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あなたのとりこ 37 [あなたのとりこ 2 創作]

「そんな事は疾うに判ってはいるけどさあ」
 日比課長は忌々しそうに云うのでありました。
 制作部の方から片久那制作部長がこちらに遣って来るのでありました。その後に山尾主任と均目さんが出て来て、均目さんが制作部スペースの電気を消すのでありました。制作部もどうやら本日の仕事はここで仕舞いのようであります。
「そろそろ行こうよ」
 片久那制作部長が日比課長にそう声を掛けると、日比課長は机の上に広げていた書類を引き出しの中に片付けるのでありました。本日一緒に宴を張るのは営業部の日比課長と袁満さん、それに制作部の三人と云う顔触れのようであります。
 経理の甲斐計子女史と制作部の那間裕子女史、それに用事があると云っていた業務の刃葉さんと土師尾営業部長は欠席でありました。甲斐計子女史は元々同僚との会社の外での付き合いはあっさりした方だし、那間裕子女史はあれこれ私事多忙のようであるし、刃葉さんは空手の練習にでも行くのでありましょう。それに土師尾営業部長は仕事以外での社員との交流は全く無く、社員の方も彼の人を疎んじているような気配でありましたか。
 頑治さんも入れた六人は会社を出ると神保町駅の方に銘々歩き出すのでありました。向かうのは途中の人生通り中程に在る居酒屋でありました。
 日比課長がすっかり馴染みと云った風情で応対に出て来た店員に人数を申告してから、その店員の同意を得る暇も有らばこそ奥に設えてある畳敷きの座席の方へさっさと歩き進むのでありました。店内はそんなに立て込んではいなかったから、初動を出し抜かれた店員が趨歩で日比課長を追い越し、畳敷きの上に急ぎ上がって座卓二つをくっ付けて、六人が囲むにしては余裕綽々の宴席を調えてくれるのでありました。
 件の六人は先ずはビールで乾杯してから、ぼちぼち運ばれて来る料理に夫々おっとりと手を出し始めるのでありました。
「唐目君は何処に住んでいるの?」
 袁満さんがグリーンアスパラの豚肉巻きを齧りながら訊くのでありました。
「本郷の方です」
「へえ。それなら若しかして会社には歩いて通勤するの?」
「はい。徒歩で十五分程度でしょうか」
「良いねえ、近くて」
 これは頑治さんから一番離れた席に座っている片久那制作部長が応ずる声であります。聞けば片久那制作部長は八王子の方に住まいを構えていると云う事でありました。
「本郷なら大木目製本所と近いのかな?」
 これは山尾主任の質問でありました。
「そこは確か本郷六丁目方に在るんですよね?」
「そう。東大農学部の手前で道向かい」
「自分が住んでいるのは二丁目の方で、近いと云えば近いし、近くないと云えば、まあ、近くないと云った感じになりますかねえ」
(続)
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