしたら独立と云う道を選ぶかも知れませんし、支部ごと丸々ウチの方に鞍替えしようとする動きも、二三と云わずかなりの数があるやに聞いております」
 これは数日後の、総ての稽古が終わった夜に、是路総士に最近の情報を入れる鳥枝範士の話しでありました。その場には万太郎とあゆみも同席しているのでありました。
「支部の離反現象が顕著になれば、大いに威治君の気持ちが揺らぐでしょうかな」
「いやいや、どうしてどうして」
 鳥枝範士は掌を横にふって見せるのでありました。「会長が強権発動して支部の自由な動きを封じていますから、おいそれと支部も離反は出来ないでしょうなあ」
「その発動している強権と云うのは?」
「興堂派の傘下にいるからこそ道分先生の威名を利用出来るので、離れたら道分先生の名前は一切使わせないと云う事のようです。確かに支部としては、道分興堂の常勝流興堂派、と云う看板がなければ、なかなかその地域で活動し難くなるでしょう。それに離反に動けば、脱退ではなく除名処分となるような話しですから、それでは後々困りましょう」
「強権と云うよりは、一種の恫喝ですな」
 是路総士は眉根を寄せるのでありました。
「特に大きな所帯の支部は、看板のつけ替えは致命傷になる場合がありますからな。勿論、それでも離脱すると息巻く支部もあるやに聞いておりますが」
「我々の方にも小難しい問題が飛び火してきそうですね」
「もう火の粉は降り始めております」
「確かに徐々にそんな兆候がありますかな。雪崩を打って、と云う風ではないにしろ」
「興堂派の最も大きな支部である広島支部が、威治の遣り様に腹を据えかねて、道分先生の偉業を守るためにも、と云う思いから近々離脱に動くような気配です」
 鳥枝範士は具体的な生臭い話しを始めるのでありました。
「広島支部と云うと、嘗て総本部から独立した道分さんの初期の内弟子だった、須地賀さんの処ですね。あの人は正義感の強い頑固者で通っている人ですからなあ」
「そうです。しかもなかなかに経営的な面も遣り手だと評判の、須地賀徹君です」
「その広島支部の離脱は本当なのですか?」
「私の知りあいの興堂派の理事からの情報です。その理事と須地賀君は気があうようでして、色々こみ入った相談なんかも頻繁に電話でしているようです」
(続)

お前の番だ! 381 [お前の番だ! 13 創作]

「ほう、そうですか。ところで、その鳥枝さんの知りあいの理事さんご本人は、一連の騒動に嫌気が差して、興堂派の理事を辞めるとかおっしゃっておられないのですかな?」
 この質問は、広島支部の須地賀氏に離脱の相談をされているのだから、鳥枝範士の知り合いの理事も、一蓮托生の心算でいると云う是路総士の推論でありましょう。
「ええ、辞めたがっております。任期があと一年残っていて、会長に慰留されていると云うのもありますが、ワシが情報収集のために残って貰っていると云う側面もあります」
「ああ成程。鳥枝さんの諜報員と云うわけですね」
 是路総士はそう云って笑うのでありました。「ところで広島支部は興堂派から離れて、その儘自立してやって行けるのですか?」
「多分大丈夫でしょう。地元にしっかり根を下ろした団体ですから。しかし、常勝流、の名前の使用問題があるので、独立した後にウチの方にコンタクトしてくるでしょう」
「ああそうですか。まあ、名前の使用の件はまた後の問題として、取り敢えずその広島支部の独立が、興堂派支部の様々な動きの引き金となるような気がしますね」
「そうでしょう。独立か残留かで浮足立つ支部がかなりあると思いますね」
「広島支部がこちらにコンタクトしてきた辺りで、威治君と一度接触してみますかな」
「そうですね。そうすればこちらが関与する理由が立ちます。広島からこういう話しが来ているが、興堂派は今どうなっているのか、と云って総本部に呼び出しますかな」
「事の運び方としては、すっきりしていますな」
 このような対応方法が一決したところで、万太郎が口を開くのでありました。
「それで、総士先生は興堂派をこの先どう扱うお心算なのでしょうか?」
「威治君の了見次第だが、支部の事情や要望を広く聞き入れて、その意向に沿った形での流派運営に還るなら、それに常勝流を名乗る以上、常勝流の技法や稽古法をしっかり守る意志があるのなら、これまでと同様の交誼を保証しようと思うが」
「しかし威治先生が、あくまで自分がやろうとしている形に拘るようなら、どうされるお心算でしょうか? 何か妥協策のようなものをご用意されているのでしょうか?」
「そうなれは向こうの会長の真似ではないが、常勝流からつれなく破門するまでよ」
 鳥枝範士が代わって応えるのでありました。
「しかし破門と云っても、元々総本部からは独立した会派ですから」
「つまり、常勝流、の名前を使わせないと云う事だ。常勝流、も、常勝流武道、も、常勝流武術、も、・・・それに、ええと後幾つか、総士先生の権利所有と云う事で商標登録を済ませた。だから威治には勝手に、少なくとも向後十年間、常勝流、を使わせない事は出来る」
「ああ、商標登録ですか。・・・」
「何だ、何か文句でもあるか?」
 鳥枝範士は万太郎を睨むのでありました。
「いや、何となく武道と、商標、と云う言葉がしっくりこないだけです」
「実はワシもそう思う。だから今まで登録に関しては迂闊にも全く無関心であった。しかし事がこのように推移すると、その辺も必要措置になる。懇意の弁護士の入れ知恵だが」
(続)

お前の番だ! 382 [お前の番だ! 13 創作]

「威治先生が常勝流の名前よりも、自分のやり方に拘るなら、これまでと同様の交誼は止しにすると云う事になりますね?」
 万太郎は是路総士に念を押すような聞き方をするのでありました。
「ま、そうなれば致し方ないな」
「絶交、と云う事でしょうか?」
「こちらからは何も交流を求めないだけだ」
「この先、と云ってもかなりの先ですが、ひょっとして情勢が代わって、向こうからコンタクトを求めてくるような場合は、接触を持つ事もあるのでしょうか?」
「実はそう願うところではある。何と云っても威治君は道分さんの血を受けた子供だからなあ。私としても出来る事なら、この世界で身が立つように力になってやりたい」
「しかし勿論、今の儘の了見じゃあ、総士先生もお力にはなれないと云う事だ」
 鳥枝範士が是路総士に成り代わって言葉を続けるのでありました。是路総士は鳥枝範士のその補言が終わると、ごく小さく頷いて見せるのでありました。
 この間、あゆみは是路総士と鳥枝範士、それに万太郎の話しを聞いているだけで 会話の輪から少し距離を置いたような風情で、何も自ら発言をしないのでありました。それは、自分如き若輩が敢えて発言するのは畏れ多いと云う一種の謙譲からか、それともあんまり愉快でない因縁のある威治筆頭範士の動静が話題の中心にあるので、心秘かに忌避したいがためにそうしているのか、それは万太郎には明瞭には判断出来ないのでありました。
 若輩と云えば万太郎は年齢とキャリア、それに役職の上でも、あゆみよりももっと若輩と云うものであります。ならば自分もあゆみの態度を見習って、行儀よく、是路総士と鳥枝範士の会話を聞くだけに徹しているべきだったのかも知れないと反省するのでありましたが、まあこれは、この時俎上に上がっている主題とは何の関係もない事でありますが。

 それから旬日程経った或る日、鳥枝範士の知りあいである興堂派理事の佐栗真寿史氏と、興堂派広島支部長の須地賀徹氏が揃って総本部を訪ねて来るのでありました。この日は寄敷範士の指導日でありましたが、是路総士と、それに後から合流する鳥枝範士も交えて五人で話しをすると云うので、夜の一般門下生稽古は万太郎が中心指導を代わるのでありましたし、あゆみの方は小金井に出張指導に行っているのでありました。
 稽古を終えて万太郎が準内弟子の片倉、山田の両名と伴に母屋の食堂帰ってくると、程なく師範控えの間の廊下に伺候していた来間が、お客さんがお帰りになると告げに来るのでありました。取って返す来間と一緒に、万太郎も座敷の方に向かうのでありました。
 二人が師範控えの間前の廊下まで来ると、丁度座敷の障子戸が開くのでありました。万太郎と来間は慌てて廊下隅に正坐して律義らしい物腰で床に両手をつくのでありました。
「おお、折野も居たか」
 最初に出てきた寄敷範士が廊下に畏まる二人に声をかけるのでありました。万太郎と来間は先ず、その寄敷範士に対して座礼を送るのでありました。
「押忍。お客様のお帰りと聞きましたので、お見送りに伺候いたしました」
(続)

お前の番だ! 383 [お前の番だ! 13 創作]

 寄敷範士の後には興堂派の須地賀徹広島支部長が続いて出てくるのでありました。万太郎はこちらにも格式張った深いお辞儀をするのでありました。
「君が折野君か?」
 須地賀支部長が万太郎に声をかけるのでありました。
「押忍。お初にお目にかかります」
 万太郎は頭を起こして、しかし両手はついた儘応えるのでありました。
「押忍。広島の須地賀です。君の事は花司馬君や道分先生との話しの中で、将来が楽しみな人として時々出てきたから、どういう若者かと逢うのを楽しみにしてしましたよ」
 須地賀支部長は立った儘ながらも、親しみを籠めた物腰で万太郎に微笑みかけるのでありました。花司馬筆頭教士や興堂範士との話しの中で、話題として自分の名前が挙がると云うのは、意外な事もあり慎に光栄な事でもあると万太郎は秘かに喜ぶのでありました。
 その次には鳥枝範士の知りあいの佐栗興堂派理事が出てくるのでありました。万太郎は同じように座礼するのでありましたが、こちらの方は万太郎の事をあまり認知してはいないようで、無表情の儘で立礼を返されるのみでありました。
「それじゃあ、総士先生、寄敷先生、鳥枝さん、向後よろしくお願い致します」
 玄関で靴を履いた佐栗理事が廊下に並んで正坐した是路総士と鳥枝範士、それにやや下がった位置に座した寄敷範士にそう云って頭を下げるのでありました。
「委細承知しましたよ。この件は花司馬にも伝えておきます」
 鳥枝範士が手を上げて了解の意を伝えるのでありました。
「花司馬君も、鳥枝さんの恩義に助けられましたな」
「なあに、その分これから、たっぷりと働いてもらいますからなあ」
 鳥枝範士はそう云って笑うのでありました。「じゃあ、また近い内に一杯やりましょう」
「では、私は明日広島に戻りますが、また近々書面を携えて上京致します。その時はまたお邪魔させていただきますし、その間は事がスムーズに運ぶように、直接こちら様へ電話なり手紙なりで頻々と連絡を入れさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
 須地賀志部長が是路総士にお辞儀するのでありました。
「判りました」
 是路総士はそれだけ云って一つ頷いて見せるのでありました。
 来間が土間に降りて靴を履いた二人から靴箆を受け取り、万太郎は玄関引き戸を開けて先ず自ら外に出て、そこで二人の来客が出てくるのを待つのでありました。門柱の脇で万太郎と来間は二人を見送るのでありましたが、須地賀支部長は数歩離れた後ふり返って、武道家らしく万太郎と来間に律義に礼をするのでありました。
 その様子を見た佐栗理事は同じようにふり返って、うっかりしたと云った風情で、須地賀志部長の真似をして万太郎と来間に礼を送って寄越すのでありました。こちらは武道家と云うわけでもないので、それ程礼容に頓着しないような様子でありましたか。
「折野、後であゆみが帰ったら、二人でこっちに来い」
 来客を無事見送った報告に行くと、鳥枝範士が万太郎にそう云うのでありました。
(続)

お前の番だ! 384 [お前の番だ! 13 創作]

 あゆみはそれから程なくして小金井の出張指導から帰ってくるのでありました。万太郎とあゆみはすぐに師範控えの間に向かうのでありました。
「二人共腹が減っているだろうが、まあ、済まんが暫く我慢しろ」
 鳥枝範士が別に済まなさそうにでもなく、座敷に入った二人に声をかけるのでありましたが、あゆみは帰ったばかりで食事をしていないし、万太郎もあゆみが帰ってから来間と三人でと思っていたから、未だ夕飯は済ましていないのでありました。因みに是路総士と鳥枝範士、それに寄敷範士は来客と一緒に出前の寿司を既に食していたのでありました。
「興堂派の広島支部が、支部ごとウチに所属を鞍替えする事になった」
 鳥枝範士が先ずそう告げるのでありました。これは万太郎も、須地賀支部長がこの日総本部を来訪した時点で、既に予測していた事でありました。
「その手続きのため、今日いらしたのですか?」
「いや、正式な登録申請は未だだ。今日はその打診と云うところだな」
「第一、筋から云えば、先ず興堂派に離脱を認められてから後だな、こちらへ入るのは」
 寄敷範士が後を続けるのでありました。
「ああそれで先程、須地賀支部長が一旦広島に戻るけど、また近々書面を携えて上京する、と玄関でおっしゃっていたのですね?」
「そう云う事だ」
 鳥枝範士が肯うのでありました。
「その書面と云うのが、興堂派への離脱届けと云うわけですか?」
「そう云う事だ」
 鳥枝範士は同じ言葉を繰り返すのでありました。
「いよいよ予想していた激震が、興堂派に起きると云う事ですか?」
 あゆみが訊くと今度は鳥枝範士は無言の儘、しかつめ顔で頷くのでありました。
「須地賀さんの云うところに依れば、広島支部と岡山支部、それに徳島支部の三支部が統一して行動を起こす了見のようだな」
 寄敷範士が具体的な補足をするのでありました。
「三支部が足並みを揃えて、ですか?」
 あゆみが少し驚くのでありました。
「そうだ。それに広島支部が頭抜けて大所帯だが、岡山も徳島もそこそこ大きな支部ではあるから、中国四国地方の他の支部にも同調するような動きが出るだろうと云う話しだ」
「それだけではなく、三支部が離脱したと云う消息を聞けば、九州も関西にある支部にも、いや恐らく、日本全国にある支部にも離脱の動きが急激に波及するかも知れんな」
 今度は鳥枝範士が補言するのでありました。
「それは、興堂派の存亡に関わるような事態、と云う事ではないでしょうか?」
 万太郎は事の深刻さを思って、少しばかりたじろぎの声になるのでありました。
「そう云っても過言ではなかろうな」
 鳥枝範士は瞑目して、今度は二度も三度も頷くのでありました。
(続)

お前の番だ! 385 [お前の番だ! 13 創作]

「でも興堂派を離れた支部が挙ってこちらに移ると云うような事態になれば、まるで総本部が興堂派のゴタゴタに乗じて、あちらの支部に秘かにコンタクトを取って指嗾して、ごっそり横奪したと云う風に興堂派は勘繰るのではないでしょうか?」
 あゆみがありそうな懸念を表明するのでありました。
「いや、これはあくまでも興堂派内での反乱現象だ」
 鳥枝範士は無表情でそう云い放つのでありました。
「それはそうでしょうが、しかし興堂派を離れた支部が悉くこちらに移るとなると、裏で総本部が策動したと勘繰られる恐れもあると思うのですが?」
「興堂派が自ら招いた支部の離反であり、その支部が我が総本部に自分達の方から頼ってきたと云うのが、この事態の加減のない見取り図でもあり真相でもある。依って、我々には何の後ろ暗いところもないし、あらぬ云いがかりをつけられる筋あいもない」
「そうには違いないでしょうけど、そうすんなりと興堂派が受け止めるでしょうか?」
「興堂派が受け止めなくとも、世間の大方はそう納得する」
 鳥枝範士はあくまでも強弁するのでありました。「それに興堂派、と云うよりは威治に幾ら恨まれようとも、それはお門違いの恨みつらみと云うものだと、こちらは毅然として云い放っておけば良い。どこまでも理は向こうにはない」
「威治筆頭範士は恐れるに足らずとも、後ろにいる会長が黙っているでしょうか?」
 これは万太郎の疑問でありました。
「曲者ではあるが、アレは娑婆での自分の評判を神経質に気にする政治の世界の人間だ。理のないところで無理を通そうとたら、逆にそれ相応の傷を自分が受けると云うところは心得ているだろうよ。だからこの件ではそう好き勝手にふる舞う事は出来まい」
「しかし曲者で、政界の寝業師の異名を持つのですから、無理を無理と見せずに押し通すだけの、妙法のあれこれを心得ているのではないでしょうか?」
「ま、その妙法とやらが有るのなら、お手並み拝見と云うところだな。何やら如何わしい手練手管を弄しようとするなら、こっちにもヤツに対抗できるような政治家の伝はある。噂によればアレも金絡みで相当際どい辺りをうろついてきた男のようだから、その辺りの弱みを嗅ぎつけている、アレに好感を持たない輩もウジャウジャいるだろうからな」
 鳥枝範士は万太郎に自信たっぷりに笑んで見せるのでありました。これは鳥枝範士の、鳥枝建設会長と云う実業家の口が云わしめるところの自信の表明でありましょう。
 確かに鳥枝建設を現在の規模まで大きくしてきたのは、この万太郎の目の前に居る鳥枝範士でありました。でありますから鳥枝範士は、それは興堂派会長に匹敵するような、いやひょっとしたらそれ以上の大物政治家の伝も、屹度持っているのでありましょうし、この辺りに関しては万太郎の窺い知れない、鳥枝範士のもう一つの顔でありますか。
「総士先生は、興堂派の支部が挙ってこちらに移って来ると云うような事になったら、如何がご対処されるおつもりなのでしょう?」
 万太郎は是路総士に言葉を向けるのでありました。
「そうだな、・・・」
(続)

お前の番だ! 386 [お前の番だ! 13 創作]

 是路総士はそこで少し間を取るのでありました。「宜なる哉、と云うところかな」
「と、おっしゃいますと?」
 万太郎は少し身を乗り出して是路総士の顔を窺うのでありました。
「まあ、それはそれで尤もな動静であると云う事だ」
「つまり、そう云う事態を抵抗なく受け入れる、と云う事でしょうか?」
 是路総士は一つ頷くのでありました。
「興堂派との間に陰鬱な摩擦が生じると予想されても尚、と云う事でしょうか?」
 万太郎がそう質問を重ねると、是路総士はまた一つ頷くのでありました。
「考えてみれば、常勝流は常勝流として、出来るのなら一つに纏まった方が良い」
 万太郎はこの是路総士の放った言葉にたじろぎを覚えて、その顔を凝視して仕舞うのでありました。つまりこの言葉は、興堂範士とは長い間何の蟠りもないようにつきあいながらも、しかし心根の深いところでは、総本部から独立したその仕業に不快を抱き続けてきたのだと云う是路総士の思いの表明として、万太郎には聞こえたがためでありました。
「興堂派が解体するとしても?」
 言葉を滞らせた万太郎に代わって、あゆみがそう訊くのでありました。
「ま、そうだな」
「道分先生の威名を、先生が興した興堂派と云う組織に依って世に残す、と云う形を取らなくても、それはそれで構わないと云う事?」
「道分さんの名前と事績は、常勝流武道と云う本流の中で確固として輝く事になる」
「道分先生の興堂派、と云う流派は、先生の上天と伴にこの世から消えても良いの?」
 あゆみのこの質問には是路総士に代わって寄敷範士が応えるのでありました。
「常勝流興堂派には、云ってみれば道分先生のファンクラブ、或いは後援会と云った様相が、出来た当初から色濃くあったからなあ。そう云う意味では、道分先生がこの世から去られた後には、その存在理由も大半なくなったと云えるかも知れない」
 この寄敷範士の言には、万太郎も頷くところがあるのでありました。興堂範士あっての興堂派であり、威治筆頭範士がそれを継ぐと云うのは、何やら事柄に落ち着きが得られないように感じているのも、確かに一方の実感ではありましたか。
「昔、道分先生は興堂派と云う別派を興す気は、元々なかったとお聞きした事がある」
 鳥枝範士が話し出すのでありました。「これは道分先生から直に聞いた話しだ。しかし取り巻きや有力な後援者が強引に勧めるものだから、先生も竟に嫌とは云えなくなった」
 鳥枝範士はそう云ってあゆみの顔を見るのでありました。
「戦後暫くの間は、門下生もあんまり集まらないで、武道一本で食っていくのは大変な時代だった。特に古武道の世界ではそれが顕著だったなあ」
 是路総士がそんな事を俄かに話し出すのでありました。「後援してくれる人が何かを勧めてくれるのなら、その人がそれを勧める了見に多少の疑いがあったとしても、武道を続けるためにはその勧めに乗るしか方便の道はなかったのだよ。卓越した技量と人懐っこさで他の武道家よりは多少世に知られていた道分さんとても、それは同じだったろうよ」
(続)

お前の番だ! 387 [お前の番だ! 13 創作]

「道分先生は総士先生に対して、後ろめたい思いがずっとあったろう。自分はあくまでも常勝流総本部道場の一範士であって、総士先生の下で武道を為していく心算でいたにも関わらず、独立して総本部から自由になった方が色々な可能性が開ける、とか指嗾するヤツ等が大勢、道分先生の周りにはいたんだ。そんな奴原はその方が道分先生を自分たちの自由に動かせるから、これは商売になるかも知れないと、大方そんな魂胆だったろうよ」
 鳥枝範士が後を引き取るのでありました。「道分先生はそんな奴等の魂胆が判ってはいただろう。しかしまあ、恩義ある後援者の大方がそう勧めるから逆らえなかったわけだ」
「その辺りの事情は総士先生も充分お判かりになっていた」
 今度は寄敷範士が後を続けるのでありました。「だから総士先生は道分先生の独立を、何もおっしゃらずにあっさりとお認めになったんだ」
「まあ、そんなにあっさりとはしてはいなかったのですがね、本当は」
 是路総士はそう云って笑うのでありました。「道分さんの独立が常勝流にとってどう作用するかは未知だったし、代々の宗家に対して申しわけが立つかどうかと、あれこれ煩悶はしましたよ。しかし独立すると云うのを強いて止めても結局は詮ない話しでしょうし」
 万太郎は興堂範士の独立の経緯を聞いて、成程と納得するところがあるのでありました。どだい、どうして同じ常勝流を名乗っているのに、興堂範士が独立した会派を率いているのかが、実際のところ万太郎には上手く呑みこめていなかったのでありました。
 要するに興堂範士が常勝流総本部の一範士でありたくとも、周りがそんなところに収まっているのを許さなかったと云う事でありましょう。興堂範士の贔屓筋にしてみれば、幾ら宗家の血筋とはいえ、書道の楷書のような、大衆受けしない技に拘る是路総士よりも、遥かに興堂範士の方が光彩を放っているように見えていたのでありましょう。
 ならば何時までも是路総士の風下に立って、宗家を盛り立てる役目に甘んじている必要なんかはないと云うものであります。それよりもこの際きっぱりと独立して常勝流宗家の影響から自由の身になる方が、興堂範士の更なる社会的飛躍が得られるだろうと考えるのは、まあ、是路総士の云い草ではないけれど、宜なるかな、と云うところでありますか。
 で、興堂範士は結局独立の道を選んだし是路総士はそれを、内心の煩悶は別にして、快く許したと云う体裁が現出したと云う事でありますか。円満に事を収めたが故に、その後も是路総士と興堂範士の繋がりは切れる事なく続いたのでありましょう。
 是路総士に煩悶があったと同じく、当然興堂範士の方にも、是路総士に対する負い目が生じた事は想像出来るのであります。だから興堂範士は決して是路総士を軽視する事なく、寧ろ独立前よりも恭しく、律義に矩を超える事なく接したと云うのは、興堂範士の飄々としていながらもしっかり義を守るその性格から、これも想像に難くないのであります。
 常勝流興堂派として独立はしたものの興堂範士があくまで、常勝流、と云う流名を棄てなかったのは、自分が先代宗家から受けた薫陶や、当代是路総士から施された恩恤を忘れないための自戒であり、自分の出自を隠す事なくはっきり表明する心胆がそこにあったと万太郎は思うのでありました。是路総士もその興堂範士の言葉に表す事のない健気な心根に感じて、麗しくも前よりも一層の敬意を以って接したと云う経緯でありましょう。
(続)

お前の番だ! 388 [お前の番だ! 13 創作]

「まあしかし、実際の話しとして、道分さんが独立して何方かの伝でテレビや雑誌なんかに取り上げられて持て囃されたり、著名な格闘家やスポーツ選手に常勝流の指導をしたりして華々しく活躍すると、こちらにもその余沢が波及してきましたからなあ」
 是路総士はそんな話しを続けるのでありました。
「いや確かに、あの道分先生の遣う常勝流と云うのは、一体どのような武道なのかと娑婆の興味を引けば、その本家たるこちらにも関心を持つ向きも当然出てきますから」
 鳥枝範士が表情をやや緩めて頷くのでありました。
「総士先生もテレビに出演された事がありましたなあ」
 寄敷範士も懐かしそうな顔をするのでありました。
「そうそう。道分先生と総士先生が一緒に出演して、夫々の演武を見せるとか昔の修業時代の話しをするとか、確かそう云う企画だったかな」
「その時の総士先生の受けを取るために、私もその番組に出させてもらったよ」
 寄敷範士はやや自慢気な顔をするのでえありました。
「ああそうだったかな?」
「そうそう。あの時は確か鳥枝さんは仕事の都合で出演出来なかったんだ」
「そうかそうか。そうだったなあ。それから、武道とは何の関係もない、女性雑誌の取材なんぞも来た事があったなあ。あれにはワシも写真で出演したぞ」
「鳥枝さんが写真に出たから、あの号はあんまり売れなかったらしい。余りにも鳥枝さんの顔が厳つくて、大半の女性読者が敬遠したと云う話しだ」
 寄敷範士がそんな冗談で鳥枝範士をからかうのでありました。
「まあ、兎も角、興堂派と云う流派は道分さんと云う、卓越した技の遣い手であり、それにその強烈な個性があってこそ、流派としての異彩を放てたのかも知れない」
 何となく、急に和やかになって仕舞った話しの舳先を、その切かけを作った筈の是路総士が本筋の方にやんわりと戻すのでありました。
「確かにウチのような代々続いているところとは違って、新興の流派はそれを興した初代が亡くなると、存立自体が一気に危うくなると云う宿命がありますなあ」
 寄敷範士が是路総士の軌道修正に従うのでありました。
「特に二代目が虚け者となると、目も当てられない」
 鳥枝範士も主題に復帰する様相でありました。「道分先生の威名を貶めないためにも、いっその事興堂派は、ここでバラけた方が良いのかも知れないな」
 つまりここで、先程の、常勝流は常勝流として一つに纏まった方が良い、と云う是路総士の腹積りへと話しは戻るのでありました。万太郎にとってそれが意外の発言であり、是路総士が初めて見せる冷厳で鳥肌立つほどクールな一面であったとしても、常勝流宗家の意向であるからには絶対の趣があると万太郎は思い知るのでありました。
 興堂派広島支部が威治筆頭範士に三下り半をつきつけて、その足で総本部に加盟を願い出れば、いよいよ総本部が興堂派のゴタゴタに介入する端緒が開くと云う事になるのであります。万太郎は一先ず、気の重さを脇に置かなければならないでありましょう。
(続)

お前の番だ! 389 [お前の番だ! 13 創作]

 具体的な方法として、広島支部の加盟届けを受け取った時点で、先ずは威治筆頭範士に総本部に出向くようにと、是路総士名で招請をかけると云うのをきっかけとするようであります。威治筆頭範士が素直に出向けば、この間の興堂派の稽古実態の変更に対して問い質し、別派とは云え常勝流と云う冠を戴く限りは、その無断の変更が常勝流宗家に対して何を意味するのか、不義には当たらないのかどうかを問い質す事になるでありましょう。
 まあ、その時の威治筆頭範士の出方にもよりますが、最終結果的には常勝流の名前の使用を認めないとして、つまり断交を迫り、断交したからには広島支部及びその他の興堂派支部の総本部への移籍を受理する旨通知すると云う手筈であります。勿論総本部としても断交したのでありますから向後一切、興堂派の動静には関知せずと云う事でもあります。
 威治筆頭教士が総本部の剣幕に怖じて招請に応じなければ、先に挙げた幾つかの問い質しが省略されるだけで、結果としては同じ事になるわけであります。威治教士が財団会長やその他の者を代理に立てたとしても、威治教士を相手にするよりは骨が折れるかも知れませんが、しかし結局総本部の意向は何ら変わらないと云う事であります。
 その折、あゆみは威治筆頭範士との陰鬱な経緯があるので、配慮から、同座しないでも構わないとされるのでありましたが、万太郎は総本部道場の運営の実質を担っているのでありますから、その場に必ず立ちあうように命じられるのでありました。まあ、大いに気の重い事ながら、万太郎はそれも自分の職分と思い切るのでありました。

 威治筆頭範士は財団会長と伴に総本部にやって来るのでありました。威治筆頭範士は終始何やら卑屈で落ち着きのない様子でありましたが、財団会長の方は玄関での挨拶や靴の脱ぎ方、案内のされ方等、言葉つきこそ礼を弁えた風ではありますが、物腰の端々、人を見る目つきに隠し様のない尊大さがあるように万太郎には見えるのでありました。
 二人を師範控えの間に招じ入れると、来間がすぐに奥から茶を持ってくるのでありました。しかし来間が引き取った後も、来間と然して変わらない軽輩と思いなしている万太郎が居残っているのを、威治筆頭範士は訝しそうに見ているのでありました。
「折野は今では総本部の運営に深く携わっているので、ここに同席させます」
 是路総士が威治筆頭範士に静かに云うのでありました。その言葉つきは静かで丁寧ではあるものの、威治筆頭範士に有無を云わさぬ威圧があるのでありました。
 万太郎は威治教士に、それから会長の方にも無表情の目礼を送るのでありました。客人にそのような不謹慎は今まで働いた事はないのでありますが、これは二人が来る前に鳥枝範士から、必要以上の愛想や狎れは示すなと云い含められているからでありました。
「さて今日態々調布まで来てもらったのは、一昨日、威治君のところの広島支部長がウチに尋ねて来て、興堂派を離れたのでウチの方に加盟したいと願ってきたからです」
 早速に是路総士から件の話し通りの詰問が威治教士に投げかけられるのでありました。時候の挨拶やら足労への詫びやら近況の交換やらの和やかな出だしをすっかり省いて、すぐに用件を持ち出す辺りに、是路総士の不快を先ず示したと云うところでありましょうが、果たして威治教士にそれが伝わったのかどうかは判然としないのでありました。
(続)

お前の番だ! 390 [お前の番だ! 13 創作]

「ああ、広島の須地賀さんならウチにも来ましたよ」
 威治筆頭範士はごく普通に何の気なくそう応えるのでありましたが、是路総士はその後すぐに次の言葉を継がずに、やや間を取って、その間威治教士の顔を呆れたように見据えるのでありました。是路総士の表情の不穏さに気づいて、威治筆頭範士は、覚えもなく何か拙い事でも口走ったかしらと云うたじろぎを隠せないでいるのでありました。
「須地賀さんは威治君の兄弟子で目上に当たる人なのだから、来ましたよ、ではなく、いらっしゃいました、と云うべきでしょう。そのくらいの作法は好い加減弁えなさい」
 是路総士はそんな風に云いがかるのでありました。全くの子供扱いでありますが、是路総士はこれまでに威治筆頭範士に向かって、いや誰に対してもそのような意地の悪い対応はした事がなかったので、万太郎は無表情を守りながらも少しく驚くのでありました。
「ああ、どうも。・・・ウチにも、・・・いらっしゃいました」
 威治筆頭範士がオドオドと云い直すのでありました。是路総士はその威治筆頭範士の様子を見下ろすような目つきで暫く見て、恐らく威治筆頭範士が自分の威にすっかり呑まれているのを冷静に確認して、それから徐に言葉を続けるのでありました。
「須地賀さんの話しでは、今の興堂派本部は道分さん、つまり君のお父さんだが、そのお父さんの稽古方針が全く守られていないと云う事だったが?」
「まあ、前に比べれば少しは変えていますが。・・・」
「少しどころの変更ではないと云う話しだったぞ」
 これは横手から鳥枝範士が被せるように云う詰問口調でありました。
「自分なりに、考えての事です。・・・」
「お前如きが、道分先生がずっと続けられてきた方針をお手軽に変更出来るのか?」
 鳥枝範士は元々声が大きいので、頭ごなしに怒鳴りつけているような風であります。
「まあ、待ってくださいよ」
 会長が威治筆頭範士の窮状を見かねて口を挟むのでありました。「何やらまるで、ウチの筆頭範士を寄って集って吊し上げていると云った雰囲気ですな」
「ああそうですか。そう云った辺りも、承知の上で、でありますな」
 鳥枝範士は会長の対抗的な目に、一層の挑むような眼光を投げるのでありました。万太郎には二人の視線のぶつかりに、本当に火花が飛び散ったのが見えるのでありました。
「鳥枝さん、でしたかね、では貴方にお聞きしますがね、常勝流の稽古には創意とか工夫とか云ったものは必要としないのですかね?」
 会長は鳥枝範士の眼つきに辟易して一旦そっぽを向いて、また目線を徐に戻して訊くのでありました。天敵同士が正念場で眼光の強さを競いあっているような按配であります。
「常勝流では決められた数本の基本動作を稽古の最初に行うが、これは常勝流の武技を支えるための体を創るためのもの。次に単独の当身法を行うが、これは当身の正確さや威力を養うと云う眼目の他に、当身をどのような体勢から繰り出しても、それが自分の体の芯に影響しないようにするための、これも体の創造のためのもの。それからそうやって養った体の強さを基盤として、組形、つまり約束稽古で武技の要領とその理を習得して、・・・」
(続)
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