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お前の番だ! 578 [お前の番だ! 20 創作]

「そう云えばその折、香乃子ちゃんからあたし相談を受けたわね」
 あゆみが懐かしむような顔つきをするのでありました。「いざとなったら自分が働いて良君との生活を守る、なんて香乃子ちゃんが健気に決意表明していたのを思い出すわ」
 香乃子ちゃんはそんな話しを出し抜けにあゆみが持ち出すものだから、何となくはにかむような笑いを両頬に広げるのでありました。
「あたしから云わせれば、あゆみ先生と折野さんの結婚も大丈夫だし、常勝流宗家継承問題も、折野さんの覚悟はこれからとしても、大方無難な辺りに落ち着くわけだから、当面は万事、目出度し目出度しって事だと思われますよ」
 香乃子ちゃんはあゆみが持ち出した話題から遠ざかるためにか、そう云ってしかつめ顔で何度も頷いて見せるのでありました。
「まあ、あゆみさんと結婚出来ると云うのが僕としては第一番目の目出度し、だけど」
 万太郎のその云い草が先程のあゆみ同様、如何にもしれっとしているものだから、それを聞く香乃子ちゃんの方が何となくモジモジと照れて仕舞うようでありました。
「この二人なら結婚しても屹度上手くいくだろうな」
 良平がそうニヤニヤ顔で、万太郎とあゆみを交互に見遣りながら結論づけるのでありました。香乃子ちゃんも二人を冷やかすような目つきで頷くのでありましたが、当の万太郎とあゆみはどこまでもしれっとした様子の儘でありましたか。

 良平と香乃子ちゃんとは九段下の駅で別れて万太郎とあゆみは酔い覚まし方々、夜風を火照った顔に気持ち良く受けながら神保町駅まで歩くのでありました。神保町駅まで歩き着くとそこからすぐに混みあった電車に乗りこむのが億劫でもあるし、もう少し二人のそぞろ歩きを楽しみたくもあるし、と云う云事でその儘以前に興堂派道場への出稽古や是路総士の用事で向かった道を逆に、御茶ノ水駅まで延長して辿り歩くのでありました。
「ねえ万ちゃん」
 あゆみが横の万太郎に話しかけるのでありました。「あたし達さあ、良君と香乃子ちゃんみたいに、この二人なればこそ、なんて云う風に見える夫婦になれるかしら?」
 あゆみが云うように確かに良平と香乃子ちゃんと云うペアは、二人並んでいると如何にもこれ以上に相応しいペアはそうは居ないのではないかと思えるくらい、初々しさも未だ残していつつ、更に何とも落ち着きを感じさせる風情が備わっているのでありました。
「そうなれるように、僕は頑張りますよ」
 万太郎は然して気負った風にでもなくそう云うのでありました。「でも頑張ったらそうなれるのかどうか、それとも何かもっと違う要因があるのかは良く判りませんが」
「要するに何年経っても、子供が出来ても、お互いを求めあう度合いが前とちっとも変わらないから、あんな風に初々しい儘なのかしらね」
「そうですね。求めあう度合いが変わらないで、その上に一定の年季と自信が加わって、それであんな感じの落ち着いた風情も醸し出しているのでしょうかね」
 万太郎は自分の人生経験に照らして、この論に確たる自信はないのでありました。
(続)
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