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あなたのとりこ 33 [あなたのとりこ 2 創作]

 刃葉さんが池袋の宇留斉製本所から引き取って来たであろう荷物下ろしを手伝うために、頑治さんは倉庫出入り口に向かうのでありました。車は駐車スペースにバックで入って来て、やや斜めに停めてあるのでありました。矢張りがさつな駐車の仕方であります。後ろを倉庫扉にぶつけなかっただけ良かったと云えば良かったと云うものであります。
 刃葉さんは降りて来て車の後部ハッチを開くのでありました。その途端満載された段ボール函の上に載せていたのであろう紙の束が車外に零れ落ちるのでありました。刃葉さんは自分の不始末なのに、如何にも迷惑そうに舌打ちなんぞをするのでありました。
 見ると表面をビニール加圧貼り加工してある大判の地図のような物でありました。成程表面加工してあるために重ねた同士が動き易いから、乱暴な車の停車に耐え兼ねて、慣性の法則に依って後部ハッチ際まで滑って来ていたのでありましょう。
 刃葉さんは面倒臭そうに先ずその落ちた紙の束を拾うのでありました。頑治さんもそれを先ず手伝うのでありました。それから段ボール函の搬入であります。
 見ていると羽葉さんは下ろした段ボール函を手当たり次第全く無作為に、倉庫出入り口近くの空いているスペースのある棚に放り込んでいるのでありました。
「この、引き取って来た商品は何ですか?」
 何となく不安に駆られた頑治さんが作業中の刃葉さんに訊ねるのでありました。
「観光絵地図の北海道と東北だよ」
 先程整理整頓していた中に恐らくそれと思しき品があったのを頑治さんは覚えていて、それは確か倉庫最奥の棚に仕舞われていた筈でありました。取り敢えず出入り口近くの棚に下ろしてから後で本来の在庫位置へ移動する心算なのかも知れませんが、刃葉さんの事でありますからひょっとしたらこの儘ここへ置き放しにする了見なのかも知れません。
 案じた通り刃葉さんは荷を下ろし終えると作業台の方行って仕舞うのでありました。
「観光絵地図の北海道と東北なら、仕舞う所は奥の棚じゃないんですか?」
「ああそうだけど」
 刃葉さんは煩わしそうに応えるのでありました。「後でちゃんと移動させるよ」
 云い草からしてそれは信用ならないと踏んだ頑治さんは秘かに溜息をつくのでありました。ずぼらな刃葉さんは、成程こうやって倉庫の中を収拾不可能な未整理状態にして仕舞うのでありましょう。これでは頑治さんが幾ら律義に庫内の整理整頓に努めたとしても、それは全く無意味な仕業であり、徒労に帰すしかないと云うものでありますか。
 刃葉さんが当てにならない以上頑治さんが働くしかないのであります。頑治さんは段ボール函の横に記してある北海道、東北の別を確認しながらその商品を本来の位置へと移動させるのでありました。ちょっと当て付けがましい行為かと一応刃葉さんの心証を気遣うのでありましたが、まあ、丁度倉庫の整理をしている最中で、その一環であります。
 見兼ねたのか刃葉さんが近寄って来るのでありました。
「唐目君は几帳面なタイプのようだね」
 刃葉さんは苦笑してから頑治さんを手伝い始めるのでありました。自分が几帳面と云うのではなく貴方ががさつ過ぎるのです、と頑治さんは口の中で呟くのでありました。
(続)
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