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あなたのとりこ 140 [あなたのとりこ 5 創作]

「でも那間さんはその間どうするのですか?」
「あたしは製版フイルムの修正作業があるからそのライトテーブルを使うわ」
 その所為製版フイルムの修正作業と云うのが頑治さんには何なのか良く判らないのでありましたが、まあ、そう云う事ならと那間裕子女史が立った机の前に行って交通路線図の図案の描いてあるコピーを置くのでありました。那間裕子女史の使っている椅子には小さな座布団が敷いてあるのでありましたが、椅子に腰を下ろすと座布団に移っている、直前まで座っていた那間裕子女史の体温が艶やかに尻から伝わって来るのでありました。

 頑治さんが右隣の席に座る均目さんを見ると、均目さんは椅子に座った儘で頑治さんの横に移動して来るのでありました。
「所要時間は手間だけど直接各鉄道会社の広報に電話して一々訊くのが原則だ。中には面倒臭がってか意地悪でか教えてくれないところもあるけど、その場合は所要時間が記載してある資料とかパンフレットを送ってくれと頼む事になる。教えてくれるところはその儘図に書き入れていけば良い。市販の時刻表をその儘引用しても良いんだけど、それでは二次資料の無断転載と云う事になるから、一応鉄道会社から直接教えて貰うんだ」
「じゃあ、先ず以て鉄道会社の広報に電話しなければならない訳だ、俺が」
「その通り。なるべく丁寧な物腰の電話をね。先ずこちらの電話した意図を縷々説明してから、気持ち良く協力して貰うと云う寸法だよ」
「ふうん。成程ねえ」
 単純に何かの資料から書き移せば良いのかと頑治さんは思っていたのでありましたが、これはなかなか面倒な仕事のようであります。頑治さんが眉間を狭めて少し及び腰の表情をして見せるものだから、均目さんは無声で少し笑うのでありました。
「向こうの電話に出た人の中には矢鱈と無愛想でつれない対応の人もいるし、あからさまに迷惑そうな声を出す人もいるけど、そこはこちらとしては苛々しないで律義に徹して何とか対応して貰う。まあ、秘密にしてある事を訊き出すのでもないし、そうやって自社の情報を流布するのも広報の一環と弁えて、丁寧な対応をしてくれる人も中にはいるよ」
 益々億劫で面倒な仕事のようであります。
「まあ良いや。取り敢えず何処かに電話をかけてみるよ」
 頑治さんはそう云って、何時もは那間裕子女史が専用に使っているのであろう机の隅に置いてある電話に手を延ばすのでありました。製作仕事の手伝いを引き受けた以上、何はともあれやってみなければ始まらないと云うものであります。
「見れば判るだろうけど、図の中で既に所要時間が書いてあるのは、もう俺が電話して完了した路線と云う事になる。だからそれ以外、ね」
 均目さんが一応念を押すのでありました。
「判った。鉄道会社の電話番号一覧みたいなものは無いのかな?」
「それは面倒だけど一々時刻表で調べてくれ。じゃあ宜しく」
 均目さんはまた椅子を転がして自席に戻るのでありました。
(続)
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