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あなたのとりこ 110 [あなたのとりこ 4 創作]

 動物園入り口ゲート近くの自動販売機で自分の温かい缶コーヒーと、夕美さんの冷たい葡萄ジュースを買っていると頑治さんは誰かから肩先を不意に叩かれるのでありました。振り向くとそこに立っていたのはこの前会社を辞めた刃葉さんでありました。
「久し振り。また妙な処で逢ったもんだな」
 刃葉さんはニコニコと笑い掛けるのでありました。
「ああ、羽葉さんじゃないですか。お久し振りです」
 頑治さんも笑い返すのでありましたが、まさかこんな処で逢うとは思ってもいなかったものだから、頑治さんの笑い顔は何となくぎごちないものになるのでありました。
「何だよ、動物園にでも遊びに来たのかい?」
 刃葉さんは場所柄そう問うのでありました。
「いや、そうじゃないですが、自動販売機を探していたらここに在ったんで」
 頑治さんがそう返すと刃葉さんは頑治さんが両手に一缶ずつ持っているコーヒーと葡萄ジュースの方に交互に目を遣るのでありました。
「二つ買ったところを見ると、連れが居るのかな?」
「ええまあ」
 頑治さんは特に夕美さんの存在を刃葉さんに隠す必要も無いし、それにまた態々告げる必要も無いと思うものだから曖昧にそう応えるのでありました。
「ひょっとしてデートかい?」
「知り合いと東京都美術館に来た序に、ちょっと公園内を散歩していたんです」
「ふうん。まあ良いや」
 刃葉さんはそれ以上頑治さんの連れについて興味を示さないのでありました。
「新しい仕事はもう見付けたんですか?」
 別に刃葉さんの近状や消息について頑治さんも大して興味は無いのでありましたが、まあ一種の愛想からそんな事を訊いてみるでありました。
「いや未だだよ」
 刃葉さんがあっけらかんとそう応えるところを見ると、さして熱心に新しい仕事を探している様子は窺えないのでありました。前職があんな調子だったからなかなか就職先も見つからないであろうと、頑治さんは余計な心配なんかを秘かにするのでありました。
「あんまり焦っていないようですね」
「うん、まあ」
 刃葉さんは一つ頷いてから、ちょっと間を空けて続けるのでありました。「来年になったら網走の方に行く事になるかも知れない」
「網走と云うと北海道ですか」
「当然そうだな。北海道の網走」
 刃葉さんは繰り返して、少し勿体を付けるように口を閉じるのでありました。
「網走に仕事が見つかりそうなんですか?」
「いや、仕事と云うのじゃないんだけど」
(続)
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