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もうじやのたわむれ 6 創作 ブログトップ

もうじやのたわむれ 151 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「はい。一向に構いません」
 拙生は頷くのでありました。
「ここが閻魔庁になります」
 コンシェルジュは閻魔庁と書いてある建物の形状を丸で囲むのでありました。「建物は大きな道路に面しておりまして、この道路が邪馬台郡を東西に切り裂くように走る郡道一号線です。ここを西の方に十分程歩くと、郡会議事堂があります」
 コンシェルジュは拙生側の目線で見れば左の方に、丸囲みから道路に沿って線を引いて、娑婆の、日本にある国会議事堂に似た建物のイラストが描いてある処で万年筆のペン先を止めると、その絵を丸囲みにするのでありました。
「郡会議事堂ですか。ここが邪馬台郡の中心と云う事になるのですね?」
「ま、そうですね。石造りのなかなか厳めしい立派な建物でして、高い鉄格子の塀をめぐらしてあり、郡道一号線側に大きな正門があります。門衛が二霊立っておりますのですぐにそれと判りますよ。で、この建物の横が郡長官邸で、ここも塀に囲まれております。こちらの建物は、昔は議事堂と同じような威厳ある建造物でしたが、老朽化したので数年前に近代的なものに建て替えられました。全面硝子張りで綺麗なビルになりましたが、前に比べるとつるっとしていて、なんとも味わいのない感じになりましたかな、私の印象では」
 コンシェルジュは議事堂の左横に描いてある、空の雲を映したピカピカの建物のイラストも丸囲みするのでありました。「この二つの建物の近辺は、郡会議員会館とか議員宿舎とか、それに行政官庁なんかが集まっておりまして、官庁街と云う事になります」
「因みにこの辺の住居表示は、千代田区永田町とか霞が関なんと云うのでは?」
 拙生は閻魔庁の住所が隼町だったこともあって、そんな事を訊いてみるのでありました。
「おお、よくご存知で」
 コンシェルジュは目を上げて拙生を見て感心するのでありました。探してみると絵地図の中にも、永田町と霞が関なんと云う文字が、濃藍色で小さく書いてあるのでありました。もうすっかり娑婆の東京の感じであります。郡長さんの名前も渋沢栄一さんであるし、それに風土も風習も近いと閻魔大王官に教えられたのでありますが、この邪馬台郡には向こうの世で日本人だった連中が、多く生まれ変わっているのでありましょう。それで以って何とはなしにそんな日本風な地名が、追々自然についたのであろうと拙生は想像するのでありました。それだけでも、拙生には邪馬台郡はなかなか馴染み易い処のようであります。
「この辺が邪馬台郡の表の貌と云う事でしょうから、気が向いたら、その他所行きの貌なんぞをちらちら観察してみましょうかな」
 拙生はそう云いながら絵地図に見入るのでありました。
「そうですね。街区をブラブラ散歩しながら、行き交う官吏達の服装とか態度とか顔つきなんかをクールに観察して頂ければ、この邪馬台郡がどの程度の行政能力を持っているのかが、おぼろげに掴めるかも知れませんね。ま、あくまで印象として、ではありますがね」
 コンシェルジュはそう云って、また絵地図の上に万年筆のペン先を下ろすのでありました。「ここから更に西に暫く行くと、邪馬台郡随一の繁華街に出ます」
(続)

もうじやのたわむれ 152 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「繁華街の賑わいとかその辺は是非見学してみたいですなあ」
 拙生はそう云って左の方へ動いて行く万年筆のペン先を追うのでありました。
「一般の省霊が大勢繰り出しているでしょうから、その顔つきとか服装とか行動なんかを観察すると、地獄省邪馬台郡の省霊の暮らしぶりとか気分とかが、大凡掴めるかも知れませんね。夕方になって会社の退け時頃は、繁華街は大いに賑わいますよ。この繁華街は郡道一号線から南に向かって延びる、一本道のアーケード街となっております」
 コンシェルジュは地図上の郡道一号線から、南に向かって直角に線を曲げるのでありました。「アーケードの両側には色んな洋服屋やら食べ物屋やら喫茶店やら、デパートの入り口やらがずらっと並んでおります。郡道一号線側の入り口にはアーケード名である、邪馬台銀座、と云う石造りの道標が立っておりますからすぐに判りますよ。勿論邪馬台郡一の繁華街ですので、このアーケードの一本道だけに色んな店やらが集中しているのではなくて、アーケードから、これも色んな店が立ち並ぶ枝道が幾本も延びております。バーやキャバレーや居酒屋なんかが集まっている街区、映画館とか劇場とか寄席が集まっている興行街なんかは、この枝分かれした道の先にあります。この枝道は結構複雑に曲がったり他の道と交差したりしておりますから、街に不案内な方はお迷いになるかも知れませんね」
「六道の辻亭、とか云う名前の寄席も、その興行街にあるのですね?」
 拙生は絵地図から目を上げて、コンシェルジュにそう訊くのでありました。
「そうです。よくご存知で」
「審理室の前にお邪魔していた審問室でそのような名前を聞きました。私としてはそこも是非立ち寄りたいと思っているのです」
「落語や漫才なんかがお好きで?」
「ええ、娑婆では寄席にはよく通ったものです」
「ああそうですか」
 コンシェルジュは愛想笑うのでありました。「・・・で、ここをブラブラ散歩して頂きますと、アーケードの尽きた辺りから省霊の住む民家がぼつぼつ現れ始めます。この先はまあ、富裕でもなく貧困でもない、ごくごく一般的な省霊の住む住宅地となりますかな。郡営の団地があったり建売の一軒家が集まっていたり、アパートとかマンションなんかがその中に現れたりで、ここで一般的な省霊の暮らし向きなんかを観察されるとよいでしょうかな」
「そう云う生活の匂いのある処を歩くのも、なかなか味わいがありますよね」
 拙生はそう云ってコンシェルジュの持つ万年筆のペン先に、また視線を落とすのでありました。しかし万年筆は、その後は何処にも足を向けないのでありました。
「この辺までの世情視察で、もう日の暮れ時になるでしょうから、今日の処は散歩を切り上げてこちらに引き返された方が良いかも知れません」
 コンシェルジュは万年筆のペン先を絵地図の上から離すのでありました。
「こちらの宿泊施設は門限があるのでしょうか?」
 拙生は訊くのでありました。
「いや、門限はありません。昼夜に関係なく常時フロントには係りがおります」
(続)

もうじやのたわむれ 153 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「でしたら、繁華街の夜の賑わいも見てみたいですね」
 拙生は呑気そうにそう云うのでありました。
「まあ、それも結構ではありますが、・・・」
 コンシェルジュは絵地図から目を離すと、拙生を遠慮がちながら見据えるのでありました。その目にはやや険しい色が浮かんでいるのでありました。
「夜の繁華街には我々亡者がうろつくには、何か不都合な事情でもあるのでしょうか?」
 拙生はコンシェルジュの瞳の険しさを見つめながら訊くのでありました。
「時々、貴方様と同じ世情視察目的で街に繰り出された亡者の方が、その儘こちらに戻られずに行方不明となる事件が、稀に発生しておるのです」
「行方不明、ですか」
「そうです。警察当局の話しでは誘拐ではないかとの事です」
「我々亡者を誘拐するのですか?」
「そう云う事です。生まれ変わりを妨害するために」
 コンシェルジュはその必要があるのかないのか、ここで俄かに声をひそめるのでありました。「誘拐と云ってもそれでこの閻魔庁に身代金等を要求するのが目的ではなくて、ある処に拉致するのが目当てなのです。大がかりな省家的組織が関与していると云う話しです」
「それはひょっとしたら準娑婆省の関与、と云う事でしょうか?」
 拙生も小声になるのでありました。
「お察しの通りです。向こうの秘密諜報機関が、こちらでそう云う凶行を行っているらしいのです。準娑婆省の霊口を増やすために」
「拉致された亡者は準娑婆省に連れて行かれるのですか?」
「そうです。三途の川に時々不審船が浮かんでいるのが目撃されておりますから、それが恐らく向こうの工作船で、拉致した亡者を乗せて運んでいるのだろうという事です」
「拉致された亡者は、こちらの世ではもう極楽にも地獄にも行けなくなるのですね?」
「そうなります。消息知れずの儘、生涯を準娑婆省で送る事になりますかな」
「それは冗談じゃありませんねえ。どう冗談じゃないのかは、なんとなくよく判りませんが。・・・しかしところで、こう云う風に声を潜めてこの話しをしなければならないと云うのは、この閻魔庁の宿泊施設の中にも、その準娑婆省の諜報員が従業員とか亡者を装って、秘かに潜りこんでいるなんと云う可能性があるから、なのでしょうかね?」
「いや、それはありません」
 コンシェルジュは急に声の音量を普通に戻すのでありました。「ここから下に降りるのは自由ですが、下からここへ上がって来るには厳重なチェックが設けてありますから、先ず、準娑婆省の諜報員がこのフロアに侵入するのは無理でしょうね。特にこの宿泊施設は誘拐事件があって以来、閻魔庁の面目にかけてチェックを厳しくしておりますので」
「ではどうして、急に声をひそめられたので?」
「その方がこう云う話をする時には、雰囲気的に如何にもそれっぽいかなと思いましてね」
 コンシェルジュは愛想笑いしながら、あっさりそう云うのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 154 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「まあ兎に角、夜の繁華街は危険であると云う事ですね?」
「その通りです。事件は夜に起こります。ですから私としましては、夕方までに施設の方にお戻りになる事を強くお勧め致します。亡者様のためにも。ま、それでも是非とも夜の繁華街を視察してみたいと仰るのなら、それをお止めする権限は私にはありませんが」
 コンシェルジュはそう云って、厳粛な顔で一つ頷くのでありました。
「ああそうですか。そう云う事なら貴方のその助言に従った方が無難ですかな。私は明日も明後日も、行こうと思えば散歩に出る事が出来ますからね」
 拙生はそう云いながら、今までずっと黙った儘で拙生とコンシェルジュの話しを聞いていた、隣に座っている散歩の連れとなるはずの男に顔を向けるのでありました。男も拙生の方を見るのでありました。拙生は眉をひょいと上げて見せて、貴公の方は夜の繁華街をうろつかないとしても別に不満はないかと、表情だけで問いかけるのでありました。男は拙生の問いかけをすぐに了解して、拙生に向かって話し始めるのでありました。
「私は別に夜の繁華街の散歩には拘りませんよ。私は明日も散歩に出るなんと云う事は出来ませんが、しかし私の方は視察目的ではなくて、単なる気散じにおつきあいさせて貰うだけですからね。それに夕方にはここに戻って、明日の審理に備えて生まれ変わり地決定の最後の思い悩みをしなければなりませんからね。若し貴方が夜まで散歩を継続されるようなら、私は一足お先に失礼させて貰って、こちらに戻ろうかと思っておりましたから」
「では、繁華街の先の、一般の省霊が住む住宅地辺りをふらっと歩いて、今日のところはそこまでで散歩は切り上げるとしましょうかな」
 拙生が云うと、連れの男は同意の頷きをするのでありました。
「そうなさいませ。この施設の中でも夜は色々楽しめますから、散歩から戻られて、若し退屈なようでしたら、また何なりとご相談頂ければと思います」
 コンシェルジュはそう云って、万年筆を上着の内ポケットに仕舞うのでありました。
「私は明日も意欲的に外に出て旅行気分を味わいたいと思っておりますから、また明日の朝、色々ご相談させて頂きますよ。明日は近場の名所旧跡なんかを巡りたいものですな」
 拙生はデスクに両手をついて、立ち上がる素ぶりをして見せるのでありました。
「ああそうですか。では私の方でも、効率よく名所旧跡を巡れるようあれこれ考えておきましょう。ああそれから、これをお貸し致しますから、どうそご活用ください」
 コンシェルジュはそう云ってデスクの引き出しを開けて、中から腕時計を二つ取り出すのでありました。「時間が判らないと何かとご不便でしょうから」
「ああ、これは恐れ入ります」
 拙生はデスクについていた両手を浮かせて、腕時計を受け取るのでありました。
「それから若し道に迷ったりした時のために、携帯電話の貸し出しサービスをしておりますので、ご必要であればお出かけの時にフロントにお申しつけください。携帯電話もこの時計も、お戻りになったら一緒にフロントにお返し頂ければ結構です」
「ああ、これは行き届いた事で」
 拙生はお辞儀しながらそう云って、連れの男共々立ち上がるのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 155 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 コンシェルジュも立ち上がって拙生等にお辞儀をするのでありました。
「どうぞ楽しい散歩の時間をお過ごしください」
「あ、これはどうも恐れ入ります」
 拙生と連れの男は一緒に片手を上げて答礼するのでありました。
 フロントに戻って、先程鍵を預ってくれた女性に携帯電話を貸してくれるよう申し出ると、この宿泊施設と、この辺り一帯を管轄する警察署、それに邪馬台郡の観光案内所の電話番号が既に登録された携帯電話を、連れの男と二人分用意してくれるのでありました。フロントの女性は拙生と連れの男の夫々の電話番号を、夫々の携帯電話に加えて登録して、それを丁寧な物腰で渡してくれるのでありました。それから、これは必要ないかも知れませんがと前置きして、可愛らしいイラストが描いてあるメモ帖とボールペンも、夫々に手渡してくれるのでありました。なかなか行き届いた事と拙生は感心するのでありました。
「どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」
 フロントの女性に笑顔で送り出されて、拙生と連れの男はフロントを離れて、なんとなく浮き々々とした足取りでエレベーターホールに向かうのでありました。
「可愛らしい女性でしたなあ、笑った目元に愛嬌のある」
 連れの男が歩きながら云うのでありました。
「そうですね。審問官も記録官も閻魔大王官も補佐官も、こちらに来て言葉を交わしたのはむくつけき野郎ばかりでしたから、ああ云う若い女性にニコニコと笑いかけられたりすると、妙に嬉しくなってきますよね。こう云う感覚は如何にも娑婆的なのでしょうけれど」
 拙生は携帯電話を片手で弄びながら云うのでありました。
「いや全くですなあ」
 男はやや鼻の下の伸びた笑い顔で同意するのでありました。
「ところで未だお互いに名乗りを上げておりませんでしたかな」
 拙生が云うと男はそこで初めてそうであった事に気づいた、と云うような表情をするのでありました。拙生は先ずこちらから自分の名前を男に告げるのでありました。
「ああこれは迂闊でした。申し遅れましたが、私の方は鵜方三四郎と申します」
 男はそう名乗るのでありました。
「姿三四郎?」
「いやいや、鵜方です。長良川の鵜飼の鵜に、方角の方の字で、鵜方、です」
「ああ、鵜方さんね」
「娑婆にいる時は今の貴方のように、よく姿三四郎と間違われましたよ」
「これは失礼いたしました」
「いやいや、そんな謝って頂く程の事でもありません」
 鵜方氏は首を横にふるのでありました。「こちらでは極楽でも地獄でも二十歳になったら改名自由と聞きましたので、いっその事、姿三四郎、と名乗ろうかと考えております」
 エレベーターではすぐ下の二階までしか下りられないのでありました。二階には空港の国際線入国審査のようなボックスが幾つも並んでいるのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 156 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 この建物の、上に行く時には厳しいチェックがあるけれど、下に降りるのは自由だとコンシェルジュが云っていたように、その入国審査のようなボックスを通過する時には、一旦停止を命じられ、色々聞かれる事もないのでありました。ボックスの中に座った入国審査官のような仁も、ただ拙生に目礼をするだけでありました。金属探知機のようなものもあるのでありましたが、施設の外へ向かう場合はその中を潜る必要もないのでありました。
 入国審査みたいなボックスと金属探知機のようなものを通り過ぎて暫く歩くと、娑婆の警察官のような服装をした、伸び縮み警棒を手にした、屈強な体格のガードマンが両脇に立った自動ドアがあるのでありました。ガードマンに敬礼されながらその自動ドアもフリーパスと云う感じで出ると、これも国際線空港なんかによくある、免税店やらお土産屋さんやら食べ物屋さんやら小物を売る店なんかが並ぶ、商業フロアに出るのでありました。ドアのこちら側にもガードマンが複数、厳めしい顔をして屹立しているのでありました。
 拙生は補佐官筆頭に渡された宿泊施設案内のパンフレットを取り出して、その中に載っている建物の平面見取り図を見るのでありました。
「このフロアにレストランとかバーとか喫茶店なんかがあるのですな。食事をしたくなったりコーヒーを飲みたくなったら、ここに来れば良いわけですかね」
 拙生が云うと鵜方氏は手を横にふるのでありました。
「いやいや、ここまで降りてくるとその後上に戻るのが面倒になりますよ。さっきの入国審査みたいな処を通らなくてはなりませんし、チェックが厳しいでしょうからね」
「ああそうですね。食事の度に一々それは面倒ですね」
「上の我々の宿泊施設のロビーにも、食事をしたり酒を飲んだり出来る一画がありますから、私はそこで済ませておりました。ルームサービスなんかもありますし」
「ああ、上にもそう云う店舗があるのですね?」
「そうです。一般の住霊とかと一緒だと何かと気を遣う事があるから、宿泊施設の中にある店舗を使う方が面倒がないと、私を案内した補佐官から予め聞いておりましたので」
「ああ成程ね。しかしここで飲食をしても良いわけですよね、面倒を厭わなければ」
「それはそうでしょうけど」
 そんな事を話しつつ、拙生と鵜方氏はお土産物屋をちらとひやかしたりしながら、一階に降りるエスカレーターの方へと歩を進めるのでありました。拙生はこの商業フロアの賑わいを見ながら、ふと『二階ぞめき』と云う落語なんぞを思い出しているのでありました。
 上りも下りも三基づつあるエスカレーターで一階に降りると、そこにはバッグとか小物、それに洋服なんかのブランド・ショップと思しき店舗が並んでいるのでありました。もうすっかり、娑婆の大都市にある大規模ホテルみたいな雰囲気であります。
 一般の住霊には拙生等が見えないし、我々には個体としての質量がないのでありましたから、エスカレーターに乗る時も混雑した一階のフロアを歩く時も、他霊とぶつかったりする事は全くないのでありました。我々も霊達も大袈裟に身をかわす必要もないから、どんな乱れた歩行をしても何の問題もないのでありました。子供の霊が走ってきても、一切の抵抗もなく我々の体を通り抜けて、我々の背後にその儘走り去って行くのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 157 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 建物の外に出ると、郡道一号線は大きな棕櫚の並木道になっているのでありました。なんとなく南国気分であります。車道を走る車も歩道を歩く霊の数も、然程混雑している風ではないけれど、さりとて閑散としていると云った風でもないのでありました。
 拙生は手に持った儘にしていた施設案内のパンフレットを上着のポケットに仕舞うと、今度は先程コンシェルジュが筆を入れた絵地図を取り出すのでありました。
「ここを西に暫く歩くと官庁街で、その先が邪馬台銀座商店街と云う事でしたね」
 拙生は西の方を指さしながら云うのでありました。
「そうですね。取り敢えずそこまで歩いてみますかな」
「なんか一本道のアーケードの商店街と云うと、私の故郷にあったアーケードの商店街を思い出しますよ。四ヶ町商店街なんと云う名前でしたが」
「地方都市に行くと、よくアーケードの商店街がありましたよね、娑婆では。私が住んでいた東京は中野にもありましたよ」
 鵜方氏が云うのでありました。
「ああ、サンモールですね、ブロードウェイまで延びる」
「そうです、そうです。ご存知ですか?」
「カカアと所帯を持った当座、私も新宿区の中井に住んでおりましたから、中野へはよく散歩とか買い物に行きましたよ。早稲田通りに出て、地下鉄落合駅辺からぶらぶら歩いて」
「ああそうですか」
 鵜方氏は懐かしそうに笑うのでありました。「私は東中野駅からすぐの処に家があったのです。そこで生まれて、こちらの世に来るまでずっと東中野です」
「そうですか。道ですれ違った事もあったかも知れませんね、向こうの世では屹度。」
「そうですね」
「貴方であるとも知らず、向こうにいる時は失礼を致しました」
 拙生が云うと鵜方氏はアハハと笑うのでありました。娑婆で同じエリアに住んでいた事があると云うので、拙生は鵜方氏に一層の親近感を持つのでありました。
「地下鉄の落合駅の近くに養神館と云う合気道の道場があったのをご存知ですか?」
 鵜方氏が訊くのでありました。
「ああ、窓に合気道と大書してある建物は知っておりましたが、それでしょうかね?」
「落合の交差点からすぐの処です。入口はちょっと脇道に入った処にありますがね」
「ああ、だったら矢張りそうかな」
「私はずっとそこに通っていたのです。近所でもあり、通いやすかったものだから」
「ほう、鵜方さんは合気道を嗜まれるので?」
「ええまあ、ほんの少々。前は武蔵小金井の方に道場があったのですが、落合に移ったのです。私は小金井の頃入門したのですが、ひょんな事から住んでいる近所に移転すると云うんで、これは願ったり叶ったりと、大いに嬉しがったのを思い出しますよ」
「そうすると長いキャリアがおありなのでしょうね。私が中井に住み始めた時にはもう、その合気道の道場はありましたからね」
(続)

もうじやのたわむれ 158 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「そうですね、三十五年くらいやった事になりますかな。しかし私は、年数は長いですが、ちゃらんぽらんと通っていた口で、大した腕前には結局なれませんでしたけれどね」
「いやいや、ご謙遜を」
「いやいやいや、本当のところです」
「いやいやいやいや、・・・」
 またもや期せずして、この度は鵜方氏といやいやの応酬を始める事になりそうな気配でありましたが、ここでは応酬者が二人だけで、適当なところでツッコミを入れてくれる役回りの第三者がいない事を慮って、拙生は改まった咳払いを一つして、言葉の流れに逆竿を入れるのでありました。「・・・まあ、兎も角、娑婆では養神館合気道を長年嗜まれていたと云う事ですね。そう云うずうっと続けられる好事があるのは、実に結構な事ですな」
「もう今となっては、意欲はあれど続ける能わざる趣味、となって仕舞いましたがね」
 鵜方氏は寂しそうに云うのでありました。根っから合気道が好きなのでありましょう。
 官庁街を通り越して郡道一号線を暫く歩いていると、急に人通りが、いや霊通りが賑やかになって、左に折れる大きなアーケードの商店街の入り口に出るのでありました。道の傍らに「此れより南邪馬台銀座」と云う石の道票が立っているのでありました。
「ここが邪馬台銀座商店街ですね。官庁街は話しにかまけて通り過ぎて仕舞いましたが」
 拙生がそう云いながら立ち止まると、鵜方氏も足の動きを止めるのでありました。
「そうですね。いやいや、商店街と云う言葉から想像していた以上に繁華なアーケード街ですなあ。道の広さも中野のサンモールの倍くらいありますか」
「まあ、邪馬台郡一の繁華街と云う触れこみでしたからねえ。アーケードの両側に並んでいる色んな店舗も、間口が大きくて大層立派な感じです。そこいら辺の、ちょいと買い物に行く駅前商店街みたいな感じではまったくありませんなあ。アーケードがないなら、娑婆の歩行者天国時の銀座通りみたいな感じですよね。いやいや、これは恐れ入りました」
 拙生は腕組みして感心するのでありました。
「しかし邪馬台銀座商店街と云うのは、如何にもチープな名前だと思っておりましたが、これは確かに、娑婆の銀座と遜色ないくらいの規模と賑わいですかな」
 鵜方氏も頷きながら腕組みをするのでありました。
「アーケードになっている分、こちらの方が強い日差しや雨風なんかも凌げて、快適なショッピング街と云えるかも知れませんね。車にも気を遣わなくて済むし」
 拙生と鵜方氏は感心顔でアーケード街に足を踏み入れるのでありました。
「閻魔大王官から聞いたところに依ると、邪馬台郡は産業が今一つ振興していないし、住霊数に対する就職口が未だ不足していて、種類も多くないと云う事でしたので、少々うらびれた辺境の街の盛り場を想像していたのですが、どうしてどうして、この商店街の店舗の構えやら行き交う霊の賑わいやらを見ると、住霊の所得も購買力も充分ありそうな感じですよね。第一ここにこれだけの店舗があるのだから、それだけでもかなりの雇用が生み出せるでしょうし。まあ、閻魔大王官が云っていたのは、郡全体の実態なのでしょうが」
 拙生はキョロキョロしながら、横を歩く鵜方氏に云うのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 159 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「この商店街から離れると、また違った邪馬台郡の面貌が見られるかも知れませんがね」
 鵜方氏もアーケードのあちらこちらに視線を投げながら云うのでありました。
 絵地図に記してある小さな文字の解説によると、メインストリートたるアーケードの商店街は全長四キロメートルに及ぶ長大なショッピング・ロードで、ブラブラ歩けば優に片道一時間を要すると云う事であります。このアーケード商店街から幾本もの枝分かれした脇道沿いにも様々な物を商う店が連なり、その脇道からもまたその岐路が出ていて、そこにも店舗がズラリと並び、といった感じで、まるで紙の上に溢した液体がじわじわと広がっていくように、広大な、面、としての繁華街が形成されている、のだそうであります。
 拙生と鵜方氏は先ずアーケードの尽きるまでをゆっくり歩いて、ゆるゆる揺蕩う賑わいの波に、質量のないこの身を任せてみるのでありました。
「規模はここより劣りますが、中野のサンモールを思い出しますなあ」
 鵜方氏がそう云って懐かし気な表情をするのでありました。
「もう一度歩いてみて、今度は適当な脇道に入ってみましょうかな」
 拙生が提案するのでありました。「脇道の入り口に映画・興行街とか飲み屋街とか、楽器屋街とかスポーツ用品街なんと云う案内板がありましたから、邪馬台郡の風俗視察と云う意味で、その映画・興行街というのに入ってみたいと私は思うのですが」
「ああそうですか。結構です。お伴致します」
 鵜方氏が同意するのでありました。
 またもや視察散歩を再開して、今度はデパートやら大きな洋品店やら、家電量販店やらにもちらと立ち寄り、映画・興行街と云う案内板のすぐ手前の、喫茶店カトレア、と云う看板が掲げてある建物の前で、我々はふと立ち止まるのでありました。
「喫茶店カトレア、だそうですよ」
 拙生は親指でその看板を指差しながら云うのでありました。
「先程宿泊施設の噴水の前で、奇しくも新宿にあった喫茶店カトレアの話しをしたのが、我々の出逢いでしたなあ、そう云えば。」
「ちょっと立ち寄って、コーヒーでも飲みながら休んでいきますか?」
「そうですね、折角ですからね」
「ちょいとお待ちくださいよ」
 拙生はそう云ってスモークガラスの入り口ドアの横に掲げてある、大きな古めかしい木の看板を見つめるのでありました。「ああ、大丈夫です<亡様歓迎>と書いてあります」
「なんですか、その<亡様歓迎>と云うのは?」
「閻魔大王官にお聞きになりませんでしたか?」
「いや、特には」
「この文字が看板に書いてある店は、我々亡者も利用出来る店なのだそうです。こう云う店のオーナーとか従業員の中には、元閻魔庁関係者だった鬼とかがいて、一般の霊では見えない我々の姿が見えるから我々も無難に利用出来る、と云う按配なのだそうです」
「ふうん、そういう事なんですか」
(続)

もうじやのたわむれ 160 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 入口の前に立つと自動ドアが開くのでありました。一応ドアは質量のない亡者も感知出来る仕様のようであります。それから、ドアが開いても一般の霊達の目には、ただドアが開いただけで、誰もそこから入ってこないと云う奇妙な光景が展開するのでありましょう。しかしここら辺の霊は、屹度亡者との共存に慣れた連中が多いためなのか、店の中の客達はちらと一瞥は投げるにしろ、開いたドアから誰も入って来ないと云う現象には殆ど興味を示す事もなく、何もなかったような面持ちでコーヒーを啜っていたり、新聞や本に読み耽っていたり、向かいの席に座る連れの霊との談笑を続けているだけなのでありました。
 しかし考えてみたら質量のない我々亡者は、ドアが開かなくとも、屹度そのドアを擦りぬけて中に入る事が出来るはずであります。なのに態々無駄に開くなんと云うのは、実に間抜けなドアであります。ま、これは亡者に対する愛想と考えるべきかも知れませんが。
 我々を認めて、白シャツに黒ズボンの、蝶ネクタイをした中年の男の店員が近寄って来るのでありました。この男には我々が見えるのでありまでしょう。
「お二人様で?」
 店員が愛想笑いながら声をかけるのでありました。
「貴方には私達亡者が見えるのですね?」
 拙生が訊くのでありました。
「ええ大丈夫、見えております。」
「前に閻魔庁にお勤めになっていた鬼さんですか?」
「いえ、前職は港湾管理局職員で、港の待合ロビーの中にある喫茶店に勤めておりました」
「ああそうですか。しかしつまり鬼さんだから、私達の姿が見えるというわけですね?」
「ま、そう云う事です。亡者様が見えると云う特技によって、前の勤め先を辞めた後にここの喫茶店に採用されたのです」
「特技、ですか?」
「そうですね。就職活動に有利に働く、まあ一種の特殊能力でしょうからね、それは」
「ふうん、成程ね」
 拙生は何度か頷いて見せるのでありました。
「お二人様で?」
 店員が最初の質問を繰り返すのでありました。
「そうです。娑婆の感覚で、散歩の途中の休息に立ち寄らせて貰ったのです」
「煙草はお吸いになりますか?」
「どうも、吸いません」
 拙生は先代の林家三平のように手を額に遣りながら云うのでありました。「吸いません」と「済いません」をかけた、咄嗟に出た拙生の下らない洒落なのでありますが、全く通じなかったようで、店員は無表情の儘拙生の仕草を完全に無視して、煙草を吸わないと云う点は理解した、と云う頷きをするのでありました。拙生は少し寂しくなるのでありました。
「では席に案内させて頂きます」
 店員の鬼は我々を先導するように店の奥に歩き出すのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 161 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 当然、店の中にいる他の客には、誰も相手がいないのにこの店員の鬼が一人芝居、いや一鬼芝居を演じているように見えているのでありましょう。しかしその光景にも客達は全く無関心なのでありました。娑婆なら不気味で近寄りたくない光景に違いないのでありますが、しかしこちらでは屹度、普通によくある事なのでありましょう。
 拙生等が案内されたのは店の最奥にある、衝立で仕切られた一画の席でありました。どうやら我々の姿が見えない他の一般霊と混ざって席を取るのは、何かと問題があるのでありましょう。店員の鬼は立ち止まると、席を掌で示してやや上体を屈めるのでありました。
 拙生と鵜方氏が向かいあって座ると、店員の鬼は一旦席を離れ、それから間を置かず水の入ったコップを銀盆に二つ載せて戻って来るのでありました。
「私はコーヒーを」
 拙生が先に注文するのでありました。
「私の方は紅茶で」
 鵜方氏が後に続けて店員の鬼に云うのでありました。
「紅茶がお好きなので?」
 店員の鬼が去った後に拙生は鵜方氏に訊くのでありました。
「いや、コーヒーの方が好きだったのですが、或る日突然豆アレルギーを発症いたしまして、あちらこちら痒くなるのが怖いので、コーヒーはそれ以来断っております」
「ああそうですか。私も豆アレルギーなのですが、偶に呑むコーヒーくらいは平気です」
「いやまあしかし、ですね」
 鵜方氏は上着を脱ぎながら云うのでありました。「豆アレルギーを持った体はもう、向こうの世で焼却されて仕舞っておりますから、今のこの私のこちらの世に生まれ変わるまでの仮の姿たるこの体には、コーヒーも大丈夫かも知れないと、さっき紅茶を注文した直後にそう考えたのですがね、しかし面倒だから態々訂正もしませんでしたがね」
「大体コーヒーは、豆とは云いますが、あれは実際は果実でしょう」
「そうですよね」
 鵜方氏が頷くのでありました。「しかし、確かにアレルギー反応が出ます」
「こちらの世に生まれ変わった暁には、そう云うアレルギーは勘弁して欲しいですよね。こちらではタラジル産のカスジルなんと云う、いや、カスジル産のタラジルだったかな、まあ、どっちだったかはもう忘れて仕舞いましたが、そう云う美味いコーヒーがあると聞きましたし、実際そのインスタント・コーヒーを審問室で飲ませて貰いましたら確かに美味かったので、生涯そう云うものをたらふく賞味出来る体に生まれ変わりたいですよね」
「私の方は他にも色々美味い食い物があると云う事も、審問官だったか記録官だったか、いや審理室で閻魔大王官からだったか、兎も角、そんな事も聞いておりますので、食い物関係のアレルギーは願い下げにして貰いたいと切に希望しますよ」
「そうそう。それに喫茶店なんかでリラックスする時には、矢張りコーヒーの方が私は似あうように思いますので、コーヒーが心配なく飲める体に生まれたいものですな」
 拙生と鵜方氏は、今となっては詮ない娑婆の愚痴を零しながら頷きあうのでありました。
「ところで、この店ですがね、なんとなくですが、娑婆の新宿にあった同名のカトレアと云う喫茶店と、雰囲気が似ていませんかね」
 鵜方氏が云うのでありました。「噴水こそないけれど」
「いや、さっきも云ったと思いますが、確かカトレアには噴水はありませんでしたよ」
(続)

もうじやのたわむれ 162 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「ああ、そうでしたね。どうも私には記憶の錯綜があるみたいだ」
 鵜方氏が自分の後頭部を掌で叩きながら云うのでありました。
「別の店ですけど、しかし確かに噴水のあるマンモス喫茶がありましたよ、新宿に。名前はもうすっかり忘れて仕舞いましたが。そこのマッチは、擦ると青やらオレンジやらの火が出るやつでしたね。未だ煙草を吸っている頃でしたので、そのマッチで火を点けると、普通のマッチで点火するよりは、なんとなく煙草が美味いような気なんぞしましたよ」
「いや、そのマッチはカトレアのマッチですよ」
 鵜方氏が拙生の言を訂正するのでありました。
「ありゃ、そうでしたっけ?」
「カトレアの記憶があやふやな私がこんな事を云うと、なんか説得力に欠けますが、しかしそのマッチの記憶は間違いありませんよ」
「ええと、そう云われれば、そうだったような気がしてきましたが、・・・」
 拙生は鵜方氏の指摘に抗う自信は全くないのでありました。「さすれば、私の記憶も、あんまり当てにはならないと云う事ですかな」
 鵜方氏の真似をして拙生も後頭部を叩くのでありました。
「新宿界隈の喫茶店は、娑婆の学生時代によく行ったのですが、もう遠い昔の思い出です。あの頃は到る所に喫茶店がありましたよね。大きいのやら小さいのやらが」
「そうですね。新宿と云えばDUGと云うジャズ喫茶もありましたね。ここもかなり大きくて、四階までだったかありましたかな」
「ああ、その店は私が娑婆をお娑婆ら、いや違った、おさらばする時もまだ在りました。しかし前の店ではなくて、近所のビルの地下に移転して、ぐっと小さくなりましたがね」
「ああそうでしたか」
 拙生はその情報は知らない儘で娑婆をお娑婆ら、いやおさらばしたのでありました。「同じDUGが紀伊国屋の裏手の方にもあったんじゃなかったですかね?」
「そうでしたかね。そちらは、私は知りません」
「お茶の水にもウィーンとか田園とか云うマンモス喫茶がありました。生前に最初に就職した会社が神保町にありましたから、そう云う店へもよく行きましたよ」
 拙生は新宿を離れるのでありました。
「神保町だったらラドリオと云う店に行っておりましたね、私は」
 鵜方氏が云うのでありました。
「おお、ラドリオなら私もよく行きました。ホット、なんぞとぞんざいな注文をすると、ウィンナコーヒーが出てくる処ですよね」
「そうそう。店の奥に、なんか妙に古めかしいバーが一緒にある喫茶店です」
「それと、トロワ・バグと云う喫茶店は御存じないですか?」
「ああ、知っています、神保町交差点の処の、ネル挽きコーヒーを出す、値段高めの」
「そうそう、それに白山通りを水道橋の方に少し歩いて脇道に入った処に在った白楽とか、なかなか拘りのある魅力的な喫茶店がありましたなあ」
(続)

もうじやのたわむれ 163 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 拙生は娑婆にあった喫茶店の記憶を共有している鵜方氏との会話に、全く以って嬉しくなってくるのでありました。
「後、覚えているのは神保町駅の裏手に在ったざぼうるとか、ラドリオの道向かいの神田伯剌西爾とかね。富士見坂にDANとか云う小さな喫茶店もありました」
 鵜方氏が指を折りながら云うのでありました。
「それに古瀬戸珈琲店やら、画材屋のレモンの喫茶部とか、マンモス喫茶ならウィーンの並びのシェーキーズとかですかね」
「お茶の水も神保町も随分と変わりましたよね」
「そうですね。地下鉄の神保町駅が出来た頃から、街の変化が激しくなりましたかな。しかし古くからあった天麩羅とか豚カツのいもやも、ビールを飲みながら食事するランチョン、それに中華料理の北京亭なんかは、前と変わらず頑張ってやっていましたかな。ああ、白山通りの北京亭の近くだったかに、白十字なんと云う大きな喫茶店もありましたなあ」
 拙生は大いに懐かしむのでありました。
「白十字はもう廃業しましたよ、随分前に」
「ああ、そうなんですか」
「ま、今時喫茶店だけでやっていくのはしんどいでしょうしね。寂しい限りですなあ」
 鵜方氏は口を尖らして、寂しそうな表情をして見せるのでありました。「なんか、喫茶店の話しをしていたら、私もコーヒーが飲みたくなってきましたよ」
 鵜方氏はそう云うと背をやや伸ばして辺りをキョロキョロと見回し、先程の白シャツ黒ズボン蝶ネクタイの店員を見つけると手招きして、新たにウィンナコーヒーを注文するのでありました。拙生もブレンドコーヒーをもう一杯頼むのでありました。
「豆アレルギーは大丈夫でしょうかね?」
 拙生は心配するのでありました。
「なあに、痒みが出たらそれはそれで、その痒みも一緒に懐かしがりますよ」
 鵜方氏はそう云って笑むのでありました。
 そんなこんなで世情の視察散歩をすっかり忘れて、喫茶店関連の昔話しに盛り上がっていたものだから、ちょいとした拍子に腕時計に目を遣れば、もう夕刻に差しかかろうとしているのでありました。暗くなるまでに我々亡者の宿泊施設に戻るとなると、この喫茶店カトレアで何時までもこうして娑婆を懐かしんでもいられないのであります。拙生は新たに出てきたコーヒーをぐいと飲み干して、そろそろ散歩を再開しましょうと鵜方氏に提案するのでありました。鵜方氏も昔話しに未練を残しつつも、腰を浮かすのでありました。
 夕刻に差しかかったためなのか、道幅が広いためにひどく混雑していると云う程ではないにしろ、通行する霊達の数も随分増えて、往来はより賑やかになっていて、先程よりも気ぜわしい気配なんぞが漂っているのでありました。行き交う霊達も、心持ち早足になっているようにも感じられます。これからもう少し時間が深まってサラリーマンの退社時刻にでもなれば、屹度この商店街にはもっと多くの霊が繰り出して来るのでありましょう。
「随分人が、いや霊が出てきましたねえ」
(続)

もうじやのたわむれ 164 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 拙生は件の店員が持ってきた支払伝票に、宿泊施設のフロントで借りたボールペンでサインして喫茶店カトレアを出ると、往来を見回しながら先ず云うのでありました。
「夕刻の商店街なんと云うのは、娑婆もこちらも変わりませんなあ」
「ではアーケードを少し戻って、先程云ったように、映画・興行街と云う道票のあった通りに入って見ようと思うのですが、如何ですかな?」
 拙生は鵜方氏に確認するのでありました。
「はい、そうしましょう。どうせ私のは視察目的ではなくて気晴らしの散歩なのですから、貴方のお足の向く儘にお伴するだけです」
 映画・興行街に向かう脇道はアーケードの通りよりも道幅が狭いし、車通りもあって、大層混雑しているのでありました。しかし矢張りここでも、質量のない我々はスムーズに歩を進める事が出来るのでありました。それにつけても霊達は我々が見えないし接触もしないとしても、何かしら亡者特有の気配みたいなものは少しは感じるのでありましょうか。
「ここはなにやら、浅草の六区を思い出すような通りですね」
 拙生は歩きながら鵜方氏に云うのでありました。
「そうですね、しかし浅草六区よりはこちらの方が遥かに活気がありますよ」
 道をやや歩くと映画館が三軒並んだ後に、バラック建ての大きな一杯飲み屋があって、そこからは香ばしいモツ煮こみの匂いが辺りに拡散しているのでありました。その横にはこれもバラック建ての牛飯屋、その次には、こちらは結構立派な三階建ての割烹料理屋、それにこれも立派な店構えの鰻屋、その後に小ぢんまりした古着屋とか演劇用品店、それから履物屋なんかが続いているのでありました。道向かいには芝居小屋、それからまた映画館が二軒あって、その後にストリップ小屋、それから花屋なんといった店が軒を連ねていて、幟が幾本も立った、入口に提灯の下がった寄席らしき建物もあるのでありました。
 拙生はその寄席らしき建物の方に歩を向けるのでありました。木の看板に、六道の辻亭、と勘亭流でしたためてあります。ああここが審問室で話しに出たこちらの世の寄席かと、拙生は足を止めてその入場券売り場やら入口の佇まいを眺めるのでありました。看板の横には確かに、桂米朝近日来演、と朱文字で書いた紙が貼ってあるのでありました。
 看板を確かめると隅の方に<亡様歓迎>の文字も書いてあるし、腕時計で確認すると夜席が丁度始まる時間のようでありましたから、拙生は入ってみようかなと思うのでありましたが、しかしそうすると、寄席が跳ねる頃にはもうすっかり夜でありましょうから、日のある内に宿泊施設へは帰れなくなると云う寸法になります。それに鵜方氏が落語や演芸に然程の興味もないとしたら、つきあって貰うのは恐縮でもあります。因って今日は按配が悪かろうと考えて、拙生は後日改めて一人で来て、昼席に入る事にするのでありました。
「寄席がお好きなようですね?」
 拙生が寄席の前で立ち止まって看板を繁々と見つめているのを認めて、横で一緒に立ち止まった鵜方氏が訊くのでありました。
「ええ、娑婆ではよく上野鈴本とか浅草演芸ホールとか、池袋演芸場に通いましたよ」
「ああそうですか。私はそちらの方面にはとんと疎くて」
(続)

もうじやのたわむれ 165 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 鵜方氏が云うのでありました。矢張りつきあって貰うのは止して正解でありました。
「それでは、この辻もうろうろと賑わいの雰囲気の中を散歩して、その後、路地をあちらこちら適当にうねうねと、邪馬台銀座商店街のアーケードに戻る目算で歩いてみますかな。アーケードに戻ったら、ちょっとその先にある住宅地と云うのも見てみましょうかな」
 拙生は提案するのでありました。
「若し何でしたら、寄席見物におつきあいさせて貰いますよ」
「いやいや、それでは屹度夜遅くなって仕舞いますから、今日は止しておきましょう」
 拙生はお辞儀しながら、鵜方氏の申し出に丁重な遠慮の意を表すのでありました。「私は明日もありますから、また一人ででも来る事が出来ますし」
 と云う事で、我々は歩行を再開するのでありました。
 アーケードに戻る積りの路地散歩でありましたが、この路地が思いの外難物で、くねくねと曲がりくねって色んな路地に無規則に繋がっているものだから、途中で方角を失ったり、通り抜けが出来なくて戻ったりと、大いに時間を食うのでありました。まあ、繁華街の裏路地ですから、ちょっと色っぽいヤバそうな店もあり、そこのポン引きと思しき若い衆が道行く霊に密やかに声をかける光景もあり、間口一間程、奥行きも大してなさそうな古めかしい、うらびれた風情の小さな飲み屋やバーもあり、一体何を商っているのかよく判らない怪しげな小店が数件軒を連ねていたりと、なかなか面白い散歩ではありましたが。
 漸くの事でアーケード街の大通りに戻ってみると、商店街の多くの店はもうシャッターを下ろそうとしているのでありました。意外に早仕舞いのようであります。まあ、一昔前の娑婆でも、デパートなんかは大体夕方六時頃にはもう閉店していたのでありましたし、他の店なんかもそれに倣っていたのでありましたかな。後は飲み屋街やら裏路地の方に賑わいが移るのであります。ま、つまりその時分の娑婆と同じと云った風でありましょうか。
 人通りも殆ど絶えて、閉じられたシャッターの連なりに街燈の薄明かりが寂しく反射するアーケード街は、先程までの賑わいは何処へやら、急に深閑とするのでありました。夕方には宿泊施設に戻る心積もりなのでありましたが、もうすっかり夜の気配であります。
「なんかとっぷりと暮れて仕舞いましたね」
 拙生が鵜方氏に云うのでありました。「こうなると住宅街の方に回ってみるのは、今日の処は止しにした方が無難ですかな」
「いやいや、しかし折角ですから、ほんのちょいとくらいは覗いてみませんか?」
 思いの外、鵜方氏が意欲的なところを見せるのでありました。
「しかし、危険ではありませんかね?」
「まあ、そうかも知れませんが、でも私は住宅街も見てみたくなりました」
 ほんの暇つぶしのおつきあいと云っていた鵜方氏が、意外に住宅街の視察に拘るのであります。これはひょっとしたら鵜方氏は、この邪馬台郡に生まれ変わろうかなと、ちらと思い始めたのかも知れません。明日にはもう、閻魔大王官に生まれ変わり地を告げなければならない鵜方氏としては、この散歩を逃したら、自分の目で邪馬台郡のあれこれを視察する事が叶わなくなるのでありますから、それで拘っていると云うわけでありましょうか。
(続)

もうじやのたわむれ 166 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「邪馬台郡の街の雰囲気がお気に入られましたかな?」
 拙生が訊くのでありました。
「そうですね。如何にも娑婆の日本的な風情が、それも一昔前、私が子供時分にそうだった風情が、ここには濃厚にあるような気がします」
「生まれ変わり地を邪馬台郡にしようかと、そうお考えになってきたと云う事で?」
「ええ、大いにそう思い始めております」
 鵜方氏は些か興奮気味に云って、漸くに漆黒の海原に小さな船明かりを見つけた、一人ゴムボートで漂流していた遭難者のような目をするのでありました。こうなると是が非でも、今日の内に住宅地の方にも足を伸ばしてみなければなりませんかな。
 アーケードの屋根が尽きる辺りに赤い玄関灯を燈した交番があり、そこには娑婆と殆ど同じ制服を着た四霊の警察官がいるのでありました。邪馬台銀座商店街南派出所、と木の表札が掲げてあります。その表札にも<亡様歓迎>の文字が小さく書かれているところを見ると、ここの警察官の中にも閻魔庁関連に働いていた鬼がいるのでありましょう。我々亡者を認識できる警察官が交番にもいる事に、拙生は少しの安心感を抱くのでありました。
 成程その交番を通り過ぎる時に、出入口のところに立って外に視線を投げていた警察官が、我々に律義に敬礼をして見せるのでありました。
「おや、我々亡者がお見えになるのですか?」
 拙生は竟立ち止まって、その警察官に声をかけるのでありました。
「はい。ちゃんと見えております」
 警察官はそう云ってもう一度敬礼するのでありました。
「お勤めご苦労さんでございます」
 拙生は愛想を云いながらお辞儀するのでありました。
「お散歩ですか?」
「ええ、視察散歩の途中です」
「もう大分暗くなりましたから、そろそろ宿泊施設の方にお戻りになられた方が安全かと思いますよ。最近は何かと物騒ですしね」
 警察官は自分の腕時計を見ながら、あまり緊迫感のない声で警告するのでありました。
「この先にある住宅地の家並みを少し覗いたら、今日は帰る了見でおります」
「ああそうですか。近頃亡者の方が行方不明になると云う事件が何件か発生しておりますので、特に夜間は充分に気をつけてください」
「判りました。そういたします」
「若し何かありましたら、連絡いただければ急行いたします。宿泊施設の方で携帯電話か何か借りてこられましたかな?」
「携帯は借りてきました」
 拙生はそう云ってポケットの中の携帯電話を取り出して見せるのでありました。「これには警察署の電話番号も予め登録されておりましたよ」
「何でしたら、ここの派出所直通の番号も登録して差しあげましょうか?」
(続)

もうじやのたわむれ 167 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 警察官は拙生の方に手を差し出すのでありました。
「それは助かります。宜しくお願いします」
 拙生が携帯電話を手渡すと、横に立っている鵜方氏もおずおずと、遠慮気味に携帯電話を警察官の方に差し出すのでありました。
「いやあ、ご親切痛み入ります」
 拙生はそう云いながら、派出所の電話番号が追加登録された携帯電話を受け取るのでありました。鵜方氏も「恐れ入ります」と小声で呟きながらお辞儀して受け取った自分の携帯電話を、恭しく頭の上におし戴くのでありました。
「住宅街は道路には街燈が立っておりますが、脇に入ると暗がりがあったりしますので、一応何なら、懐中電灯なんぞをお貸ししましょうか?」
「いや、つるっとメインストリートを少しなぞるだけで、そんなに微に入り細に入り歩き回るつもりはありませんから、懐中電灯は結構です。折角のご親切ですが」
「ああ、そうですか。まあ、それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
 拙生と鵜方氏は警察官にそう云われて送り出されるのでありました。
 確かにアーケードを出て仕舞うと、住宅街へと延びる道の街路灯の明かりも漆黒の闇の威圧に身を縮めていて、如何にも頼りなく見えるのでありました。
「家々の明かりはありますが、なんか人通り、いや霊通りもないし、心細い道ですなあ」
 拙生が横を歩く鵜方氏に話しかけるのでありました。
「しかし派出所の警官が、我々が散歩を継続するのをのんびりした顔で許したのですから、案外危険は少ないのかも知れませんね」
「まあ、そうでしょうかな。しかし街灯はちゃんと点っておりますけれど、なんとなく通りは暗過ぎて、こんな暗がり道をブラブラ散歩すると云うのも、散歩と云う言葉にそぐわない気がしますね。懐中電灯を借りてくればよかったですかな、こうなると」
「もう少し進むと建物も次第に増え出して、コンビニなんかもあったりするでしょうから、そうなると、如何にも東京の郊外にある住宅地の様相になってくるでしょう」
 鵜方氏は前を見ながらそう云うのでありました。
「コンビニなんという形態の店舗があるのでしょうかね、この邪馬台郡に?」
 拙生は横を歩く鵜方氏の横顔に訊くのでありました。
「さあ、それは実は私も知らないのですが、なんかそんな風な店が住宅街の中にあってもよさそうな気がしませんか、娑婆の感覚では」
「私等の子供時分には、コンビニなんかはありませんでしたよね」
「そうですね。子供時分は夜遅くまでとか、昼夜を問わず営業している商店なんかありませんでしたね。やっている店なんと云うと駅前のバーとか居酒屋とか、そう云った酒を供するところで、子供はそんな店には入ったりしませんでしたからね」
「昔は、子供は夜になったら家の外に出てはいけないと云う雰囲気でしたかな」
 そんな事を喋りながら拙生と鵜方氏は、住宅街へと続くのであろう夜の寂しい通りを、些か急ぎ足で歩いているのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 168 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 道脇の小さな公園を通り過ぎる時に、急に鵜方氏が歩を止めるのでありました。
「おや、何か?」
 拙生は一歩鵜方氏より余計に踏み出してから止まって、すぐ後ろの鵜方氏をふり返るのでありました。街灯の薄明りの中に仄見える鵜方氏の顔は、やや険しい色を添えていて、今までの鵜方氏の印象とは少しく違っているのでありありました。
 鵜方氏は前を見ているものの、気持ちは横の公園の方に向けているようであります。拙生は鵜方氏から目を離して、公園の植えこみ辺りを窺うのでありました。
「何かが動く気配がしたものですから」
 鵜方氏が小声で云うのでありました。そう云われて拙生は公園の道側に等間隔に並ぶ樹木の間を凝視するのでありましたが、拙生には何の気配も感じられないのでありました。
「私は何も感じませんけれど」
「いや、私の怖じ気が木の葉が騒いだのを、過敏に受け取ったのかも知れませんが」
 鵜方氏は険しい表情を少し緩めて、拙生を見てはにかむのでありました。「良い歳をして、私は実は夜があんまり得意ではないのです、恥ずかしながら」
「夜が得意ではないと云うのは、どう云う事で?」
「いやね、娑婆で少年の時分に、或る事情があって、まあ、ごく近い処に住んでいる親類の家からなのですが、夜に一人で帰る事になったのです。その時ちょっと怖い体験をしましてね、その体験がトラウマになっているようなのです」
「怖い体験、ですか?」
「その帰り道にも、人気のない公園がありましてね、その公園を突っ切ると近道になるので、躊躇いもなく公園に入って行ったのですが、そこで幽霊に出くわしたのです」
「幽霊、ですか?」
 拙生は少したじろいで声が上擦るのでありました。
「ええ。白い衣を着た、蒼白な顔をした女の人の幽霊です」
「おお、如何にもそれっぽいですね」
「後ろから肩を叩かれて、ふり返ったら、覆いかぶさるようにその白い陰鬱な顔が近づけられたのです。何か見てはならないものを見たのだと、急にはっきり判りまして、私は一目散に逃げ出したのです。しかし怖いながらも妙に気になって、公園を出しなに後ろを恐る々々ふり返ったのです。するとその女の人は私の方を悲しそうな目で見て、それから闇の中に溶けるようにふっといなくなったのです。今思い出しただけでもゾッとしますよ」
 鵜方氏は両肩をブルッと震わせるのでありました。「翌日にその公園で、女の人の首吊り死体が発見されたのです。失恋の末の縊死だと父親が云っておりました」
「お、お、恐ろしい話ですね」
 拙生も大袈裟に身震いして見せるのでありました。
「私はその話しを聞いた途端、その日から三日間高熱が出て学校を休みました。それにその後何年も、私はその公園には近づけなかったのです」
 鵜方氏が唾を飲みこむのでありましたが、その音がいやにはっきり響くのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 169 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「そんな体験がおありならば、今夜の散歩なんと云うものは、ここいら辺で切り上げと云う事にいたしましょうかな?」
 拙生はそう提案するのでありました。
「いや、トラウマと云っても、もう瘡蓋が剥がれる程度になっておりまして、多少過敏にはなりますが、しかし全く戦慄いていると云うわけではありません。それに今夜を逃すと私は邪馬台郡の住宅街を見学出来ませんので、出来れば続行を希望いたします」
「ああそうですか。それなら良いのですが」
「しかしあの体験も、屹度準娑婆省の連中の私に対して行ったちょっかいなのでしょうね」
 鵜方氏がすこし冷めた語調で云うのでありました。
「そうなりますかな」
 拙生は腕組みして頷くのでありました。
「審問官だったか記録官だったか、それとも閻魔大王官だったかにその辺の事情を聴いて、ふうんそう云う事だったのかと、私は今にして漸くあの事の絡繰りが判りましたよ」
「要は準娑婆省の誰かが、貴方にそんな悪戯を仕かけて面白がったと云う事ですな」
「そうですね。準娑婆省の連中も、そんな下らない真似をして何が面白いのでしょうね」
 鵜方氏の口調には些か悔しそうな響きが混ざっているのでありました。
「ま、連中の心底は判りませんが、準娑婆省は聞くところに依ると娑婆の天候とか、娑婆で起きる天災なんかも司っているようなので、自分達が娑婆を恣意にコントロール出来て、それに娑婆の人間が右往左往するのが何やら無性に嬉しいのでしょうね。娑婆で起きる大きな出来事は準娑婆省政府が、それから貴方の蒙られた悪戯のような小さな事象は、ちょっかい免許を持った、一般の連中が仕かけているのでしょうが、そんな人の悪い真似、いや違った、霊の悪い真似、若しくは鬼の悪い真似をして面白がる連中には、実に全く困ったものですよね。娑婆にもそんな人間が結構大勢いたような気がしますから、我々元人間だったのが、準娑婆省を悪く云うのは身の程知らずで烏滸がましいのかも知れませんが」
「ま、残念ながらそうなりますが」
 鵜方氏は自嘲的な笑みを浮かべるのでありましたが、次の瞬間、顔からその笑みを素早く剥ぎ取るのでありました。拙生がその表情の急変にたじろぐ間もなく、鵜方氏が再度の公園の不穏な気配を睨みつけて、荒げた鋭い声を発するのでありました。
「誰だ、そこにいるのは!」
 鵜方氏のその声に反応するように、公園の木々がさざめくのでありました。
「こんな遅くに、こんな寂しい道をフラフラ歩いていると危ないぜ」
 木立のさざめきの中から、暗闇に紛れるような黒っぽい服装の小柄な男が、我々をからかうような口調でそう云いつつ現れ、その後ろに続いて同じ黒尽めの、これは如何にも大柄な、その体躯だけで人を、いや亡者を畏れさせるに充分な巨漢が三人、いや三霊、いやひょっとしたら三鬼、出現するのでありました。暗中でその顔は聢とは判らないのでありましたが、何やら凶悪そうな風情だけは緊々とこちらに伝わってくるのでありました。
「お前等、何の用だ?」
(続)

もうじやのたわむれ 170 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 鵜方氏が気後れする様子もなく、落ち着いて不審な男たちに問うのでありました。
「寂しい住宅街の夜道の散歩は危ねえぞって、助言してやってんじゃねえかよ」
 最初に現れた小柄な男がこちらを無礼切った口調で云うのでありました。
「ああそうかい。その助言は有り難く頂戴したから、さっさと消え失せろ」
 鵜方氏が豪胆にそう応えるのでありました。
「若し何なら、俺達が護衛してやろうか?」
 小柄な男は卑俗に笑うのでありました。
「我々の姿を認識出来るところを見ると、お前らは邪馬台郡に住む一般の霊ではないな?」
「ま、そう云う事になるな」
 男は卑俗な笑いのオクターブを上げるのでありました。
「ははあ、亡者を拉致する事件が起こっていると聞いていたが、お前らがその拉致犯か?」
「いやいや、拉致なんてとんでもねえ。面白い処へご招待して、ま、些か強引にご招待してよ、こちらの世に来た事に歓迎の意を表そうとしているだけだぜ、俺達は」
「それは結構な事だが、我々は遠慮しておく。どうせお前等チンピラ風情の歓迎の意なんて云うのは、碌でもない魂胆が裏に隠してあるんだろうからな」
 鵜方氏はクールに云って、その後失笑して見せるのでありました。
「まあまあ、そう遠慮するなよ。俺達の歓迎の意もそんなに捨てたもんじゃねえぜ」
 鵜方氏のあしらうような受け応えを聞いても、すぐに単純にカッとしていきなり声を荒げたりもせず、余裕たっぷりの薄笑いを絶やさないでいるところを見ると、存外この小柄な男、肝が据わっていて、単なるチンピラとは少しばかりわけが違うのかも知れないと拙生は考えるのでありました。ひょっとしたら宿泊施設のコンシェルジュが云っていた、準娑婆省の諜報機関かどこかに属する男なのかも知れません。そう云う事であるなら、単なるチンピラ風情なんかよりももっと性質が悪く、余程恐るべきヤツだと云う事になります。
 小柄な男が目配せを送ると、横にいた大柄で屈強な体躯の男が一人、いや一霊、若しくは一鬼、鵜方氏に近寄って、太い丸太のような腕を伸ばして、鵜方氏の肩口を乱暴に鷲掴むのでありました。鵜方氏は鷹揚に男の方に体ごと向き直りつつ、秘かに一歩横に片足を開くのでありました。すると男の体勢が少し崩れて、自然に一方の足だけに男の全体重が移るのでありました。そこをすかさず重心を落としながら、鵜方氏は大きく前に踏み出して、男の顎を掌底で突き上げるのでありました。いきなりの峻烈な反撃に、男は小さな悲鳴を発しながら大きく仰け反って、足を宙に跳ね上げて後方に転倒するのでありました。
 男は着地した時に後頭部をしたたかに打ったらしく、虚ろな目をして呻き声を上げて、小さな身じろぎはしているものの、もう起き上がってはこないのでありました。それは一瞬の、拙生にしてみれば全く意外な、瞠目するべき出来事なのでありました。
 その鵜方氏の鮮やかな反撃に、小柄な男はたじろいで、反射的に一歩後ろに跳びさがるのでありました。残った屈強な体躯の男二人、いや二霊、若しくは二鬼は、今、目の前で起こった事が信じられないと云う顔をして、鵜方氏に目を釘づけた儘、茫然と立ち尽くしているのでありました。拙生も同じく動きを失くして、瞬きを忘れるのみでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 171 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 鵜方氏が拙生を男達から遠ざかる方向に、手でやんわりと押し遣るのでありました。離れていろと云う無言の指示でありましょうから、拙生は慌てて公園とは反対の方に後ろ向きにさがって、一団とやや距離を取るのでありました。男達が拙生を見るのでありましたが、鵜方氏が前に立ちはだかっているので動けないのでありました。
 男達の視線が鵜方氏から離れたのは、つまり一瞬の隙が出来たと云う事で、鵜方氏はその隙につけこんで端にいた男の懐に素早く入ると、その袖口を取って男の体を前方に引き出し、同時に手刀を首に打ちこみながら急激に体を沈めるのでありました。男は前回りに翻筋斗打って頭から地面に叩きつけられて、其の儘仰向けにのびてしまうのでありました。すかさず鵜方氏がその横の男の足を、沈めた儘の体で強烈に薙ぎ払うと、男は鵜方氏の上を宙で綺麗に一回転して、背中から地面に落ちるのでありました。落ちた男の鳩尾にすぐに鵜方氏が拳で当身を入れると、男はグウと呻いて気絶するのでありました。あっという間に、鵜方氏は巨漢三人、いや三霊、若しくは三鬼を片づけて仕舞ったのでありました。
 拙生はこの鵜方氏の圧倒的な強さにすっかり感服するのでありました。そう云えば氏は娑婆で合気道の修行を長く続けていたと云う事でありましたが、まるでテレビの刑事ドラマか捕り物の時代劇のように、巨漢三人、いや三霊、若しくは三鬼を瞬く間に鮮やかに倒して仕舞う手並みなんと云うものは、実に全く驚嘆に値すべきものでありましょう。拙生は思わず不謹慎にも、音羽屋! なんと声をかけたくなるのでありました。
 残った小柄の男が慌てて鵜方氏から距離をとり、懐に片手を入れるのでありました。その手が再び現れた時には、街灯の明かりにキラと光る短刀が握られているのでありました。
 鵜方氏は小柄な男と間合いをとって対峙すると、やや前屈に身構えて、上着を素早く脱いでそれを右の手に巻きつけるのでありました。
「こいつ等同様、お前も痛い目に遭いたいんだな?」
 鵜方氏がそう無表情の儘クールに云って、小柄な男を怯ませようとするのでありました。男は片手の短刀を前に構えた儘、鵜方氏を見据えて何も云わないのでありました。少し長い時間、その儘で動かない対峙状況が続くのでありましたが、しかし時折、男が拙生の方にチラチラと視線を投げるのは判るのでありました。暫くすると男は、距離はつめないながら、鵜方氏の周りを左にゆっくりと回るような動きを見せるのでありました。
 それは、男と拙生を結ぶ直線の間に鵜方氏がいると云う位置関係を崩して、男と鵜方氏、それに拙生を頂点とする、三角形の位置関係をとろうとしているように窺えるのでありました。と云う事はつまり、男は期を見て手練の鵜方氏ではなく、拙生の方に跳びかかろうと目論んでいると云う事であります。そう気づいた拙生はたじろいで、男と鵜方氏と拙生の位置関係が直線の儘になる方向に、男が動いた分を慌てて移動するのでありました。鵜方氏も男の目論見を見破っているらしく、拙生と男の間に自分の身が挟まり続けるように動くのでありました。我々は夫々、円を描くような軌跡で横移動を続けるのでありました。
 暫くすると男は距離を取った儘、動くのを止めるのでありました。これでは目論見が上手くいかないと踏んだのでありましょう。男は舌打ちをして、屈めていた上体を起こして、短刀を持った手の構えを解くのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 172 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「俺とした事が、少しばかりお前等を甘く見たようだぜ」
 小柄な男が冗談のような軽い口調で云うのでありましたが、それはこう云う事になっても、あくまで余裕のあるところを見せるための虚勢でありましょう。
「どうした、竟に降参か?」
 鵜方氏も相手を問題にもしていないような口調で云うのでありました。
「仕方がない。今日のところは見逃してやろう」
 男はそう棄て科白を吐くと、持っていた短刀を拙生の方にいきなり投げるのでありました。拙生は頭を抱えて慌てて身を低くするのでありました。短刀は拙生の頭上を際どく掠めて後ろに飛び去るのでありました。鵜方氏が拙生の方に目を向けた隙に、男はその場を逃げ去るのでありました。男の姿はすぐに暗がりの中に紛れて仕舞うのでありました。
 鵜方氏は数歩男を追うように走るのでありましたが、しかしすぐに諦めて深追いはしないのでありました。鵜方氏は蹲っている拙生の傍に近寄って来ると、拙生の脇に腕を差し入れて、気遣いながら拙生を立たせるのでありました。
「怪我はありませんでしたかな?」
「大丈夫です」
 拙生は実は恐怖に些か膝が笑っているのでありましたが、なんとか自力で立っていられるのでありました。「いや、それにしても、貴方は惚れ々々するくらいお強いですなあ」
「いやいや、それ程でもありませんよ」
 拙生の呑気な感嘆の言葉に、鵜方氏が照れるのでありました。
「娑婆で習っておられたと云う合気道の技ですか、今のは?」
「まあそうですね。しかしこちらでも、ちゃんと技が使えたと云うのは驚きでした。それにこの私の今の体も、思い通りに動くのか心配だったのですが、まあ、なんとか娑婆時代のようにリラックスして動いてくれましたよ。なかなか精巧に出来ているのですねえ、私達のこの今の、人間でもなく霊でもない個体識別のためだけの仮の姿、なんと云うものも」
 後方で呻き声がするのでありました。それは先程鵜方氏に伸された巨漢の一人、いや一霊、若しくは一鬼が発する呻き声でありました。鵜方氏はその声の方に向かうと、意識の戻りかけた男の鳩尾にもう一度強烈な当身を食らわすのでありました。男はまたしても夢の中に逆戻るのでありました。鵜方氏は他の伸びた儘の二人、いや二霊、若しくは二鬼にも序でに、念のため当身を食らわすのでありました。なかなか容赦のない仕業であります。
「先程の、交番の警察官に連絡しましょうかね?」
 戻って来た鵜方氏に拙生は云うのでありました。
「そうですね、あの逃げた男も気になりますから、その方が無難でしょう」
 鵜方氏が同意するので、拙生はポケットから携帯電話を取り出すと、先程登録して貰った交番の電話番号をプッシュするのでありました。
 程なく赤燈を目まぐるしく回転させて、大音量でサイレンを発しながらパトカーが急行して来るのでありました。パトカーが公園を背にした拙生と鵜方氏の前に急停車すると、中からさっきの警察官が血相を変えて飛び出してくるのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 173 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「大丈夫ですか?」
 警察官が拙生と鵜方氏が平静な表情をしているのを認めて、少し気勢を削がれたような顔になって、遠慮がちな小声で聞くのでありました。
「ええ、私等は大丈夫ですが、・・・」
 鵜方氏はそう応えて、その後に公園前の路上に転がっている巨漢三人、いや三霊、若しくは三鬼の方に視線を向けるのでありました。
「こいつ等が先程電話で仰った、暴漢共ですか?」
 警察官もそちらを見るのでありました。
「そうです。一人捕り逃がしましたが」
 そう云った後で鵜方氏が自分の頭を一つ叩くのでありました。「いや、一人じゃなくて、一霊とか一鬼とか云わなければいけないのでしょうかね、こちらでは」
「この際、そう云う助数詞はどうでも良いですが、・・・」
 警察官は鵜方氏の顔をまじまじと見るのでありました。「貴方がこの、ここに倒れている男達をやっつけて仕舞われたので?」
「ええ、まあ。先にかかってきたのはこいつ等の方ですから、あくまで正当防衛ですよ」
 鵜方氏がそう受け答えしている途中で、またもやサイレンの音と、闇にグルグル回る赤燈の光の飛沫が見えるのでありました。
「亡者の方を認識出来る応援の警官を本署から呼んだのです」
 件の警官が云うのでありました。
 到着した三台のパトカーの中から制服警官が六人、いや六霊、若しくは六鬼と、私服刑事が三人、いや三霊、若しくは三鬼跳び出してくるのでありました。警官達が倒れている男達を急いで取り巻くと、拍子の良い事に男達がぼつぼつと意識を取り戻し始めるのでありました。暴漢達の中で一端意識を取り戻して、最初に鵜方氏に当身を食わされた男が、呻き声を発しながら緩慢な動作で上体を起こそうとしているのでありました。
 男達は両脇から警官に腕を取られてパトカーまで引き立てられて、すぐに手錠を嵌められるのでありました。いきなり有無を云わさず手錠を嵌めると云うのも、民主警察としては何やら乱暴過ぎるように拙生には思えるのでありましたが、しかしまあ、襲われた当事者たる拙生の、暴漢達へのそんな呑気で間抜けた同情みたいなものは、今のこの場合、見当外れでぼんくらな、戯れ言のような同情と云う以外にはないものでありましょうが。
「こいつ等の面相は間違いなく、指名手配されている誘拐犯のものだ」
 レインコートを着た刑事が、最初にここに到着した交番の警官に云うのでありました。
「ああ、矢張りそうですか」
 交番の警官が緊張した面持ちで返すのでありました。
「襲われたのは貴方達ですね?」
 刑事は、今度は警官の横に立っている拙生と鵜方氏に、鋭い視線を投げながらも柔らかい物腰で云うのでありました。拙生と鵜方氏は夫々頷くのでありました。
「一応事情をお聞きしますので、本署までご同行願います」
(続)

もうじやのたわむれ 174 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 拙生と鵜方氏は最初に来た警官のパトカーに乗って、暴漢達は一人ずつ、いや一霊、若しくは一鬼ずつ夫々三台のパトカーに分乗させられて、邪馬台郡警察中央署と云う処へ連れて行かれるのでありました。中央署は、住宅街から車で十分くらいの処でありました。
 夜だと云うのに暴漢達はすぐに取り調べ室に連行されて、その儘訊問を受けるようでありました。拙生と鵜方氏は応接室に案内されて、そこで事情聴取を受けるのでありました。
 我々には熱いコーヒーのふる舞いがあるのでありましたが、暴漢達には屹度それはないでありましょう。しか取り調べが済んだ後、ひょっとしたらテレビの刑事ドラマとかでお馴染の、カツ丼が連中には出るのかも知れません。まあ、もし連中に出るのなら、こちらにも出てきて然るべきであろう、なんと拙生は考えるのでありました。寧ろ連中がカツ丼なら、被害者たるこちらには鰻重とか、同じカツ丼でも上カツ丼が出てきても不思議ではないなんと、拙生がそんなしみったれたどうでも良い事に考えを巡らしていると、事件現場までやって来た、レインコートの刑事が鵜方氏に聴取の第一声を投げるのでありました。
「貴方達は閻魔大王官の審理をお受けになっている、三日間の思い悩み期間中の亡者の方と云う事ですが、あの現場にはどう云う目的でいらしたのですかね?」
「住宅街の視察散歩と云うので行ったのです」
 鵜方氏が啜っていたコーヒーをテーブルの上に置いて応えるのでありました。
「生まれ変わり候補地としての邪馬台郡の様子を、視察しておられたのですね?」
「そう云う事です」
 刑事は頷いて、前に広げた調書にその旨記すのでありました。
「時々、散歩や観光旅行中に亡者の方が行方不明になる事件が発生していると云うのは、ご承知になっておられましたかな?」
「ええ。宿泊施設の方でも、そこに立っておられる派出所のお巡りさんからも聞きました」
 鵜方氏が入口のドア傍に立っている、未だ邪馬台銀座商店街南派出所に戻らないで、我々につき添って居残っている警官の方に視線を投げるのでありました。
「本来そう云った亡者の方々の散歩なり観光なんかは、全く自由なのではありますが、我々の立場からすると、この時節、出来るだけお控え頂いた方が有難くはあるのです。・・・」
 刑事はそう云って、手にしているボールペンで頭を掻くのでありました。「いやしかし、そうは云うものの、憲法で保障された亡者の方の権利ですから、それを侵害したり制限したりするつもりは我々には毛頭ありません。でも、かと云ってですね、万全の警護体制を敷くには我々警察としてもですね、人手が足りないと云うのが偽らざる現状でしてね。まあ、今回の貴方達の被害に対しては、大変申しわけない思いをいたしてはおりますが。・・・」
 刑事はまたボールペンで頭を掻くのでありました。要するに事情聴取するに当って先ず、自分達が万全の警護体制を敷けていなかった現状を弁解しようとしているのか、権利を制限する気はないと云いつつ、ふらふら出歩くなと我々にやんわり指図しているのか、拙生には刑事のこの言の真意がよく掴めないのでありました。まあ、そう云う風に取るのは拙生の考え過ぎで、刑事の特に険しくもなっていない眉宇を見ると、一種の話しの取りかかりの愛想みたいな言葉以上ではなくて、特段の意図も了見も何もないのかも知れませんが。
(続)

もうじやのたわむれ 175 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「あの暴漢達はどう云う素姓の連中なんでしょうかね?」
 鵜方氏が刑事に訊くのでありました。
「まあ、貴方達が認識出来て貴方達の体に接触出来るヤツ等ですから、こちらの一般の霊ではないでしょうね。鬼類か、さもなくば貴方達と同じ亡者と云う事になるでしょう」
「ああそうか。我々亡者は一般の霊にとっては、幽霊みたいな質量のない存在と云う事ですからね。幽霊と格闘する事は出来ませんものね」
「そう云う事です」
 刑事はそう云って、手にしているボールペンを指先でくるんと回すのでありました。その手つきは、審問室での審問官の仕草を思い起こさせるのでありました。刑事のボールペン回しの手際は、審問官程習熟している風ではないけれど、記録官よりは上手そうであります。このボールペンでの手遊びが今、こちらで流行っているのでありましょうか。
「そうすると、以前に閻魔庁に勤めていたヤツと云う事になりますかな?」
「いや、あっさりとは口を割らないでしょうが、恐らく準娑婆省から来た連中でしょう」
「向こうの諜報機関に属すると云う?」
「そうですね。どこかで聞き及ばれていますかな、その辺の事情を?」
「ええ。宿泊施設のコンシェルジュにちらと聞きました。我々亡者を誘拐して、準娑婆省に拉致して、そこの住民にしてしまおうと云う魂胆で活動している諜報員がいると」
「まあ、しっかり取り調べてみないと判りませんが、恐らくそうでしょう」
 刑事はそう云ってまたボールペンをくるんと回すのでありました。「今まで尻尾も掴めなかった準娑婆省の諜報機関のヤツ等らしいのを、こうして三鬼も身柄拘束出来たのですから、これを切かけに準娑婆省の企みとか、諜報組織の全容や協力者の情報なんかも明らかに出来るかも知れません。そう云う意味で貴方達を連中が今日襲ったと云うのは、我々警察にすれは実に好都合であったと云えるでしょうかな。ま、申しわけない云い方ですがね」
 刑事はくるんくるんとボールペンを二度続けて回して見せるのでありました、
「その辺が解明されて、準娑婆省の関与が証拠づけられれば、地獄省としては準娑婆省当局に対して、どのような対処がなされるのでしょうかね?」
 これは拙生が訊くのでありました。
「それは我々が迂闊にここで云うべき事柄ではありませんが、しかしまあ、断固として有耶無耶にはしない、遠慮のない措置が決定されるでしょうね、地獄省政府では」
「下手をすると準娑婆省との戦争、なんと云う事態も想定されるのでしょうかね?」
「いやあ、その辺の政治的な判断については、私のような一介の警察官なんぞには何とも云い様がありません。しかし、そこまで事態を拗らせる事はないのじゃないでしょうかね、穏健な民主省家である我が地獄省の今までの前例からしても。ま、極楽省の方とも連携して、全こちらの世的な大問題にはするでしょうが、戦争と云うところまではいかないでしょう。準娑婆省と戦争をしても、こちらにとって特段の利益は何もないでしょうからね」
「ああそうですか」
 拙生は頷いて、刑事がまたボールペンを回すだろうとその手元を見るのでありました。
(続)

もうじやのたわむれ 176 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 刑事は今度はボールペンを回さないで、すぐに筆記出来るように持ち直すのだけなのでありました。それから固めた拳を口元に持っていって、咳払いを一度するのでありました。
「いやまあ、その辺の省家的判断の予想は置くとして、調書の方に戻りますが、貴方達は視察散歩に何時頃出かけられたのでしょうかね?」
「そうですねえ、昼の三時頃でしたかねえ」
 鵜方氏が自分の腕時計に目を落としながら云うのでありました。
「それで邪馬台銀座商店街に着いたのは?」
「三時半頃でしょうか。宿泊施設を出て、そんなに急いで歩いたわけではありませんから」
「そいで以って邪馬台銀座商店街南派出所の前を通られたのが?」
「もう六時半を回っておりましたか」
「すると三時間も、邪馬台銀座商店街をうろうろされていたのですかね?」
 刑事が鵜方氏を見て、その後でゆっくり拙生の方にも目を向けるものだから、今度は拙生がその質問に応えるのでありました。
「それは、喫茶店に入って、うだうだと娑婆の喫茶店関連の事とか、思い出話しなんかに現を抜かしたりしていたり、アーケード街から脇に離れて、寄席とか映画館とかストリップ小屋のある、ちょうど娑婆の浅草六区のような街区とか、その近辺のごちゃごちゃした辺りなんかを、好奇心に任せてうろついていたので、そんな時間になって仕舞ったのです」
「ああ、あの辺の脇道は錯綜しておりますから、時間もかかったと云う事でしょうかね?」
「そうです。アーケードに出ようとしたら出られなかったり、それで道の分岐点まで引き返して別の道に入りこんだりしました。まあ、その脇道散歩は結構面白かったですがね」
「ひょっとしたらその辺りで、あの連中に貴方達は目をつけられたのかも知れませんね」
 刑事がそう云いながら、自分の前に置いてあるコーヒーを一口飲むのでありました。「そいで以って、南派出所前に出て、そこの警官と言葉を交わされたのですね?」
 刑事はボールペンの先で、出入口ドア横に、律義に気をつけの姿勢をして立っている警官の方を指し示すのでありました。指された警官はどう云うつもりか、やや腰をかがめて我々の方にこれも律義に敬礼をして見せるのでありました。
「そうです。それでこのお巡りさんは親切にも派出所の電話番号を、我々の宿泊施設で借りた携帯電話に登録してくれたりしました。ねえ?」
 この、ねえ? で拙生はまた警官の方を見るのでありましたが、その拙生の仕草に警官はまたもや敬礼をするのでありました。
「その通りであります。時間も概ね六時半頃で間違いありません」
 そう云った後に警官は、刑事に向かって深めに腰を折ってまた敬礼するのでありました。
「ふむふむ、成程ね」
 刑事はそう得心しながら調書にボールペンを走らせるのでありました。「で、もう暗くなっているのに、宿泊施設の戻らずに住宅街の方に向かわれたのはどう云った了見で?」
「私の方が、もうその日しか視察散歩が出来ないので、暗くなってはいましたが、是非とも住宅街の方にも足を運ぼうと提案したのです」
(続)

もうじやのたわむれ 177 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 これは鵜方氏が云うのでありました。「もう明日には、私の方は閻魔大王官に、生まれ変わり地を申告しなければならないのです」
「ああ、そう云う事情がおありでしたのですね」
 刑事は調書にその事を記すのでありました。「それで、日暮れた後の散歩は危険だと云う認識は明確におありでしたでしょうかな?」
「ええ、それは承知しておりましたが、まあ、そんなに大事なかろうと、云ってみれば旅行者の気楽さみたいなものから、住宅街の方へと足を向けたのです」
「お前さんはこの亡者さんのそう云う行動を、止めはしなかったのか?」
 これは、まだ出入口の横で律義に気をつけの姿勢をして立っている、南派出所の警官に向かって刑事が訊く言葉でありました。
「まあ、街に出てこられた亡者さんの意向は、出来るだけ尊重せよと云う上からのお達しもありましたから、是が非でも止めようとは考えませんでした。今から思えば、あの時危険である事を強調して引き止めなかったのは、本官の怠慢だったかも知れません。」
 警官はそう云ってまた敬礼して見せるのでありました。
「まあ、本来はそうすべきところだが、今回はこの亡者さん達が散歩を続行したお蔭で、連中を三鬼も逮捕出来たのだし、ま、お前さんの責任は敢えて問わない事としようか。しかし今回のように事態が上手く回るとは限らないのだから、今後は気をつけてくれよ」
 刑事が訓戒を垂れるのでありました。
「はい。以後慎重に対処するように致します」
 警官がもう一度刑事に敬礼をするのでありました。
「で、あの三鬼と格闘された折りに紛失された物があったり、服のどこかに瑕疵を受けたなんと云う事はなかったでしょうかね?」
「それはありませんでしたね」
「貴方の方も?」
 刑事が拙生の方を向いて訊くのでありました。
「私はこの鵜方さんの活躍をただ見ていただけですから、そう云う事は全くありません」
「成程ね」
 刑事はまた調書にボールペンを走らせるのでありました。「連中はどう云う感じで、あの公園横の道端に現れて、どんな風に貴方達に近づいてきたのですかな?」
「まあ、よく娑婆にいる与太公が因縁をつけてくる遣り口ですね」
「お若けえの、お待ちなせえ、みたいな感じですか?」
「いやいや、連中よりも我々の方が見た目からして年嵩なのは明白ですから、そう云う科白は連中としても吐き辛かったでしょうなあ」
「では、煙管かなんか銜えて、卒爾ながら火を御貸し願いたい、とかなんとか?」
 刑事は上野の鈴本演芸場で聞いた、金原亭馬生師匠の『花見の仇打ち』と云う落語に出てくるような科白を吐いてみせるのでありました。
「いやいや、そうではありません」
(続)

もうじやのたわむれ 178 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 鵜方氏は手を横に何度かふるのでありました。「こんな遅くなってふらふら歩いているのは危ないぜ、とか何とかニヤニヤしながら云って、公園の木の間から出てきたのです」
「ああ、成程ね」
 刑事はまた調書にその旨書きこむのでありました。
 後は微に入り細に入り件の暴漢と我々の遣り取りや格闘の一部始終を、鵜方氏が合気道の技の名前なんかも織り交ぜて、刑事にクールな語調で話すのでありました。離れた位置で傍観していただけの拙生は、この後の話しに於いて出る幕は全くないのでありました。
 あらかた聴取が終わったところで、拙生がなんとなく鵜方氏に云うのでありました。
「なんか、腹が減ってきましたねえ」
 これはカツ丼の出前を取りましょうかとか何とか、刑事が気を利かせて云い出すのを期待して、実は刑事に聞かせるために口に上せた言葉でありました。
「いや、私は特に」
 鵜方氏はそう云って首を横にふるのでありました。「大体我々のこの今の体は、基本的に腹の減らない作りになっているのですから、そう云うのはないはずではありませんか?」
「いやまあ、それはそうですが、・・・」
 拙生は口籠って、刑事の方を上目で見るのでありました。
「ひょっとしたら娑婆のテレビの刑事ドラマのように、取り調べの後で、襲った方の暴漢達にはカツ丼とかがふるまわれたりしているのではないか、なんとお考えになって、その辺を探ろうと云う了見で、そんな事をまわりくどく云い出されたのでしょうかね?」
 刑事がニヤニヤと笑いながら拙生に云うのでありました。
「いや流石刑事さんですね。ご明察であります」
 拙生は苦笑って、お辞儀しながら頭を掻くのでありました。
「いや、取り調べが長時間に及ぶ場合は、人道的、いや霊道的見地から食事の時間を設けたりしますが、基本的にはカツ丼の出前を取る、なんと云う事はいたしません。テレビのコントなんかではよく、取り調べ室に蕎麦屋の出前の兄ちゃんが岡持を持って入って来て、容疑者の前にカツ丼を置いて、毎度有り、とか何とか云いながら出て行く場面があったりしますが、そんな部外者が取調室に入るなんと云う事は出来ませんし、容疑者の食事は署内の食堂から取調官が運んできます。ま、それが偶々カツ丼の場合もありはしますがね。それにそう云った食事はふるまいではなくて、後で代金をちゃんと請求いたしますよ」
「ああ、そう云うものですか」
 拙生は真顔で数度頷くのでありました。「これは大いに勉強になりました」
「今の時間はもう署内の食堂もやっておりませんので、貴方達を襲ったあの暴漢達には明日の朝まで食事は出ません。連中は取り調べが終われば、後は留置所で寝るだけです」
 刑事のそう云う説明が済んだ辺りで、出入口のドアがいきなりノックされるのでありました。ドア横に立っていた南派出所の警官がすぐさま扉を引き開けて、顔だけを外に出して応対するのでありました。そうですか、とか、はいはい、とか、了解しました、とか云う警官の声が聞こえてくるのでありました。訪れた誰かと話しをしているようであります。
(続)

もうじやのたわむれ 179 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「閻魔庁の宿泊施設からお迎えの方がいらしてます」
 警官は顔を室内に戻してそう云うと、扉を大きく開くのでありました。そこから、恐らく宿泊施設の出入口で見た警備員と同じ、警察官のものとは違うやや明るい藍色の制服を着た三人、いや三霊、若しくは三鬼の男達が応接室の中に入ってくるのでありました。
「警察署の方から連絡を頂いて、閻魔庁施設局の警護係から亡者様をお迎えに上がりました。私は責任者の、名前を賀亜土万三と申します」
 一番大柄で一番年嵩らしい警護員がそう名乗って、身分証明書のようなものを提示してから、レインコートの刑事に律義な敬礼をするのでありました。
「ああ、ご苦労さんです」
 刑事も立ち上がって、こちらは如何にも無精そうに敬礼を返すのでありました。
「事情聴取はもう済んだのでしょうか?」
「ええ。あらかた終わりました。単なる刑事事件と云うのではなくて、事は準娑婆省絡みの省家的問題になりそうですから、そうなると我々邪馬台郡の警察が処理するには大き過ぎます。被害届の提出も、亡者さん関連の事件では必要ありませんしね。どうせ亡者さん達は三日以内に、新しい霊として地獄省か極楽省に生まれ変わられるのですから、そうなると被害そのものも、結果として消滅して仕舞うわけですから。ま、そう云う事ですわ」
「では亡者様達は、これにて放免と云う事で宜しいのですね?」
「ええ、結構です」
 刑事はそう云って、拙生と鵜方氏の方にお辞儀して見せるのでありました。そのお辞儀に誘われるように、我々も立ち上がるのでありました。
「では、宿泊施設まで我々が警護いたします」
 賀亜土万三氏が拙生と鵜方氏に敬礼するのでありました。
「いやまあ、被害に遭われた上に、聴取のためのお時間まで頂戴して恐縮でした」
 刑事が我々の方に向かって云うのでありました。「カツ丼のおもてなしくらいさせて貰いたかったのですが、生憎食堂の方がもう閉まっておりますのでそれも出来ません」
 刑事は冗談めかした口調で云って、拙生を見てニヤっと笑うのでありました。
「いやいや、コーヒーを有難うございました」
 拙生は頭を掻きながらお辞儀をするのでありました。
「では、もうお会いする事もないでしょうが、お元気で。ご協力を感謝いたします」
 刑事はそう云って先ず鵜方氏と、その後に拙生と握手するのでありました。
「ご難儀な事でした」
 警察署を出て迎えの車に向かう途中で、拙生と鵜方氏の左側を歩く賀亜土万三氏が、我々にそう声をかけるのでありました。警護員は右側にも一鬼、後ろに一鬼で歩く我々を囲んで、時々周りに鋭い視線を投げながら警護してくれているのでありました。
「いやいや、こう云う云い方は不謹慎かも知れませんが、面白い体験をさせて貰いました」
 鵜方氏が笑いながら返すのでありました。「久しぶりに合気道の技なんかも使って、未だそんなに衰えていないのを確認させて貰えた分、痛快でしたよ」
(続)

もうじやのたわむれ 180 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「貴方が暴漢達を一人でやっつけられたと伺いましたが?」
 賀亜土万三氏がやや目を見開いて鵜方氏に訊くのでありました。
「ええまあ」
「随分とお強いのですねえ」
「いやそれ程でも」
 鵜方氏は無表情な儘、クールに自分の腕自慢を避けるのでありました。
「合気道の技だと仰いましたよね?」
「こちらにもありますか、合気道と云う武道が?」
「ええあります。柔道も剣道もあります」
「ほう、そうですか」
「娑婆に在る武術武道は総てこちらにもあります。武芸十八般です。柔道、剣道、合気道、空手、薙刀、それに水泳術も槍も弓も馬も未も申も酉も戌も。・・・」
「それは十二支です」
 拙生がツッコむのでありました。これは寄席で聴いた春風亭柳昇師匠の落語にあります。
「ではお乗りください」
 警察署の駐車場の端に止めてある、前のドアに閻魔庁と書いてある白い大型のバンの後ろのドアを開きながら、賀亜土万三氏が云うのでありました。乗ろうとする間際に、鵜方氏がふと乗るのを逡巡するような仕草をして、賀亜土万三氏を上目で見るのでありました。
「閻魔庁施設局警護係の警護員と名乗る貴方達が、実は準娑婆省の諜報員だと云う事もあり得るかも知れませんよね。そうなるとさっきの刑事さんも我々も見事に嵌められて、我々はこれからこの車で、準娑婆省の方に拉致される事になるわけだ。ま、冗談ですけどね」
 冗談とは云いつつも、鵜方氏は鋭い眼光を賀亜土万三氏の目に注ぐのでありました。
「ああ、そのご懸念は尤もな事です」
 賀亜土万三氏が柔らかな笑い顔で返すのでありました。「若しお疑いのようでしたら、貴方様の携帯電話で閻魔庁の宿泊施設に電話をされて、そこから警護係の方に回して貰って、警護員が亡者様を迎えに警察署に派遣されたのかと云う点、それに私の名前と見た目の特徴なんかを確認されては如何でしょうか? そうすると貴方様も安心出来るでしょうし」
 この賀亜土万三氏の語調は、自分達が疑われた事に対する反発やたじろぎのようなものは一切なくて、あくまでも謙った静かなものでありました。
「では、気分を害されるかも知れませんが、場合が場合ですからそうさせて頂きますかな」
 鵜方氏はそう云うと拙生の腕を取って、車からやや離れた位置まで後退するのでありましたが、これは万が一、電話している最中に急に襲われた時の対処でありましょう。拙生なんかにはとても真似の出来ない、なかなかハードボイルドな鵜方氏の行動であります。
 ポケットから携帯電話を取り出す鵜方氏に、拙生が小声で話しかけるのでありました。
「貴方のご懸念は、多分取り越し苦労だと思いますよ」
「ほう、どうしてそう云えるのです?」
 鵜方氏は携帯電話の操作を止めて拙生を見るのでありました。
(続)
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