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あなたのとりこ 67 [あなたのとりこ 3 創作]

「押絵に強引に誘われて、あたしも参加したの」
「そう云えばミッションの女子高生も何人か輪の中に居たような気がする」
 頑治さんは遠くを見るような目付きをして往時を思い出すのでありました。「俺も剣道部の指令で参加していたんだ。学園祭が終わった後に運動部員は後片付けに駆り出されるんで、最後まで残っていなければならなかったからね」
 頑治さんは夕美さんに目の焦点を合わせ直してから云うのでありました。すると今度は夕美さんが頑治さんから微妙に目を逸らすのでありました。
「唐目君が参加していたのは知っていたわ。で、二重の輪が一人ずつずれながらグルグル回ってさ、唐目君とペアになったらどうしようって、あたし実は恐々として踊っていたのよ。多分押絵はそれが目的で、面白がってあたしを強引に誘ったんだと思うけど」
 この夕美さんの言葉の後段が少々気になるのでありましたが、頑治さんは敢えてそれを意に留めない風に、如何にも冗談めかした口調で訊くのでありました。
「何だよ、俺とペアになるのがそんなに嫌だった訳か?」
「ううん、勿論そう云うんじゃなくてさ」
 夕美さんはコーヒーカップを口元に運ぶのでありました。「だから詰まり、恐々としてって云うのか、ドキドキしてって云うのか、・・・」
「まあ、結果的には羽場の望み通りペアになる事はなかったよなあ、確か。・・・いやひょっとしてペアになっていて、でもそれを俺が判らなかったのかな」
 何やら話しの展開に妙にウキウキして来るのだけれど、頑治さんは舳先の進路を十四度程度、右か左かはこの際別として、敢えて微変更して見せるのでありました。
「そうね、ペアにはならなかったわね、残念だったけど」
「残念だった?」
 頑治さんは舳先を七度程元に戻すのでありました。
「まあ、いいじゃない」
 夕美さんは続けて二口コーヒーを飲むのでありました。「だから、あたしは高校生の唐目君を見た事があるの。それで、高校生の頃、って云ったの」
「ふうん。しかしそうなると俺も高校生になった羽場に逢ってみたかったな」
 頑治さんは郷里にある高校の中でも特にスマートなミッション高校の制服を着た夕美さんを思い浮かべているのでありました。さぞや可憐な姿であった事でありましょう。
「中学生の頃とそんなに変わらないわよ」
「いや、女子は一年逢わないと見違えるくらい変貌するって云うからなあ」
「それは高校を卒業してからの話しよ。制服も着ないしお化粧とかするようになるし」
「ふうん、そう云うものかね」
 頑治さんはその辺には疎いものだからあっさり納得の頷きをするのでありました。しかしこうして七年振りに逢った夕美さんはそんなに化粧っ気は無いのでありましたし、確かに中学生の頃の幼さが程良く消えているものの、面影はその頃その儘と云えば云えるでありましょうか。夕美さんはどうやら劇的な変貌はし損なったようであります。
(続)
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