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あなたのとりこ 22 [あなたのとりこ 1 創作]

「今日の昼一番に刃葉さんが向かう事になっている、宇留斉製本所、でしたか、そこへは自分は付いて行かなくても良いのでしょうか?」
 頑治さんはまた山尾さんの黒カーデガンの背中に言葉を投げるのでありました。
「ああ、今日はいいよ。来週の月曜日に一緒に行ってくれれば。今週金曜日の本郷の大木目製本社の方には行って貰う事になるから、今からその心算でね」
「判りました」
 上の事務所に戻るとドアを入ってすぐの四つの机が固まっている、その土師尾営業部長脇の一番奥の席に今日初めて見る顔が座っているのでありました。土師尾営業部長よりも明らかに年嵩で、紺色に金ボタンのダブルのジャケットを着て派手な赤いネクタイを締めているのでありました。太っている訳ではないながら体格は良く、少し薄くなってきたような頭髪を綺麗に後ろに撫で付けて、露出している額がテカテカと光沢を湛えているのでありました。顔の色は浅黒く鼻梁が大きくて、弛んでいるのではないながら頬の肉も厚そうで、紫色に近い分厚い唇をしていて、一見結構な精力家と云った風貌であります。
 この精力家らしきが山尾さんの後に続いて入って来た頑治さんをジロリと見て、何だこいつは、と云った胡散臭そうな目付きをするのでありました。
「ああ日比さん、帰っていたの」
 山尾さんが勢力家らしきに声を掛けるのでありました。「丁度良かった紹介しておくよ。こっちは今度、業務担当で入った唐目君」
 山尾さんは頑治さんの方に掌を上に向けた手を差し出し示すのでありました。
「ああ、刃葉君の代わりの」
 名前を日比何某と云う精力家らしきが頑治さんを見る目から胡散臭さを消すのでありました。しかし一挙に打ち解けた表情をすると云う訳ではないのでありました。
「こっちは営業課長の日比祖治郎さん」
 山尾さんは、今度は日比さんの方に掌を向けて頑治さんを見るのでありました。
「今度入社しました唐目頑治です」
 課長と云う肩書きでありますから部長へ対するよりは浅く、山尾主任に対するよりはやや深く頑治さんはお辞儀をするのでありました。それに対して日比さんは特段名乗るわけでもなくコックリをするように頭をヒョイと動かすのでありました。
 山尾さんと一緒に制作部スペースへ戻ると、片久那制作部長がそれ迄見入っていた何やらの印刷物の校正刷りらしきから目を離して頑治さんを迎えるのであありました。
「どうだい、倉庫の様子は大まかには判ったかい?」
「はあ。山尾主任に丁寧に案内していただいたのですが、しかし商品をすっかり把握した訳ではないので未だ心許ない感じです」
「そりゃそうだ。入社した今日からいきなり何でも熟せる訳がないし、あれこれ戸惑いながら、追々手際良く動けるようになれば良いよ」
「判りました、有難うございます。ええとそれから、白い紙を一枚頂けませんか?」
 頑治さんはそう云って片久那制作部長に懇願の目を向けるのでありました。
(続)
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